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幻冬舎ニュース

2016.12.01 公開 ツイート

話題騒然の本格派国際金融小説『国家とハイエナ』。あの圧倒的なリアリティはどうやって生み出されるのか?

全ビジネスマン必見! 作家・黒木亮さんの情報収集術とは!? 幻冬舎編集部

破綻国家の国債を二束三文で買い叩き、欧米で債務国相手に訴訟を起こし、勝訴判決を受けるやタンカーや人工衛星を差し押さえ、投資額の10倍、20倍のリターンをむしり取る「ハイエナ・ファンド」。その実態を描き、話題騒然の『国家とハイエナ』。刊行を記念し開かれた、著者の黒木亮さんによる特別セミナーから、作家を目指す人はもちろん、全ビジネスマン必見の情報収集術を、ダイジェストにてお送りします。

『国家とハイエナ』

 ●テーマは「3つのクライテリア」で選ぶ。

黒木亮氏(撮影:田山達之、写真提供:アカデミーヒルズ)
  どのようにして小説のテーマを決めているのですかと、よく尋ねられます。経済小説は何について書くか、つまりテーマの選定が勝負となるだけに、私は三つのクライテリア(基準)をもとに選択しています。

 一つは、すでに多くの人が知っていること、逆にまったく知られていないテーマは選びません。言葉だけは知っているが、内容について読者がもっと知りたいと思っているテーマを取り上げることが重要だと思います。例えば2005年発表の『巨大投資銀行』ですが、当時、投資銀行という言葉は知られるようになっていましたが、その実態となるとよくわかっていなかった。読者は投資銀行の内実などを知りたいという欲求が強いのではと考え、取り組みました。

 二つめは、自分の心に響く、あるいは驚いたり感動したりしたテーマです。書き手である私自身が心を突き動かされ、これは作品にしたいというようなテーマでなければ、読者も感動してくれません。2009年の『排出権商人』は排出権という言葉は新聞などで目にすることはありましたが、排出権とはそもそも何なのか、排出権をめぐってどんな動きがあるのかなどは漠然としていて今ひとつよくわからない状態でした。そんなとき、関係者から牛や豚の糞が排出権になるといった話を聞き、びっくりしました。排出権という観念的な物の息づかいが肌で感じられ、これは非常におもしろいテーマになり得ると判断し、取材に取りかかりました。

 三つ目のクライテリアですが、20年あるいは30年に一度というような大きなイベントとなるような事柄を選ぶということです。日本人に記録として伝え、書くことに意義がある重要な事実を物語として残したいと考えています。最新刊となる『国家とハイエナ』は、まさにこの三つのクライテリアが重なって取り組んだ小説といえます。

 

●日本も無縁じゃない!? 『国家とハイエナ』の読みどころとは?

読み込んだアルゼンチン関連資料

『国家とハイエナ』は、欧米、アフリカ、南米などを舞台とする国際金融小説です。ヘッジファンドが債務国を法廷に引きずり出し、莫大な金を合法的にむしり取る実態を描きました。ハイエナというのはコンゴ共和国の現大統領が「ヘッジファンドはウミヘビだ! ハゲタカだ! 凶悪盗賊団だ!」と発言したことから私が名付けたもので、国際的にはハゲタカファンドと言われています。

 この小説には大統領、政治家、女性弁護士、国際NGO、金融機関そして破産国家など、さまざまな人物や組織が登場し複雑な動きをします。ヘッジファンドが国の債務を二束三文で買いたたき、全額返済しろと世界各国で訴訟に打ってでる。債務国の原油を積んだタンカー、航空機、外貨準備などを差し押さえたりもする。その一方で、返済を考えずに借りたいだけ金を借り、そのツケを債権国に回してしまう国家が存在する。常識では考えられないような話が次々に出てきます。私自身元国際金融マンですが、こんな法外なことをする人たちがいるとは想像もしませんでした。しかし、いずれも実際にあったことであり、債権を回収するためならなりふりかまわないヘッジファンドを中心に事実に基づいた話を書こうという意欲がわきました。

 詳細に調べていくと、さまざまな動きが浮き上がってきました。印象的なのは最貧国を食いつぶそうとする強欲なハイエナ・ファンド、私利私欲に走る腐敗まみれの国家、そしてハイエナ・ファンドの活動を阻止するために各国で立法化を働きかけるNGOの活動、というように三つ巴の戦いが繰り広げられてきたという事実です。知れば知るほど、よくぞそこまでやるなと感心するほどのことが行われていて驚愕しました。

 実は日本も無縁ではありません。1000兆円を超える公的債務を抱え、国家財政がすでに実質的に破綻している日本は、見方によってはハイエナ・ファンドの絶好のターゲットだと思います。

 

●足で稼ぐ! 膨大な取材で得た情報が、読者の心を打つ。 

イギリスの国会取材時に

 ハイエナ・ファンドの存在を初めて知ったのは2006年、国際金融誌『Euromoney』の記事でした。記事を読み、驚くとともに興奮したことを覚えています。それ以来、新聞や雑誌で情報を得るとともに、NGOの活動家や関係者に話を聞きに行きました。私は1988年からロンドンに住んでいますが、国際金融について書くにはロンドンは最適の地だと思っています。さまざまなメディア、研究機関、国際機関があり、各国からやって来た金融マンたちが働き、世界各地から最新の関連情報が入ってきます。日本では読めないような専門誌を図書館で読め、各分野の専門家の話を聞くことができます。

 作品を書くにあたってもっとも重要なのは取材です。取材さえしっかり行えば、いくらでも書けます。そのためには、臆せず関係者に会いにいくことです。とはいえ、多くの人は取材申し込みを簡単には承諾してくれません。しかし断られても粘り強く交渉すれば、会えることも少なくありません。

 今回、作品を書くにあたっては、イギリスの裁判を傍聴し、英米の判決文を読み込みました。特に判決文は何度も読み返し、『国家とハイエナ』の二章分ほどに使いました。判決文には誰がいつ何を行い、どんな話をしたのかといった詳細な事実が書かれているので、それをもとにドラマを再現することができます。また、裁判を傍聴することでイギリスの裁判所では今もカツラをかぶって、日本以上に内容に踏み込んだ審理をしていることもよくわかりました。

マダガスカルでバオバブの木と夕陽をバックに

 それから、小説に登場する場所には、できるかぎり足を運ぶようにしています。今回は、ハイエナ・ファンドが差し押さえるタンカーが沖合を航行するという設定のマダガスカルやタックスヘイブンのあるカリブ海の他、ニューヨーク、アントワープ、セビリア、カプリ島、香港などにも実際に行ってきました。現地にはどんな空気が流れ、どんな匂いがし、どのような人たちがどんな生活をしているのかといったことを実際に取材し、それを描写しなければ、やはり説得力のある文章はなかなか書けません。

 

構成/杉江幸彦 取材協力/アカデミーヒルズ(2016年11月8日開催セミナーより)

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