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幻冬舎plus+編集部便り

2017.01.04 公開 ツイート

お正月の食べ過ぎを悔やんでいる人へ 尹雄大

週末断食や断食道場など、いつのまにか一般にも普及しはじめた断食。実際、カラダはどんなふうに変化を遂げるのでしょうか? 

尹雄大さんの人気連載「カラダの機嫌をとってみる」が書き下ろしを加えた電子書籍『断食で変わったボクのカラダ』は、武道に精通し、身体に関する著作も多い、尹さんが、自身で試した1週間の断食の記録です。食欲、行動、気持ちの移り変わりを抜粋してお届けします。

(*電子書籍は、Amazon Kindle、楽天Kobo、iBooks Store等の各電子書店でもお求めいただけます) 

 第2回
不安を見つめるために「断食」に踏み切った


■小袋のお菓子で埋める私たちの「寂しさ」

 いつの頃からかコンビニでは、小さな袋に入ったスナックやポケットに忍ばせられたり、机の上に置いても邪魔にならないスティックタイプのチョコだとか、ちょこっとつまめるくらいの菓子をたくさん陳列するようになりましたよね。

 その説明としては、家族や友人同士で分け合うより、ひとりで食べる機会が増えたからだというものを何度か聞いたことがあります。けれども、ひとりで食べ切るには便利といった物理的なサイズへの求めだけであんなにも商品が開発されたのかなあとも思います。

 なんでそういうことを思ったかというと、ああいう菓子に手を伸ばすときのことを思い返してみたからです。たとえばパソコンに向かって仕事をしているときや電車で移動中だとかの「小腹が空いたとき」にポイと口に放り込むと、ひとつだけで終わることなく、立て続けに食べたりしませんか? しかも終いまで食べてはみたものの満たされるという感覚とはほど遠い。そんなふうに感じる人はけっこう多いのではないでしょうか。

 この「小腹が空く」という感覚はわりと曲者だと思うんですよ。「空いた」に任せるとてっきり食欲に突き動かされて食べていると頭は理解してしまいます。でも、そのときの自分の感覚をよくよく見ていくと、実はお腹が減っているのではなく「口寂しい」だけだったりします。

 胃という内臓が物理的に食べ物を求めているのではなく、よくわからないままに湧き上がってきた「寂しさ」につられて、なんとなく食べてしまっている。寂しさの埋め合わせに食べると聞くと「そんなバカな」と思うかもしれませんね。

 そこで改めて「つい食べてしまう」様子を見てみましょう。すると「手持ち無沙汰なとき」や「物事が思った通りに行かずイライラしているとき」だとかに食べていませんか? 「小腹が空いている」とうかつにも判断してしまう状態は、お腹と関係ない。むしろ、空しさだとか焦りだとか「自分が自分ではいられない状態」といった、心に隙間が生じたときではないでしょうか。

 そういうとき本人がものすごくわかっているのは、食べたからといって満足は得られないことです。食べている最中からもう本当にわかっている。だけど「やめられない とまらない」というスナック菓子のキャッチコピーそのままに強迫的に自分の中に空いた隙間を埋めようとして食べてしまう。

 この隙間を私たちは寂しく感じています。ぽっかり空いているから「手持ち無沙汰」に感じもし、「イライラ」もする。そこで私なら「がつがつ」と食べるわけです。これらは飢餓感であって決して飢えではありません。飢餓感の「感」は「お腹が空いた」という感覚に由来するのではなく、「寂しさ」「物足りなさ」という隙間、つまり感情の飢えに根を持っているのだと思います。

 本当に「小腹が空く」こともあるでしょうけれど、イライラにせっつかれて食べたり、それでいて満足がいかないというような腹の空き加減は、決して食欲によるものではないでしょう。だから、こうした飢えはちょこっと食べようががっついて食べようがどっちにせよ満たされることはないのです。なぜなら、飢餓感から食べ物を口にするのは、満たすことのできない感情の代替行為でしかないからです。

 私は物心ついた頃から「いまの自分はお腹が減っているのかそうでないのかわからない」という感覚に襲われていました。なんとなくお腹が減っている気がする。だからといって「パンケーキが食べたい!」とか、強いて◯◯を食べたいというわけでもない。はっきりしないのなら食べなければいいのですが、そういう状況になると必ず得体の知れない不安が湧き起こりました。心がざわざわして落ち着かなくなります。飢餓を経験したことはありませんが、何か食べていないと不安になるのです。食べたいかどうかもわからないのに。そんなふうに限度を知らず食べていたので、子供の頃は股ずれするくらいの肥満体でした。

 しかし、今は便利な時代で食べ切りサイズのスナック菓子があります。とりあえず食べるという行為で安心はできます。頭は納得してくれます。けれども感情が満ち足りることはないとわかっています。こうした決して満たされない、食べ物にまつわる感情のサイクルを巡っているのは、私ひとりではないはず。だからこそ、つまむには便利なサイズの菓子があんなにも求められているのかと思ったりします。

 それにしても、この「食べていないと不安になる」とは、どういうメカニズムなんでしょうか。前置きがずいぶん長くなりましたが、私にとっての断食は、コンビニサイズの菓子に振り回されてしまうような飢餓感、不安がどこからやって来るのか。それを見つめる行為だったと言えます。食べることを控えることで、不安に一方的に引きずり回されるのではなく、じっくりとその不安を見据える。そのためにハードな断食に踏み切ったんじゃないかと思っています。
***

続きは、電子書籍『断食で変わったボクのカラダ』をご覧ください。

(目次)

第1回 「断食」でカラダの声が聞こえるようになる
■カラダが得意なのは「感じること」

第2回
不安を見つめるために「断食」に踏み切った
■小袋のお菓子で埋める私たちの「寂しさ」

第3回
「断食」とはカラダが自ら話し始めるのを待つ行為
■「食べない」選択をただ行う

第4回
断食は我慢して成功させるものではない
■断食は意志を鍛えるものではなく、カラダの感覚を研ぎ澄ますためのもの

第5回
断食はカラダの倒錯をあぶりだす
■感じていないことを「思う」のはカラダへの嘘

第6回
断食で「飲みたい」「食べたい」から距離をとる
■「うまくやろうとする」ことがうまくやれない原因

第7回
断食初期の食べたい気持ちは、過去への未練や後悔の現れ
■心を割り切ることをやめてみる

第8回
断食初期の「寂しさ」は次第に薄れてくる
■最初の「寂しさ」はきちんと味わうべき

第9回
「断食」で気づいた勝手に期待する心
■不快な気持ちで迎えた断食2日目


第10回
「痛みを抱えている自分」と「痛んでいる自分」の違い
■「痛み」をめぐる認識と感覚のズレ
■「痛み」をちょうどよく感じたい

第11回
断食にともなう不調を「デトックス」と言い換えるのは現実を見ていない証拠
■食べないと意識のざわめきが少なくなる

第12回
断食で「身の丈の食欲」に初めて出会う
■断食2日目でお腹はぺったんこ

第13回
断食3日目。頭の中が軽くなった
■睡眠にまつわる奇妙な変化

第14回
断食で言葉にしづらい「こういう感じ」を徹底的に味わう
■「感じがする」ってどういうこと?

第15回
断食は「自分の毒」を気づく経験になる
■僕たちは「自意識過剰」で「素顔」をさらすことを恐れている

第16回
断食4日目、街に出るとカラダが「薄く」なっていた
■デパ地下で強烈に感じた買い物客の感情の臭い

第17回
「考える」行為は、実は「迷っている」だけかもしれない
■断食で「考える」機会が減った

第18回
「自分」とは、ただの「思考のパターン」だ
■病を元気に生きる

第19回
断食で見えてしまう心の奥底にある「自己否定」
■人生に満足することなく死ぬ自分に気づきたくない

第20回
「断食」は誰かの体験談と比べることではない
■結果だけ言えば、「カラダが軽くなって、気持ちがスッキリ」

第21回
思考優位の人間は鈍感で仕草さが粗くなる
■思考にカラダを合わせるのではなく、カラダに思考を合わせる

第22回
断食明け、食べる必要を感じない
■1週間前の食欲が遠い出来事に思える

第23回
「バランスの良さ」はひとりひとり違う
■他人からのお仕着せのバランスにとわれていないか?

 

 

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尹雄大

1970年、神戸生まれ。テレビ番組制作会社、出版社を経てライターに。インタビュー原稿やルポルタージュを主に手がける。10代で陽明学の「知行合一」の考えに触れ、心と体の一致をさぐるために柔道や空手、キックボクシングを始める。1999年、武術研究家の甲野善紀氏に出会い、松聲館に入門。2003年、光岡英稔氏に出会い、韓氏意拳を学び始める。主な著書に『FLOW韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)、『子どもが語る施設の暮らし』(共著、明石書店)、『体の知性を取り戻す』(講談社現代新書)などがある。公式サイト:http://nonsavoir.com/

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