毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

3月30日(木)14時~20時にシステムメンテナンスを行います

★がついた記事は無料会員限定

2017.02.10

「AV強要問題」はいかにして始まったのか

中村 淳彦

「AV強要問題」はいかにして始まったのか<br />

『職業としてのAV女優』の著者・中村淳彦氏が、AV業界、AV女優のその後を追う。


次々と逮捕されるAV関係者

 2016年6月、アダルトビデオ撮影に派遣したとして、AVプロダクション・マークスジャパンの元社長ら3人が逮捕、労働者派遣法違反で起訴された。

 2016年7月、神奈川県内にあるキャンプ場でアダルトビデオの撮影を行ったとして女優、カメラマン、プロダクション関係者など52人が公然わいせつの疑いで書類送検。キャンプ場は貸し切り、公然わいせつには該当しないという声もある中での摘発で、結局全員が不起訴となる。

 2017年1月、カリビアンコムに無修正動画を提供したわいせつ電磁的記録等送信頒布の疑いで、AV制作会社ピエロの社長ら6人が逮捕。社長のみが起訴され、他5人は処分保留で釈放される。

 これらはすべて2016年3月、「国際人権NGOヒューマンライツナウ(HRN)」の「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害調査報告書」と題された報告書が発表され、“AV強要問題”が社会問題化してから起きたことだ。

 HRNがアダルトビデオの問題を大々的に訴えた大きなキッカケは、あるプロダクションが2015年に、当時20歳だった現役女子大生に対して出演を強要した事件だ。プロダクションはAV出演を拒絶する女子大生に対し、2460万円の損害賠償を求め提訴した。裁判所はプロダクション側の要求を退けて事件は収束したが、これが、AV出演の契約書が無効である判例となり、“AV強要問題”が社会問題化したのだ。


『AV出演を強要された彼女たち』の宮本節子氏を訪ねる

 2016年12月、HRNと協力してAV強要問題に取り組む「ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)」のフリー・ソーシャルワーカー・宮本節子氏が『AV出演を強要された彼女たち』(ちくま新書)を上梓する。

 著書には様々なケースがルポされているが、騙された形でスカウトされて契約してAV出演を余儀なくされたり、契約不履行で違約金を要求されたり、AV出演して後の人生が狂う女性たちの痛々しく、生々しい現実が描かれていた。

 騒動の発端となったHRNの報告書発表からしばらく経ったが、私は取材をお願いした。2017年1月、AV強要を問題提起するソーシャルワーカーの宮本節子氏のところに向かう。指定された場所は、渋谷男女平等・ダイバシティセンター<アイリス>。渋谷はAVメーカーやプロダクションが密集するアダルトビデオの主戦場でもある。


呼びかけたわけではない。相談が来てしまった

――いったい、なにが起こっているのかお聞きしたくて伺いました。

宮本 私たちもAV業界が現在どういう状況なのか、どのような世界なのか全然わかっていません。AVに出演を強要された女性たちはこちらが呼びかけたわけでなく、私たちのような支援者を探し求めて女性のほうから相談が来てしまったのです。そこで初めて実態を知りました。私たちはAV業界の構造や慣習について知識がないなか、女性たちの相談に一つ一つ対応しながら、彼女たちに学びながら試行錯誤しているのが現状です。

――ご著書を拝読すると、PAPSは設立が2009年、AVを強要された女性からの相談がはじめて来たのは2012年になっています。2012年1件、2013年1件と極めて少ないですが、2016年は155件と激増している。HRNの報告書によって社会問題化した影響でしょうか。個人的には、2012年に強要問題が発覚したのは遅いという印象があります。

宮本 2012年では遅いのは、外から見ればそう思われるでしょう。でも私たちの団体の中心は、婦人保護施設の職員さんたちです。私はソーシャルワーカーですけれども、中心になって動いているのは女性支援の職員です。自分たちが働く婦人保護施設にいる利用者のケアで精一杯で、外でどういうことが起きているのかリアルタイムにわかる立場ではありません。

――婦人保護施設は1956年の売春防止法によって制度化された公共施設ですね。
   
宮本 売春防止法は1956年に成立して以来、基本理念にまったく変更がありません。福祉関係の法律は社会の激動の中で理念は常に変わってきました。女性に関して言えば、女性の尊厳や平等に対する考え方、ジェンダーなどの概念など導入され著しい変化を遂げています。

この歴史的背景を考えるとき、売防法の理念が制定後一度も見直されていないのは驚くべきことです。邪推ですけど、女の問題はどうでもいいし、特に女が性を売る問題はどうでもいいってことかなと思ってしまいます。ご覧になればわかる通り、女性差別のとんでもない時代遅れの法律。戦前の性を売る女を卑しめる風潮がそのまま法律に反映されていて、それが今でも続いているのです。

――AV業界では、婦人保護施設職員を中心とした団体を総じて“女性団体”“フェミニスト団体”などと呼んでいます。AVやポルノに対する反対や抗議は、これまでもたまに起こっていましたが、婦人保護施設の職員たちが中心になっていることはあまり知られていません。

宮本 この20年ほどの間に、職員たちに「売春防止法を内部から変えていかないと」という考えが生まれました。職員たちの話し合いが始まり、私は、その中に外部委員みたいな立場で招かれました。利用者さんたちの状況をみると、1956年に法律ができたとき以上に、女性の性の商品化は進んでいます。その現状を職員たちは目の当たりにしているわけです。そこには売春だけではなく、ポルノグラフィなどに関連した問題がついてきます。それに巻き込まれた女性たちが、ボロボロになって婦人保護施設にたどり着く現状があるわけです。

――性の商品化に巻き込まれた女性たちの悲惨な人生が、婦人保護施設に集積されているわけですね。それが長年続く、性の商品化と女性団体の対立の背景にあると。

宮本 たどり着いてくる女性たちの状況を改善していくためには、売春防止法の理念とか制度の枠組みを根本的に変えなくてはなりません。そうしないと自分たちの目の前にいるボロボロの女性たちは、社会的に生活再建をすることができないのではないかという、そういう発想です。


積極的にAVに出演する女性が増えたと思っていたのに

 各都道府県には売春防止法に基づいた婦人相談所がある。福祉事務所の相談員やソーシャルワーカーが困窮や生活難、DVなどに苦しむ女性を婦人相談所に紹介して、婦人相談所の措置決定で婦人保護施設に送致する。彼女たちは、生活保護だけでは支援が足りない、1人では自立した生活ができないからだ。

 AV業界は売上不振に苦しみながらも、出演したい女性は増え続け、AV女優はむしろ供給過剰にあった。騒動がはじまった2016年3月のAV業界は、積極的にAV女優を仕事にする女性たちがほとんどを占め、それなりに平穏にまわっていた。そんな中に“AV強要問題”が突きつけられた。

――日常のケア業務で忙しい婦人保護施設の職員たちは、どうしてアダルトビデオに問題意識を持つようになったのでしょうか。

宮本 先ほども申しましたように、職員たちは国に無視されて取り残された売春防止法に疑問を抱いていました。売春防止法がどういう理念で、どういう骨格になっているか勉強を始めたわけです。その過程で、たまたまバクシーシ山下氏が出版した『ひとはみな、ハダカになる。(よりみちパン!セ)』(理論社、2007)を見てしまった。

山下氏は青少年向けにアダルトビデオの啓発書みたいなものをお書きになって、その存在を知った職員たちが、まあ猛烈に怒ったわけです。ポルノをあたかも女性の職業として、良いものであるかの如く、知らしめるような青少年向けの啓発書はいかがなものかと。そして、理論社に対して実際に抗議活動を始めました。

――理論社は児童書の老舗出版社です。アダルトビデオ関連の本を子供に向けて販売したことが問題となったわけですね。

宮本 抗議に関しては婦人保護施設や女性団体だけではなく、性暴力被害を受ける人たちが集積する場所、つまり、児童養護施設とか、軽度の知的障がい者施設、母子生活支援施設などに狙いを定めて、全国的にビラを撒きました。すると、各団体からは当然抗議するべきという声があがりましたし、児童養護施設、知的障がい者施設の職員からの反響もすごかった。自分のところにはこういう被害を受けた人がいるという手紙も届きました。アダルトビデオが女性を性商品化することでいかに女の子たちが巻き込まれているか、とか。

 婦人保護施設というのは福祉業界の中ですごくマイナーな施設です。さらにその末端にいる現場職員たちが動き、声をあげ、結果的に10000筆の署名が集まった。まあ、理論社はまったく耳を貸しませんでしたが。

――バクシーシ山下氏の著書の内容ではなく、バクシーシ山下氏の著書を児童書の出版社が子供に向けたことを問題視したわけですね。

宮本 もちろん山下氏には、表現の自由がありますから。その抗議活動をキッカケにせっかくこうやって動いたのだから、もう少し形あるものにしていこうというのがPAPSの始まりになります。PAPSができたのは2009年で、そういう経緯です。映像作品を見ないまま抗議はできないので、山下氏の代表作は見ましたよ。

――おそらく有名な「女犯」でしょうか。90年代前半に話題になった18禁の映像作品です。90年代前半にも「女犯」に対して女性団体による抗議活動がありました。

宮本 女性を徹底的に侮蔑し、侮辱して痛めつける。そして、さらし者にする。そういう文脈自体にウンザリしました。他の映像作品の中に女性を侮蔑したり、侮辱したりする場面はあるけれども、コンテクストそのものはそれが目的ではない。ですが山下氏の映像作品は、女性を侮蔑し、さらし者にすることがコンテクスト。女の性的身体をおもちゃにここまでできる、ここまでできる、という内容に怒りを覚えました。出演している女性が納得しているのか、納得していないのか知らないですけれども、本物とか演出とかに関係なく、作品の内容に引いてしまったわけです。

――施設職員たちは児童出版社の出版物からはじまって、バクシーシ山下氏の「女犯」を知り、アダルトビデオに注目して社会問題化しようという流れになっていったのですね。

宮本 仮に演出としても医療でいうインフォームドコンセント(詳しく説明を受けたうえでの同意)、事細かく、ワンシーンごとに、こういう風にあなたはする、とすべて説明されたら、ほとんどの女性は出演を受けないのではないでしょうか。


早急に求められる業界の改善

 宮本氏の『AV出演を強要された彼女たち』には、PAPSが相談援助したAV強要された女性たちの生の声が描かれる。タレントになれる、高収入が得られるなどの勧誘に乗って、内容を理解しないまま契約書にサインしてアダルトビデオ制作のプロセスに組み込まれる女性たち。その後は引き返すことができず、悩み混乱してPAPSに駆け込んでいる。

 相談件数は2012年1件、2013年1件、2014年29件、2015年83件、2016年8月末まで104件と、2015年を境に飛躍的に増える。2015年のプロダクションによる2460万円の損害賠償請求事件が社会に可視化されたことが大きい。AV業界は自らで地雷を踏んでしまったことになる。

 相談内容は一人の中で重複しているが、“AV回収・販売停止・削除”が77件と最も多く、“騙されて出演”70件、“意に反した販売”55件、“AVを辞めたい”35件、“違約金問題”33件、“出演強要”22件と続く。アダルトビデオは年間数万本が発売される。AV業界からは極めて少数の悪徳な一部にしか過ぎないという声もあるが、私個人は数の多さに驚いた。早急な労働環境の改善が必要な十分に大きな人数といえる。

(後編につづく。2月15日公開予定です)

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

中村淳彦『職業としてのAV女優』
電子書籍はこちら
書籍はこちら(Amazon)

 

中村淳彦『ルポ中年童貞』
電子書籍はこちら
書籍こちら(Amazon)

 

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

この記事を読んだ人にはこんな記事もおすすめです
  • 我欲にまみれた20兆円産業の闇を突く。
  • 過去最大ボリュームでお届けする、著者渾身の一作!
  • 夫との最後の日々が教えてくれた、人生の真実。
  • 新聞にこそ、世の中の仕組みが詰まっているのです!
  • 爆笑、号泣。こんな猫本ずるすぎる! !
  • このまま足踏みはしていられない――。
  • “イヤミスの女王”との呼び声高い真梨幸子の作品はこちら
  • ひたむきにあがき続ける女性を描いた、胸が締め付けられる短編集
  • 心に「ない」を抱える人々を痛いほど繊細に描いた代表作
  • 愛する父母との最後を過ごした“すばらしい日々”
よく生きることと、よく死ぬことは、同じこと。
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!