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2016.12.02

映画公開までカウントダウン連載 最終回

友達に飢えた、元気のいい嘘くさい女・愛菜

山内 マリコ

友達に飢えた、元気のいい嘘くさい女・愛菜

地方都市を舞台にした、ヒリヒリ感と疾走感と愛にあふれるガールズ小説『アズミ・ハルコは行方不明』が、いよいよ12月3日から全国公開! 偶然再会した同級生3人が、1ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を遊び半分で探し始めることにーー。
 女の子がこれから幸せに生きていくには、どんな道があるの? そんな問いに寄り添ってくれるこの作品のプロローグから、映画では高畑充希さん演じるキャバクラ嬢・愛菜のお話まで少しだけお楽しみください。

* * *

 国道と県道が交差する込み入った住宅地にユキオの実家はあった。用水路を道なりに進んだ先、極小サイズの交番の脇に突き立つ、日焼けして文字がうすくなった案内板によると、十棟の団地が二列に、A~Jのアルファベットをふられて建っている。いちばん奥のE棟五階に、ユキオの母親と祖母はいまも住んでいた。姉は結婚して、すでにここを出ている。
 小学生のころは活気に溢れた団地だったが、すっかり老朽化し、白かった外壁は一度も塗り直されることなく鼠色に変色している。なぜ建てたあと補修しない? 一応建築を学んでいるユキオは、近い将来「老朽化」の烙印のもとに住人たちが追い出されるであろう荒廃しゆく団地を見るたび、この国のあまりにも即物的な浅い思考と人々の無能さを嘆かずにはいられなかった。団地の補修と国にどういう因果関係があるかはさておき。
 外壁に吹きつけられたモルタルはケロイドのようにぶくぶくと不吉に隆起したり、剝がれ落ちたりしている。暗闇にのっそりとそびえるその威容に、怖い怖いと愛菜はしきりに怯え、「お前それ失礼だぞ」とユキオはフラットな声でたしなめた。
 たしかに空室も多く、人の気配が希薄でしんとしている。かつてこの団地にたくさんいた同級生たちはみんな郊外の新興住宅地に越していって、ここに住みつづけていること自体がなんとなく後ろめたい、そんな場所に成り果てている。
「LINE教えて」
 車から降りたユキオに、窓を下ろして愛菜が言った。
「あー。オレそれやってない」
「えーなんで? じゃあメアドでいいよ。こっち戻ってきたらちゃんと連絡してね」
「おう」
「絶対ね。あたし友達に飢えてるから」
「マジで?」
「マジで。超飢えてる。だからヨロシクね。こっち戻ってきたら」愛菜は念を押した。
 ユキオの目に愛菜は、地元に残ってる奴特有の、満たされた人間に見えた。親に新車を買ってもらい、自由を手にした幸せそうな奴に見えた。自己完結した小さな世界にうまく馴染み、地元への帰属意識に裏打ちされた自信を滲ませる。そんでなにかというと友達の話──。名古屋の大学に行って以来、ユキオにとってこれが二度目の帰郷だった。最初の帰郷は大学に入学してすぐのゴールデンウィーク。地元を離れたものの地元の仲間との縁が切れるのが心配で、SNSでしきりに帰省をアピールし同級生と会う約束を取り交わした。連日郊外のファミレスに集い、深夜までぐずぐずとダベった。そのときにユキオは気づいたのだ。つまんねえって。もう賞味期限が切れている人間関係にしがみつこうとしている自分がみっともなくて嫌だった。それっきり地元には帰っていなかった。
「お前友達いっぱいいそうなのにな」
 ユキオの言葉に愛菜は、芝居がかって肩をすくめた。
「疲れるもん。友達キープすんのって。彼氏の方がラクじゃん」
「へぇーそんなもんか」
「でもいま彼氏いないし! だからよろしく!」
 その元気いっぱいの言い方は、前向きで明るい女の子を演じているようで、どこか上滑りしていて、なんだかすごく噓くさいとユキオは思った。

 

※この連載は『アズミハルコは行方不明』のp.6~の試し読みで、今回が最終回です。
いよいよ、映画公開が明日12月3日(土)になりました。ぜひ、小説でも映画でもお楽しみください。

 

映画『アズミ・ハルコは行方不明』
監督:松居大悟 脚本:瀬戸山美咲
出演: 蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい  加瀬亮
配給:ファントム・フィルム
2016年12月3日より全国ロードショー
©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会
公式サイトはこちら

 

刊行当時の楽しい弾けっぷりは、山内マリコさんとMamiさんの対談『アズミ・ハルコは行方不明』映画公開記念無敵女子対談 女の子Yeah~~☆☆!!!!』(電子書籍オリジナル)でぜひお楽しみください。


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