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2013.12.03

第16回

目に見える加齢

角田 光代

目に見える加齢

 年齢を重ねると、徹夜ができなくなったり、脂っこいものが食べられなくなったりと、まあ、いろんな変化が起きるわけだが、起きるたいていは目には見えない。同世代のだれかと「ほら、こんな具合」と見せ合うことができない。

  目に見える加齢の第一歩は、白髪ではないか。シミだのしわだの、贅肉だのいろいろとあるけれど、トップバッターは白髪であるように思う。

 十代のころ、白髪染めというものがあると知り、私はそれを嫌っていた。母親を含め、白髪染めをしている人は、髪が不自然に黒々としていて、その黒々具合が好きではなかった。私は年齢を重ねたら白髪はそのままにして真っ白い頭になるのだ、と思っていた。

 幼かったなあ、と思う。白髪が出はじめて、すぐに頭髪がみな真っ白になるはずもない。ちょろり、ちょろり、とあちこちに出て、ぱっと見れば今まで通り黒や茶の髪なのだが、なんとはなしに疲れて見え、「ああ、白髪が増えたのだ」と気づかされる。白髪があちこちにあると、どういうわけか、疲れたりやつれたりして見える。ここに白髪が、ここにも白髪が、とわかるわけでもないのに、なぜか、全体的に雑な印象になる。か弱そうな白髪の、不思議な威力である。

 幼い日、私が敬遠していた白髪染め女性たちはみな、この「雑な印象」から逃れたくて、一網打尽的に白髪染めをしていたのだろう。

 この白髪にも、ものすごく個人差がある。

 二十代のころに、急激に白髪が増えはじめ、三十代半ばではもうロマンスグレーのような人がいる。なぜかかならず男性である。ここまで一気に白髪が増えると、白髪染め云々などとは考えないようで、多くの男性がそのまま増殖にまかせている。ほとんど完成されたロマンスグレーなので、雑な印象もない。

 学生時代の友人に久しぶりに会ったら、そのようなロマンスグレーになっていて、驚いたことが幾度かある。その後の彼らを見ていると、真っ白にはならず、白の割合の多いロマンスグレーを保ったままでいる。

『あしたのジョー』という私の愛する漫画のラストは、試合を終えたジョーがコーナーに戻り、口元にほほえみを浮かべている場面なのだが、ここでジョーはトランクスも髪も、生々しい傷跡以外真っ白に描かれる。そうして「燃えたよ……まっ白に……燃えつきた……まっ白な灰に……」という有名なせりふが描かれる。幼いころにこの漫画を読んだ私は、これを、あまりの壮絶な人生経験のために、一瞬でジョーは白髪になった、と衝撃とともに理解した。その解釈が正しいのかどうかも、はたまた生死の如何も考えることなく、また、だれかと語り合うこともなく、ずーっとそう信じている(今も)。だから、突然白髪の増えた人を見ると、「何かたいへんなことがあったのではないか(ホセとの試合のような)……」と考える癖がついている。

 同級生男子たちが、二十代なのにロマンスグレーになっていくときも、「この子のプライベートには何かとんでもないことが起きているのではないか(ホセとの試合のような)」と考え、その深刻さにおののいて訊けなかった。

 だけれども、やはり二十代のころに毛が薄くなりはじめ、それを機にスキンヘッドにする男の子も多いことを考えると、若白髪になりやすいという体質なのではないか。

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