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2017.01.18

「私」というゾンビが再生できなくなるまで

小池 龍之介

「私」というゾンビが再生できなくなるまで

 これまで本連載で記してまいりましたように、「私」という、心身の主人のようなものは実在しません。それは、気づきと、集中と、精神的無重力感のトレーニングを徹底しているなら、たしかに分かってくるような、事実なのです。

 興味深いことに、けれども、「私はたしかに、存在するんだ!」という実感は、まるでゾンビのように繰り返し繰り返し生き返っては、いわば何かに取り憑きます

 その何かは、典型的には、こんなものです。

 たとえば、「『私』はいないんだと、分かった」という考えに取り憑きます。言い換えると、「『私』はいないんだ」という考えに執着し依存することによって、実質上は、「『私』はいないんだ」と考えている私が、たしかに、ここにいる!……といった感覚が、無自覚的に生じることは、よくあるものなのです。

 あるいは、「『私』はいない、と分かったおかげで、前より幸せになった」という、比較して悦に入る考えも、しばしば湧いてくるものです。が、もちろんそれも、「前より幸せになった」と感じている私が、たしかにここにいる、という存在感を生み出しています。

 このようにして、「私」というのは単なる幻影であってどこにもいない、ということが腑に落ちて身も心も軽くなってゆくプロセスそのものにも、「そのようなプロセスを経ている私がいる」といった形で、「私」という亡霊が取り憑いて、復活を果たそうとするのです。

 では、どうすれば良いのでしょうか。

 提案したい処方箋は、ごく単純なものです。「『私』はいないと分かった!」と感じても、「おかげで前より良くなった!」と機嫌が良くなっても、それをどうしようともせずに、眺めておくだけのこと。ただ、のんびりとした無重力状態を保ちながら、「分かった!」と子どものように喜んだり、「前より良くなった!」と酔い痴れたりしている心の状態に、気づいておくのです。

 そうした距離感が保たれているなら、「分かった!」も「良くなった!」も、なぜか勝手に湧き上がってくる習癖のようなものにすぎず、それを真に受けるには価しないと、分かります。真に受けず、ただ気づき続けているなら、ひょっとすると次々と、「幸せだなあ」とか「これからは以前のような失敗はもうないだろう」といった形で、「良い私」を褒め上げるような考えが、ぷくぷく、ぷくぷくと浮かび上がってくるかもしれません。

 実際、劇的にこうした変化を体験する途上にある瞑想の生徒さんからは、「どれほど自分が前より良くなったか」についての話を聞かせてもらうことがあるものです。この際に大切なのは、そうした考えに夢中にならないことでありまして、なぜなら、その考えを肯定することにより、「そう考えている私がいる」という発想にいつのまにか侵食されて、瞑想がそこで停滞するからです。

 そうした考えを肯定するかわりに、ひたすら喜んだり己を褒めようとする考えが次々に湧いてくるのをのんびり眺めながら、よく観察してみることです。「私」というものが実在するなら、己を褒め続けて慢心にはまりたいと希望していない限りは、次々に慢心をわざわざ生じさせたりはしないはず、でしょう?

 つまり、それら泡(あぶく)のように次々に押し寄せる「良くなった!」という思いも、調べるなら、機械のように勝手に出てくるだけで「私」ではなく、それゆえ肯定するに価しない、と分かれば、執着が取れてきます。

 すると、そうした慢心が出てきてくれたお蔭でこそ、それらの思考も慢心も「私」ではないとリアルに分かり、慢心に興味が薄れていき、それらが剥がれ落ちてゆく。クリーニングが一層進むのです。いわば膿をどんどん出させては洗い流すこと。

 それが肉感的に分かってくるなら、もはや己を褒めたい気持ちが湧いてきても、「私」という亡霊がそこに取り憑くことはできなくなってまいります。うっかり取り憑きかけたとしても、「『私』はいないと分かった」とか「前より良くなった」という思いが生じただけで、そこに私はいないし、良くなったも何も、誰もいないのだから、良くなりもしないし悪くなりもしない、と。

 かくして、「私」というゾンビ、ないし幻覚は、それが取り憑く手口を根気強く、粘り強く粘り強く観察し続けることによって、徐々に復活再生できなくなってゆくのですよ。

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