上司への報告、部下への指示、クライアントへのプレゼン、新商品の売り出し、入学・入社面接、司会やスピーチ、飲み会・合コン……日常生活のあらゆる場面で役に立ち、一生の武器になるのが「一言力」すなわち「短く本質をえぐる言葉で表現する能力」。
 コピーライターの川上徹也さんが、「一言力」を「要約力」「断言力」「発問力」「短答力」命名力」「比喩力」「旗印力」の7つの能力に分析し、どんな人でもすぐ、「人の心をグッとつかむ一言」が言えるようになるノウハウを伝授します。今回は「比喩力」についてです。

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■比喩を制するものは、選挙を制す

「一言力」に必要な能力の6番目は「比喩力」です。
 何かを説明する時、別の何かにたとえて表現することです。話し言葉においても、書き言葉においても、うまい「比喩」を使える人は、一目おかれます。

 うまいたとえ話があると、本来長々説明しなければならないことが、シャープにまとめられます。つまりわかりやすくなるのです。
 また、多くの比喩は、頭の中に映像が浮かびイメージしやすくなるので、受け手に心地よい印象を与えます。
 また、その表現が斬新だと、人に発見を与えることができます。

 2016年年7月に実施された東京都知事選は、この「比喩力」によって勝負が決したと言っても過言ではありません。
 告示の2週間前、いち早く小池百合子氏が立候補を表明しました。その記者会見で以下の発言が出ました。

「崖から飛び降りるつもりで、その覚悟で挑戦したい」

 実際に飛び降りるわけではないので、冷静に考えれば、これはただの比喩です。
 しかし翌朝の新聞やネットニュースの見出しでは、ほとんどでこの「崖から飛び降りる覚悟で」というフレーズが使われていました。そしてこのフレーズが都知事選の行方を決めてしまったのです。

 その後、立候補を検討していた増田寛也氏が「スカイツリーから飛び降りるくらいの覚悟が必要」、石田純一氏は「ヘリコプターから飛び降りるようなもの」という表現を使いました。
 厳しい言い方をすると、「崖から飛び降りる覚悟で」という比喩にのっかってしまった時点で、勝負はついていました。あとから出てくる候補は、まったく別の比喩を使って空気をリセットする必要があったのです。

 さらに選挙戦で小池陣営は、自陣のテーマカラーである緑を「百合子グリーン」と名づけました。この「命名力」は見事です。ただの「緑」という色に自身の名前をつけることで意味を持たせたのです。また「演説に緑のものを持って集まって」という呼びかけも秀逸でした。映像では、「緑」を持った人間が集まってくる様子が映えるからです。

 そして選挙の結果は、ご存じのように小池百合子氏の圧勝。
 比喩を制したものが選挙も制したのです。

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