あなたの周りに、タバコのポイ捨てを注意するような人はいますか。
 売れ行き好調な
『絶対正義』(秋吉理香子・著)のヒロインは、些細な違反や罪を見つけ次第、家族でも、親友でもすぐに警察に差し出す新種のモンスター女です。異常すぎる正義感の持ち主と仲良くしてしまった、アラフォー女性たちの怖すぎる物語を3回に分けて徹底解剖! 第3回は、著者の秋吉理香子さんをインタビュー! イヤミスの傑作『暗黒女子』も4月から映画公開され、注目を浴びる作家の執筆スタイルとは?

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◇作家デビューするまでに書いた作品は、100以上

「私、太宰治の『斜陽』を読んで衝撃を受けて、“小説家になりたい!”って思ったんです。中学一年生の時だったんですけど」

 ミステリー作家という印象だけで秋吉さんを捉えようとするとこぼれ落ちる何かがある―。そんな話題を秋吉さんに振った時に出てきたのが、彼女の豊かな読書体験だった。

「母は大学生の時に演劇をやっていたんですけど、だからなのか、カルチャーに対して寛容だったんです。漫画でも本でも何でもOK。しかも、母も読書家だから、同じ本を読んで感想を言い合ったりして。小学生の時は世界文学全集とかそういうのを読んでいたんですけど、中学生になって、家にたまたま置いてあったカフカの『変身』を読んだんです。すごい衝撃を受けちゃって。母に興奮しながら感想を言ったら、自分とは違う角度からの感想が母から出てきたんです。私はまだ子供だったから、“人間が虫になった”ってことに驚くほうが強かったんですけど、母の感想を聞いて、小説の読み方ってたくさんあるんだなぁって、ますます楽しくなったんです」

 それまではどちらかというと、起承転結がはっきりしていて、明るい物語を読むことが多かったという秋吉さん。そんな秋吉さんにお母さんが勧めたのが、太宰治の『斜陽』だった。

「カフカの時はそうは思わなかったんですけど、太宰の『斜陽』を読み終わった時に“私も小説を書きたい”って強く思ったんです。『斜陽』って没落貴族の話じゃないですか。決して明るい話ではない。小説はそういうことも書いていいんだっていうことにすごい興奮したんです。あと、一番びっくりしたのが、お母さんが庭でおしっこをするシーン。それまでの私は、小説は人間のキレイなところ、美しい部分を書くものって思っていたところがあったんです。でも、人間のおかしなところとか汚い部分も小説で書いていいんだということに気づいてしまって。どんな人でも、人に言えないことってあるじゃないですか。闇の部分というか。私はそういうところにすごく興味があるんです」

 人間の闇の部分に光を当てるスタイルは秋吉作品の特徴のひとつ。だが、すぐにそれが書けたわけではない。

「『斜陽』を読んで以降、小説を書くことに挑戦はしていたんですけど、書けないんです。出だしは書けても、最後までは書けない。結局、一九歳の時に大学の授業の課題で書いた三〇枚が、初めて完成した小説作品でした。読むことと書くことって全然違うんですよ。一三歳で“書きたい”と思ってから、六年もかかってしまった。しかも、その作品が……」

 言いよどむ秋吉さん。だけど、当時のことを思い出したのか、どこか楽しげな表情である。

「課題なんで、評価されるんですね。テーマは自由だったから何を書いてもよくて。星五つで評価されるんですけど、私の作品は星二・五(笑)。三〇枚という短いものだったとはいえ、初めて書いた小説がどうにも微妙な評価というのは、やっぱり落ち込みましたねぇ。でも、私はその先生のことを信頼していたし、自分で言うのも何ですけど、これは星二・五だよねと納得する部分もあって。立ち直るのも早かったです。逆に“もっと頑張らなきゃ”と思って、その後も課題に挑み続けました。最高で星三つしかもらえなかったですけど(笑)」

どんな小説だったんですか? と聞くと、秋吉さんは笑いながら教えてくれた。

「ぼんやりとした話ですよ。私の従弟が重い心臓病を抱えていたんですけど、その彼を主人公にした“大阪の日常”という感じの。大阪弁でしゃべり倒す明るい物語だったんですけど、物語っていうには起伏がなさすぎる小説でした」

 いきなり才能が花開いたわけではなかった。当時の秋吉さんは、「ぼんやり」と思いついたシーンを、内なる問題意識と合体させることができなかった。だが、秋吉さんは“小説家になる”という夢を諦めない。大学を卒業し、「課題」という形で自分を追い立ててくれるものがなくなっても、小説は書き続けた。

「最低でも毎年一作品はどこかの文芸誌の賞に応募していました。書けば書くほど、小説の書き方がわかるかというとそんなこともなくて。もちろん、始めの頃よりはうまくなっていったと思うんですけど、小説っていくつも壁があるんですよね。本当に難しい。いつになったら思うような小説が書けるんだろう? いつになったらデビューできるんだろう? ってずっと悩んでいましたけど、小説を書くのを止めようって思ったことはなかったですね。デビューするまでに一〇〇作以上は書いたと思います。長いものもあれば短いものもありましたけど」

◇パソコンでWordを立ち上げてはじまる、セルフブレスト

 陽の目を見なかった一〇〇作以上の小説は決して無駄にはならなかった。ある日、ついに夢が叶う。二〇〇八年「雪の花」が第三回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞したことにより、念願のデビューを果たした。

「カフカとか太宰とかに影響を受けたのがスタートなので、もちろん純文学作品を書いていたんですよ。文芸誌の新人賞でデビューしてそのまま芥川賞を受賞するという王道を夢想していたくらいですから(笑)。でも、不思議ですよね。純文学作品のつもりで書いた『雪の花』を読んでくださった編集の方が“ミステリーを書いてみませんか?”とおっしゃってくれたおかげで、今の私があるんですから。人の縁に恵まれているんだなって感謝しています」

 デビューに至るまでに書き上げた一〇〇作以上の小説。その作品を書く時間の中で、秋吉さんは読み手から書き手に生まれ変わっていったのだろう。人の縁にも恵まれた。だが、決して順風満帆にはいかなかった。

「それまで純文学作品をずっと書いてきたので、ミステリーの書き方が全然わからないんですよ。急いでミステリー作品を読み漁ったのですが、いきなり書けるわけがない。どうしよう、どうしようってずっと考えていたんですけど、ミステリーといえば殺人事件だと思って、セルフブレインストーミングをすることにしたんです。パソコンの前に座って、Wordを立ち上げて、自分と会話するんですけど……」

 自分と会話? このインタビューの中で最も言いにくそうにしている秋吉さんを促すと、何ともチャーミングな執筆スタイルが出てきた。

「“ミステリーを書くんだって”“ミステリーってなに?”“殺人事件が起きるやつじゃないかな”っていう感じで、Wordに文章、というか会話ですけど……を書いていくんです。“殺人事件なら刑事が出てくるんじゃない?”“でも、刑事のこと何も知らないし”とかいう感じで、誰にも見られないのをいいことに、延々と自分と会話し続けるんです。“じゃあ何なら書ける?”って、疑問形で自分の脳内にあるものを炙り出していったら、女子会が出てきて(笑)。そうしたら、“女子会で闇鍋”っていう面白そうなシーンがパッと浮かんで。でも、“闇鍋はいいけど、それが物語とどう絡むの?”ってまた疑問形で自分を追い込んでいって……。そういうふうにして作り上げたのが二作目の『暗黒女子』なんです」

 秋吉さんのことを、颯爽と現れた新星だと思っていた。だが、お話をうかがいながら見えてきたのは、一三歳の頃に抱いた「小説を書きたい!」という純粋な衝動を抱えたまま真っ直ぐに努力し続ける人の姿だった。

「書くのは苦しいです。すごくしんどい。でも、書き上げた時の達成感は忘れられないし、それが読者に届くことを思うとやめられないんですよね。大それた目標ではないですけど、書き続けることがいまの目標なんです。ずっと現役でいたい。だって、夢が叶ったんですから。私の作品を読んでくれた方が、“おもしろかった”って思って本を閉じてくれることを想像したら、どこまでも頑張れる気がするんです」

 夢に向かって努力し続けたかつての文学少女は、読者を魅了する小説家として、いまを生きている。 

 

『絶対正義』の特集は、小説幻冬12月号に掲載しています。
秋吉さんの最新刊を、ぜひお手にとってお楽しみください。

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