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2017.01.27

2017年はキャラノベでスタート!

パリを舞台に名コンビが大活躍
『クラーク巴里探偵録』(2)

三木 笙子

パリを舞台に名コンビが大活躍<br />『クラーク巴里探偵録』(2)

2017年最初のキャラノベは、『露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2』。明治時代のパリ、曲芸一座で働く敏腕番頭・孝介と料理上手で一途な見習いの晴彦が、贔屓筋から持ち込まれた難題を解決します。このシリーズの第1弾である『クラーク巴里探偵録』の試し読みを3回にわたってご紹介! ストーカー退治を請け負う「凱旋門と松と鯉」をお楽しみください。

◇登場人物紹介
片桐孝介   無口で几帳面。曲芸一座の贔屓客を相手にする名番頭
山中晴彦   家事が得意で世話好き。座長にスカウトされた料理番
座長     美しい傘芸を披露する曲芸一座のボス。無類の女好き

* * *

 三ケ月ほど前、彼と出会ったばかりの頃、こんなふうに話ができるようになるなど思いもしなかった。
 だが今、少しずつだが、孝介が晴彦に信を置き始めてくれているのが分かる。
 それが嬉しかった。
 と、同時に胸の痛みも感じた。
 己がこの異国の街に来た理由を思い出すたび、孝介の前から逃げ出したくなった。
 しかし、芝居の幕はすでに開いており、それを止めることができるのは晴彦ではなかった。
「どうした、ハル。具合でも悪いのか」
 心配そうな顔をした孝介に、晴彦は笑ってみせた。
「何でもありません。それにしても不謹慎な話ですが、そんな美女に会えるなんて楽しみですね」
「そうだな」
 さして気がなさそうに孝介が答える。
 本多は二人に一度下宿屋へ来てくれと頼んでいった。
 件くだんの男は毎日のように姿を見せるらしく、マダムは気味悪がって外出することさえ嫌がり、買い物には同居している父親が必ず付き添っていくらしい。
 その男の正体を突き止めて、二度と姿を見せないよう言ってきかせ、マダムを安心させてやりたいのだ、と本多は言った。
「今回は難しそうですね」
 晴彦がため息をついた。
 先ほどの本多ではないが、頭に血が上っている男に話が通じるかどうかはなはだ心もとない。
 何でもいいさ、と孝介は立ち上がった。
「本多さんの望みはマダムの気を引くことだからな。岡惚れしている男がどうなろうと知ったことじゃない」
「今回、俺たちはキューピッド役ですか」
 孝介の後を追いながら、弓を引く真似をした晴彦に、孝介が振り返って「逆かもな」とつぶやいた。
「それはどういう……」
「本多さんの下宿屋に行ってみなければ何も分からないが、その前にハル、悪いが二つばかり頼まれてくれ」
「何でもおっしゃってください」
「日本人に評判のいい下宿屋で空きがないかどうか」
「はい」
「それから個人的に、色っぽい料理上手な美人の知り合いがいないか?」
「いませんよ。何の冗談ですか」
 目をむいた晴彦に、孝介が大真面目な顔で言った。
「いや、本気だ。──まあ、餅は餅屋というからな」
 店を出た孝介がオペラ座を背にして歩き始めた。
 二人の貸間アパルトマンとは逆の方向である。
 家路を急ぐ人々の隙間を縫うようにして、どんどんと歩いていってしまう孝介の背中を晴彦は小走りに追いかけた。
 何事か思いつくと、孝介は説明もせずに突然行動を始めてしまう。
 あれこれ訊ねると「どうして分からないんだ」と言いたそうな顔で不機嫌になる。
「どこへ行くんですか、孝介さん」
「だから餅屋だ」
 孝介が振りむきもせずに言った。
 階段を上りきると、目指す部屋からはちょうど客人が帰っていくところだった。
 溢れんばかりに豊満な女性である。
 彼女は扉の前で繰り返し部屋の主に甘い言葉を投げかけて、ようやく階段を降りていった。
「以前は清楚な女性が好きだとおっしゃっていませんでしたか」
 部屋に入るなり孝介はぶっきらぼうにそう聞いた。
 寄りつきの正面に広い居間がある。
 長椅子や安楽椅子がいくつも置かれており、そのひとつに着物姿の男が寝そべっていた。
 四十は越えているというが、そうとは見えぬ若々しい顔つきである。
「あほう。清楚な女性も、だ。限定したら、その枠からこぼれ落ちる女が出る」
 にっと笑って、座長が身体を起こした。
「いつか刺されますよ」
「俺がそんな下手を打つか」
 孝介が腰に手を当てて座長を見下ろした。
「楽屋に入る順番で揉もめている女性たちの交通整理をしているのはハルなんですよ。少しは裏方の身にもなってください」
「ほう」
 座長が視線を向けたので、晴彦は心持ち背筋を伸ばした。
「道理で最近、俺目当ての女客同士の喧嘩が少ないと思った。理屈ばっかりこねやがる孝介じゃ、女の舵取りはできねえからな」
「舵取りできる人数に抑えていただけると助かるんですが」
 ふん、と顔を背けた孝介を無視して、座長が晴彦に向かって続けた。

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プレゼント情報

『クラーク巴里探偵録』を抽選で5名様にプレゼントいたします!

※このプレゼントの応募期間は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。

 ※応募締切は2月27日(月)23:59です。
※幻冬舎plusの無料会員の方のみご応募いただけます。まだ会員でない方も、
こちらから無料の会員登録をしていただくとプレゼントに応募ができます。

関連書籍


『クラーク巴里探偵録』

第1話 幽霊屋敷 
ベルナール家のご子息の部屋にだけ現れる幽霊の正体とは?

第2話 凱旋門と松と鯉 
下宿屋の美人マダムのストーカーを追いつめる!

第3話  オペラ座の怪人 
本物そっくりの絵に彩られた部屋で起こった盗難事件の真相

第4話 東方の護符 
孝介と晴彦を引き裂く衝撃の真実が明らかに……
→書籍の購入はこちら(Amazon)

『露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2』

第1話 光と影 
売れっ子ダンサーマドモアゼル・オンブルの秘密

第2話 オスマンルビーの呪い 
皇帝が愛したルビーの呪いとは?

第3話 露西亜の時間旅行者 
突如現れた予言者が告げた、那須一座座長の死

第4話 遥かなる姫君 
園芸商から舞い込んだ、宝の地図探し
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