ブス、地味、存在感がない、女なのに女が怖い……コンプレックスだらけの自分を救ってくれたのはエロの世界だった! 女性AV監督、映像ディレクター、劇作家・演出家として活躍するペヤンヌマキさんのコンプレックス克服記『女の数だけ武器がある。』が2月7日発売になりました。彼女は生きづらい女の道をいかに歩んできたのか――? 「1章 エロの仕事をして、自分の中のブスが救われた」より一部を抜粋してお届けします。

 

 とんでもない世界に足を踏み入れてしまった

 あれは2000年、23歳の春。私は人生終わったと思いました。

 AV撮影中のスタジオの片隅で、ピンクローター片手にプルプル震えながら泣いている私に、一台のカメラが向けられていました。

 ADとして初めて付いた現場で、私は重要な小道具であるバイブを忘れてしまったのです。前日に準備したはずのバイブは小道具バッグの中をいくら探しても見つからず、そこにはピンク色のローターがただ一つ、ぽつんとあるだけでした。

「ローターじゃダメですかね……?」

 恐る恐る監督に尋ねると、

「バイブじゃないとダメなんだよ! 次のシーン撮影できないじゃないか、どうしてくれるんだよオマエ」

 恐ろしい顔をした監督に詰め寄られてパニック状態に陥ってしまった私は、ローター片手にただシクシクと泣くことしかできませんでした。

 すると突然、監督が黙って私にカメラを向けてきたのです。あまりに予想外の事態に頭が真っ白になり、撮らないでください、とも言えず、私はただただ泣いているところを撮影され続けました。

 そしてその映像は、“バイブを忘れて泣く新人女AD”として、AVの作品中に使われました(AV女優がメインのAVで、ただのいちADである私がなぜ被写体になったのかについては後述します)。バイブを忘れて泣いている惨めで滑稽な自分の姿がAVに映って全国に出回ってしまう。そんな恥さらしなことがあるだろうか。

 私はその時、人生終わったと思ったのでした。

  大学を卒業して1年くらい経った頃でした。学生時代から演劇をやっていた私は、就職もせず退屈なアルバイト生活を送っていました。生活費を稼ぐだけで過ぎていく毎日に限界を感じていた頃でした。そんな時にインターネットでたまたま見つけた「アダルトビデオのスタッフ募集」の告知。

「エロを仕事にするなんて、なんだか面白そう」。そう思ったのは、特殊な世界を覗(のぞ)き見したいという好奇心と、何者でもない自分の平凡な人生を変えてくれる何かがあるかもしれないという漠然とした期待が心のどこかにあったからでした。

 短期間のアルバイトのつもりで面接を受けたら、なんと社員として採用され、私はAV制作会社シネマユニット・ガスに入社したのでした。

  でも、特殊な世界に何も考えず飛び込む度胸はあっても、出演までする覚悟はない、中途半端な度胸でした。カメラの前で脱がされたわけでもなく、ただバイブを忘れて泣いているところをちょこっと撮られただけなのに、本気で人生終わったと思ったのでした。もちろん、そんなことなんかで人生は終わらないのだけれど。

 初めてのAV撮影現場で、初めて見るAV女優とAV男優のセックス。それ自体には全く動じず、むしろ興味津々に見ていた私は、自分にカメラを向けられて初めて、気づいたのでした。

 とんでもない世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。 

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