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2017.02.15

AV女優のセックス映像は永久に残り続けていいのか

中村 淳彦

AV女優のセックス映像は永久に残り続けていいのか

前回『AV出演を強要された彼女たち』の著者であり、フリー・ソーシャルワーカー・宮本節子氏のもとに「AV出演強要」問題を発端を聞くために取材に向かった中村淳彦氏。後編です。 

90年代AV強要は当たり前だった

 ネットが一般化する90年代以前のAV業界は、騙したり脅したりして出演させる「出演強要」は、間違いなく常態化していた。当時、AV女優は極めて不人気で供給が足りなかったことが理由だ。被害にあう女性があまりに多すぎ、騙されて出演することは半ば公然となっていた。

 2000年前後から自ら出演したいと応募してくる女性がポツリポツリと現れはじめ、アダルトメディアの需要減少と一般社会の雇用崩壊なども重なって、2004年あたりを境に需要と供給が逆転する。AV女優は誰でもなれる職業ではなくなり、スタート地点に立つまでに競争が起こるようになったのだ。その中で騙したり脅したりする出演強要は実際に劇的に減った。

 この10年間は、自分の意志に反して出演するAV女優は、AV業界で普通に仕事をしている限りほとんど見ない。自然現象的に起こったAV業界の健全化は10年以上かかわる関係者の間では共通認識になっており、ほぼ全員に似たような肌感覚はあるはずだ。

 しかし、宮本氏の著書『AV出演を強要された彼女たち』(ちくま新書)には強引なスカウトや契約書管理、脅しや違約金の請求の実態が面々と記される。2016年3月のHRNの報告書発表以降、出演強要は社会問題になり、AV女優当事者による告発も続いた。

かつてのような出演強要の悪習は、現在でも主に単体女優の世界で残っていたことになる。上位5パーセントのAV女優トップ層に対して、男性視聴者やAVメーカーの要求水準は高く、応募でその水準の女性を見つけるのは至難の業だ。そこで強引な人材獲得、契約書で拘束する契約書管理は継続されていたことになる。


人間の哲学がテクノロジーに追いつかない

――タレントになれる芸能人になれるなど、甘言による強引なスカウトによって意に反して出演し、違約金を請求される契約書によって後に引くことができないケースが書かれていました。プロダクションやスカウトによる人材獲得、人材管理方法が問題なのでしょうか。

宮本 スカウトや誇大な求人広告によってAVのシステムに組み込まれるのはキッカケであって、最終的な問題は映像として残り続けることです。そのことによって女性は傷つき、立ち直れなくなる。

――AVメーカーは映像を売るビジネスです。映像が残ることが問題というのはあまりに根源的なことで、当然対立するだろうし、簡単に解決しようがないように思います。

宮本 今日に至るテクノロジーの進化に、人間としての哲学が追いついていないことが問題なのです。要するに十代や二十代のまだまだ未熟な女の子たちは、出演する前段階ではそういう状態になることを想像していない。現実を見て本当にパニックになって、私たちのところに飛び込んでくる。

――なるほど。相談内容は“AV回収・販売停止・削除”が最も多い。商品の回収は、当然AVメーカーは拒絶する。映像が残ることに混乱するケースでは、どういう支援をされるのでしょうか。

宮本 回収できるものは回収、停止できるものは停止を求める。未成年の場合、メーカーは応じることが多い。弁護士を通じて契約破棄、商品は回収、販売停止にしてくださいって申し入れをします。未成年でない場合はその出演に至ってプロセスを丁寧に聞き取り、申し入れできる、できないを判断します。

――前向きに出演して、契約に瑕疵がなければ申し入れはできないということでしょうか。

宮本 それぞれ。そもそも本当に納得して出演しているのであれば私たちのところには飛び込んではこないでしょう。出演するプロセス、納得できなくなったプロセスは異なります。粘り強く200人200通りの方法を考えます。回収に応じないメーカーさんは、もちろんいます。今でもずっとこじれている案件もある。現段階では裁判に持ち込んだケースはないけど、裁判に持ち込む女性が出てくるのは時間の問題でしょうね。

――求人やスカウトで出演に至った過程に瑕疵があるか、ないかを調べるわけですね。過程に瑕疵があれば、交渉の余地が広がると。

宮本 そうです。ただ時効の問題があります。5年、10年前の話はそう簡単にはいかない。ずっと垂れ流されてしまいます。そういうケースでは精神的なトラウマを、どうするかというケアになります。回収、差し止めできる可能性がある限りは、その可能性を追求します。

――繰り返しますが、出演した本人が嫌がっているから回収ではなく、出演過程に問題がある回収しろと要求するわけでしょうか。

宮本 そう単純化していいのかわかりません。自分の最もプライベートな性的行為の映像の扱いについて、現時点では本人は嫌だと言っていることが重要なポイントです。作品というものは本来消えないものです。しかし、自分の性が丸出しにされた重要なプライバシーが、未来永劫、流されていいのかどうか。それについて社会の体制が追いついていない現状があります。さらに女の子たちは、そのリスクを全然わからないまま出演してしまっている。

――出演したことを後に後悔した女の子は、ひどいケースでどのような状態なのでしょうか。

宮本 気の毒ですよ。本当に気の毒。状況はそれぞれですが、たとえば外出できない。道を歩いて、あなた〇〇さんだよね、って出演名で声をかけられたことでパニックになって、何年間も家からこわくて外に出ることができないとか。自尊感情が破壊された、人と会話ができない、仕事ができないとか。精神科に通院している方たちもいます。通常の社会生活が送れない女性がいます。また好きな人ができても近づけなくなるという例もあります。


アダルトビデオは日本の男性社会の象徴

――今、個別で支援されている。法整備も含めて、宮本さんはアダルトビデオがどうなればいいと考えていますか。

宮本 その質問は取材のたびに聞かれます。私には答えようがありません。アダルトビデオは一種の社会現象です。なぜそれが存在できるかは、男性と女性の社会における関係性を考えなければなりません。アダルトビデオは圧倒的に男性が主体であり、女性は客体です。ゆるぎないそういう構造があります。いま、日本は、賃金や労働条件にしても、男性と女性は平等ではありません。その偏った構造が最も象徴的に出ているのが性の問題であり、アダルトビデオなのです。

――圧倒的な男性社会ということですね。その通りだと思います。

宮本 自慰行為は別にして、本来は男性と女性がいて、初めて交換できる性の快楽がある。その性の快楽を得るため、お互いに相手が必要なわけですよね。相手の必要度ということでいえば、本来、フィフティーフィフティなはず。でもアダルトビデオの場合は圧倒的に男性が主体、女性が客体。歪な構造ができあがっています。

――男性視聴者の需要が根本にあって、男性中心の関係者がその需要に応えるというシステムです。客体である出演女性は容赦なく消費されるし、女性たちの負担ばかりが著しく大きくなる。

宮本 社会構造としてのミクロレベル、メゾレベル、マクロレベルと考えた場合。ミクロの現象をどういう風にメゾに落とし、マクロとして制度に落としていくかということに関しては、現段階でなにをどうすればいいのか、よくわからないのが正直なところです。

――まだ調査中ということですね。

宮本 現時点では、私たちは相談に対応するだけで精いっぱいです。私たちはアダルトビデオ全体を見ていません。私たちが見ているのは、現段階では200人程度。これから全体の状況を見るのは私たちではなく、内閣府などの政策側だと思っています


業界関係者は状況を把握できていない

 PAPSやHRNによってAV出演強要が社会問題化してからAV業界は混乱している。逮捕摘発も続き、戦々恐々としている。業界上層部は嵐が過ぎ去るのを待つか、防戦の一方で、業界大手のアダルトメーカーであるCAは、親会社のDMMに売却されてしまった。AV業界側から被害にあった女性たちへの対応がほとんど聞こえぬまま、現状維持で撮影や販売は継続されている。

――AV業界は改善以前に、なにが起こっているのか把握できていないと思います。メーカーはかなり気を使って撮影、プロダクションは詳細の説明をしてから女優たちを斡旋しているようですが、基本的には現状維持の状態です。

宮本 2016年6月にCAに家宅捜索が入り、AVプロダクション・マークスジャパンの幹部が逮捕された事件を受けて、業界団体の知的財産振興協会が今までの反省と、これから改善する声明を出しましたね。海賊版を潰している団体ですよね。クリーン化をどうはかられるのか、様子を見るしかありません。

――マークスジャパンは労働派遣法違反で起訴された。AV撮影は有害業務ということで、プロダクションによるアダルトビデオ撮影現場への人材斡旋はすべて違法ということになってしまいました。

宮本 労働者派遣法を持ちだされたのは驚いたと思います。そもそも一連の強要問題が可視化されたキッカケは、プロダクションが女性に2460万円の損害賠償を求めた事件です。契約はあるけれども、契約の内容は労働者派遣法に違反する。契約を締結しているかどうかが問題ではなく、根本的な契約内容が労働者派遣法に違反するという法論理です。原告のプロダクション側が訴えを棄却して上告しなかったので、これが判例になりました。簡単にいえば、有害業務のために締結された契約は無効ということ。性行為を行うことを知って女性を派遣することは、公序良俗に反する。そういう判断です。だから違約金で悩むことはないと女性たちにはもちろん伝えていますよ。

――AV業界側で声をあげているのは、元女優の川奈まり子さんが社会問題化以降に設立した一般社団法人表現者ネットワーク(AVAN)だけです。主要な方々は、沈黙を貫いている。今、AV業界が怖がっているのは、なにが起こっているのかわからないし、産業が潰されちゃうのではないかということです。

宮本 私もAV業界がどうなるかはわかりません。ただ被害にあった女性を徹底的に支援する、それだけしか言えない。そして、社会全体でアダルトビデオとはどういう存在なのかを考えていかなければならない。結論的には、そこに行くはずです。男性と女性の非対称性が極端に組み込まれているアダルトビデオは、その構造があって初めて成立するビジネス。その構造が変化すれば、また違う形になるでしょう。

――宮本さんが指摘される男尊女卑的な意識は、産業に深く根付いている。根本から見直さないとその構造は変わらないし、あまりに大きな話なので業界上層部の人たちは、末端の女性たちの被害があることに問題意識はあっても手も足もでないでいます。

宮本 女の子たちは有名になりたい。タレントになりたいという願望で飛び込んでくるわけでしょ。それが食い物にされちゃっている。そうではなく女性が普通に働いて、男性と同じように持続継続した形で稼げるようになれば、また話は違ってくるかと思いますけどね。

――現状のアダルトビデオは、どうしても出演女性は使い捨てという構造になっている。AV女優は情報を遮断されているし、本人が希望しても長く続けることができない。技術やキャリアを需要が認めない部分もあります。

宮本 その使い捨てられた一部の女性たちが婦人保護施設に流れてくる。だから職員たちが怒る。本当に社会の男女の非対称性が象徴的にでている。本来はもっと早く社会問題化していかなければなららなかったと思います。なのに、それを知る人たちが誰も今まで発言しなかった。あなたも、そうですよね? だから私みたいななにも知らない人間が、怖いもの知らずで発言をしたわけです。


性を買う側を社会的にどう考えるのか

――AV業界には労働組合もないし、基本的に銀行との付き合いもありません。要するに必要悪として社会の片隅にいた存在です。労働問題として誠意ある対応は欲しかったけど、今のところ何もない。沈黙を貫いているばかりです。

宮本 ただ別問題として、男性側の需要はまだたくさんあるでしょう。その需要は違うところ、ネットに流れていくのではないでしょうか。

――アダルトビデオの市場規模は500億~600億円程度です。大きくありません。現在活躍するAV女優の女の子たちは、いくらでも他に行き場所はあると思いますが、多くのAV関係者にはない。彼らは最後の最後まで粘るだろうし、職を失うほど絞めつければ普通に地下に潜るだろうと予想しています。需要の話がでましたが、宮本さんは売春防止法で男性も加害者として罰するべきだと思われますか。

宮本 買うほうに関しては、今までまったく対策がたてられていなかった。視野にも入っていなかった。売春防止法にも書かれていない。買うほうをどうするのかとは、これからキチンと論議しなくてはいけない。今の日本の社会制度は、買ってもいいけど売ってはいけないという考え方。少なくても買ってはいけないけど、売ってもいいという制度に転換しなければなりません。

――おー。女性たちは売ってもいい、ですか。買うほうを罰すれば、犯罪者だらけになるかも。

宮本 だって、売らなくては食べていけない人たちがたくさんいるのですよ。ものすごい論理矛盾だということは承知しています。私の口からそういうのは、舌から血が出るような話だけれども。でも、そういう現実はある。今まで買ってはいけないけど、売ってもいいよって話は歴史的にも出ていません。

――AV業界は深刻な需要減に悩んでいますが、売春という大きな枠では買う需要はとてつもなく大きい。女性たちへの再分配でもあるし、女性の貧困の大きなセーフティネットになっているのは紛れもない事実です。

宮本 “セーフティネット”と言ってしまっていいのでしょうか?疫学的な調査がないから分かりませんが、10年後、20年後の女性の人生を考えるとき、この“セーフティネット”は、女性も社会も豊かに安定させているでしょうか?また、今はトランジットの時期。買っちゃいけないけど、売ってもいいというトランジットの時期がないと混乱するでしょう。いきなりということには、なりにくい。


AV強要問題はブラック企業問題と地続き

――内閣府が情報を集めたり、公明党がAV強要の対策本部を作ったり、非常に大きな話になっています。35年のAV業界の歴史の中で経験したことのない事態です。すでに現状維持は不可能だろうという領域ということでしょうか。

宮本 本当に話はどんどん大きくなっています。私はレクチャーに呼ばれれば、公明党だろうか共産党だろうが自民党だろうが喜んでいきます。内閣府男女共同参画局はヒアリングをやっていますし。AV業界がどうなるかはわからないけれども、今のアダルトビデオは現状維持では継続できないでしょう。私は外野席にしかいない人間なので内部のことは存じませんが、少なくとも彼女たちの話を聞く限りにおいて、業界は潰れるべくして潰れるだろうと思います。しかし、ネットというテクノロジーが代替するでしょう。個人が個人的に参入して楽しめる世界を切り開きましたから。

 AV強要問題は、一つのプロダクションが出演拒否した女性を追い詰めるために本当に提訴したことから可視化が始まった。それから末端で働くAV女優や元AV女優たちが、支援団体に頼る方法を知り、現在進行形で続々と問題が明るみになっている。女性団体にはそれぞれの理念や思惑があるかもしれないが、存在としては労働組合に近い。AV業界だけではなく、あらゆる産業で末端の労働者に対する違法や理不尽な労働は糾弾されている。AV強要問題は2012年あたりから噴出した一連のブラック企業問題の地続きにあるといえる。

ワタミ、電通などが代表する様々な企業が労働環境の改善を迫られたことと同じく、AV業界も末端で働くAV女優たちの環境改善を強く迫られている。黙っていても絶対に終わらない。AV産業を継続するならば、一刻も早い改善、対応は必須である。

*更新は不定期になりますが、引き続き、取材の経過を記事にしていきます。
 

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ともぴー2017.3.18

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