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2016.11.30

映画公開までカウントダウン連載③

元引きこもり・三橋学に届いた友達申請!

山内 マリコ

元引きこもり・三橋学に届いた友達申請!

地方都市を舞台にした、ヒリヒリ感と疾走感と愛にあふれるガールズ小説『アズミ・ハルコは行方不明』が、いよいよ12月3日から全国公開! 偶然再会した同級生3人が、1ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を遊び半分で探し始めることにーー。
 女の子がこれから幸せに生きていくには、どんな道があるの? そんな問いに寄り添ってくれるこの作品のプロローグから、映画では高畑充希さん演じるキャバクラ嬢・愛菜のお話まで少しだけお楽しみください。

* * *

みんなまるで、塾帰りの高校生が憩っているような平常テンションである。学はブロックチェックのネルシャツの上に母親が買ってきたアランニットを着て、ほかの二人も似たようなファッションと背格好、全員が浮かない顔で背中を丸め、心地よい負のオーラを放っていた。
「さぁてどうしますかねえ」
 髪を短く刈り込んだ小林が、いかにもやる気なさげに言った。
「オレ、やっぱ東京行こうかな」
 赤いニキビを顔中にこしらえた矢田がぽそっとつぶやく。
「東京行ってどうすんの?」
「アニメーターになる」
「おおぉー」
 二人は矢田のカッコいい発言を囃すように、どよめきの声を上げた。
「矢田くん、絵、上手いもんな」
 学の言葉には、ほのかな羨望が混じっている。
 絵が上手いことも、アニメーターになりたいという明確な夢があることも、どっちも学にとってはうらやましいことだった。
 三橋学は義務教育を不登校で終えたあと、定時制高校の昼間部に通い、卒業後は専門学校に進んでいた。中学でのつまずきからの見事な巻き返しだ。学は不登校として家の中で腫れ物扱いの日々を送る間ずっと、「オレがダメなのはいまだけ、オレがダメなのはいまだけ」と、マントラを唱えるように自分に言い聞かせてきた。ネットには不登校から引きこもりコースを歩んだ先人たちが、現実社会で力を発揮する場を見つけられないままたむろしていて、その様子が知らず知らずのうちに学の反面教師になったのかもしれない。学区の外にある学習塾に通ってみたり、進研ゼミ中学講座と週一回家庭教師のトライでどうにか授業を追いかけつつ、学はじわじわと不登校三年分の痛手を克服していった。
 入学した定時制高校には、人の世話を焼いたり人の役に立つことに無上の喜びを感じるようなMっ気のある教師が多かった。心に傷を抱えた子供を放っておけないとばかり、相談されることがなにより好きな人々。きっと全員、山田洋次の映画『学校』を観て「これだ!」と思ったんだろう。この人は生徒に迷惑をかけられてないと死ぬんじゃないか? と思うような変な教師もちらほらいた。学の進路指導をしたのもそういうタイプの先生だった。よりやりがいのある仕事を求めていくうちにここに辿り着きましたとでも言わんばかりに漲るやる気。学が「美術系の専門学校に行きたい」と言うと、日本中の美術系専門学校のパンフレットをどっさりかき集めてきてくれた。ネットで検索すればすぐ出るのに、紙のムダ! と学は思っていたけど。
 地元に志望しているような専門学校がないことがわかると、学はあっさり美術の道を諦めて進路を変えたので、先生の努力はまるで報われなかった。それで結局「とりあえず英語」というわけで、なにをしたいのかわからない迷子たちのモラトリアム施設のような、この外国語専門学校に決めたのだった。
 でもそこも今年の三月で卒業だ。中学時代を底に、着実に右肩上がりだった学の人生だが、肝心の〝その後〟だけは勘定に入っていなかった。その後……つまり学校を出たあとどうすればいいかなんてことは、学の想像力の範疇外にあった。おそらく実例がネットにあまり転がっていないせいだろうと学は思う。引きこもりがライフスタイルになる前に足を洗わねばと考えて軌道修正するだけの要領の良さはあっても、なにをして稼ぎどう生きるかまでは頭が回らなかった。学は永久に年を取らない気がしている若者の一人であり、地元の堅実な中小企業に就職するという身の丈をわきまえたチョイスができるほど、まだ自分に対して諦めがついていない。
 学と同じように身の振り方を決めていない小林と矢田が集まって、埒のあかない会話で三時間ほど時間を潰したところ。しとしと冷たい小雨が降り、外はもう暮れかかって、バーミヤンの窓ガラスには青春を持て余した自分たちの姿がくっきりと映り込んでいる。
「でも無理かもなぁー東京。親、金出してくんないから。そこを突破してまで行こうとは思わないんだよな」
「あーわかるわぁ」と学。「なんかね。そこまででもないんだよね」とつづけると、小林も矢田も無言で小刻みにうなずいた。
「オレはあれだな、やっぱ介護だな」と小林。「介護ならいくらでも需要あるし」
「でも薄給じゃない?」矢田が言うと、
「それはアニメーターも同じだろが」
 小林は太い声でのほほんと笑う。
「介護の資格ってどうやって取るの? また専門に入り直すってこと?」
「知らん、まだ調べてない」小林はやはりのん気に、焦りもない様子で言い、「ユーキャンで取れるっしょ?」と軽く流す。それから「お前は? これからどうすんの?」と、学に話を振った。
「ノープラン」
 三橋学は無の顔でこたえる。学はいつも、だいたいそうだった。目が合った相手をうっすら傷つけるような無表情か、腹痛を我慢しているような顔か。いずれにせよ潑剌とした笑顔とは無縁。
 テーブルに置いた学のiPhoneが振動する。ロックを解除して見ていると、「誰?」と矢田がたずねた。
「Facebookから」
「え、お前Facebookなんかやってた?」と小林。
「一応アカウントだけ持ってる。愛菜さんから友達リクエスト、だって」
「アイナって誰!?」
 小林と矢田は、女の名前に色めき立った。学は言った。
「知らんよ。絶対なんか裏あるでしょコレ」
 

※続きは、明日公開予定です。この連載は、『アズミハルコは行方不明』のp.6~の試し読みです。

 

映画『アズミ・ハルコは行方不明』
監督:松居大悟 脚本:瀬戸山美咲
出演: 蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい  加瀬亮
配給:ファントム・フィルム
2016年12月3日より全国ロードショー
©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会
公式サイトはこちら

 

刊行当時の楽しい弾けっぷりは、山内マリコさんとMamiさんの対談『アズミ・ハルコは行方不明』映画公開記念無敵女子対談 女の子Yeah~~☆☆!!!!』(電子書籍オリジナル)でぜひお楽しみください。


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