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2016.11.29

映画公開までカウントダウン連載②

キャバ嬢→ネイリストの愛菜が会いたい男

山内 マリコ

キャバ嬢→ネイリストの愛菜が会いたい男

地方都市を舞台にした、ヒリヒリ感と疾走感と愛にあふれるガールズ小説『アズミ・ハルコは行方不明』が、いよいよ12月3日から全国公開! 偶然再会した同級生3人が、1ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を遊び半分で探し始めることにーー。
 女の子がこれから幸せに生きていくには、どんな道があるの? そんな問いに寄り添ってくれるこの作品のプロローグから、映画では高畑充希さん演じるキャバクラ嬢・愛菜のお話まで少しだけお楽しみください。

* * *

 見捨てられた子犬のような目ですがるように訊いた。
「もちろん。キャバはもういいよ。あたし今年で二十五だし」
 今井さんは背中ががっつり開いたドレスのまま、両手をうーんと高く上げて、大きく伸びをした。愛菜の目は思わず脇の下に吸い寄せられる。今井さんの脇は、リキッドファンデーションでも塗られているんじゃないかってくらい、きれいに脱毛されてつるつるだった。
「えー。今井さんが辞めるなら、愛菜も辞めよっかな」
 今井さんはその言葉に、ガハハハッと豪快に笑う。
「実はね、子供できたんだ」
「えー!!! おめでとうございます! 赤ちゃんいいなぁ~! 超素敵です!」
「ふふ、ありがと。ねえそれより愛菜、ネイリストとかはどお?」
「ネイリストっすか? あ~、それいいかもですね」
「やっぱ手に職だよ、これからは」と今井さん。
「手に職っすか」
「そ。キャバ嬢なんて二十五歳で定年みたいなもんなんだから、早めにセカンドライフのこと考えなきゃ。愛菜はオシャレさんだから、絶対美容系がいいって。なんだかんだ食いっぱぐれないし。美容師が嫌なら、やっぱネイリストとかじゃない?」
 今井さんは煙草をくしゅっともみ消すと、
「ちゃんと考えなね」
 まるで親みたいに言った。
「はあ~い」
 愛菜は今井さんの言葉が響いているのかいないのか、よくわからない浮ついた表情である。今井さんとこんなに口きいてもらえるなんて今日は超ラッキーだなと、そのとき愛菜はただただ舞い上がっていた。
 

    §

 

 二年後。愛菜は中学の学区ごとに開かれる成人式の、立食パーティーに参加していた。ホテルの宴会場に知った顔が目一杯盛装して集まり、あちこちで再会劇を繰り広げている。
「あ~愛菜じゃん!」
 ザ・成人式といったけばけばしい振り袖に、ミンクのストールを巻いた女子二人が愛菜に駆け寄る。
「お~久しぶりぃ」
 愛菜は朱色に菊模様の渋い晴れ着を着て、頭には黒いボブのウィッグに白椿の花飾り、そして真っ赤な口紅を引いていた。今井さんに指摘されたとおり、愛菜のファッションセンスはとてもキャバクラ向きとはいえないし、再会した同級生にも「もっと花魁みたいな派手な振り袖着ればいいのにぃ~」と突っ込まれた。愛菜は結局どうしてもあの、巻き髪をうずたかく盛ったケバいヘアーアレンジに迎合できないまま店を辞めていた。
「ねえ、愛菜っていまネイリスト目指してるんだよね?」
 愛菜のSNSの紹介文は「キャバ嬢です!」から「ネイリスト目指して修業中!」にさっそく書き換えられていた。同級生たちは目ざとく情報をチェックしていて、「店出したら絶対通うから! 安くしてね!」なんて抜け目なく言う。みんなけたたましく喋りまくり、この再会を機にこれからはもっと頻繁に集まろうとか、今年の夏はみんなでバーベキューしようとか、そんな絵に描いた餅みたいな計画でわいわいと盛り上がった。そしてちょうどそこに通りかかった富樫ユキオが、巻き込まれ事故みたいに女子の会話に引っ張り込まれた。
「ユキオぉぉぉぉ~!!!」
 女子だけだった輪にユキオが登場するや、場の空気は一気に浮つき、みんなの顔がパァッと華やいだ。ユキオは女子に、そういう表情をさせるタイプの男なのだ。
「うお? なんだよお前ら」
 ユキオのぞんざいな口ぶりを、女の子たちは喜んで受け入れる。ユキオは母と祖母と姉に囲まれて育ったせいか、女子に対して冷たくもなく過度に気を遣うでもないから、あらゆる女子から「アタシの男友達」と目されて昔から人気があった。女子だけでつるみたいときもあれば、男が一人くらいいた方が風通しがいいってときもある。男はオレ一人だけ? という状況にも動じないユキオは、重宝される存在だった。
 富樫ユキオはスーツを学ランと同じくらいカジュアルに着崩して、さっき起きましたとでもいうような白い顔をしている。女子たちは、ユキオを孫でも愛でるような眩しげな目で見つめながら、あれこれと矢継ぎ早に質問を繰り出した。
「あれ、ユキオって名古屋行ったんじゃなかった?」
「昨日帰ってきた」
「えっ、ユキオって名古屋にいるの? あたしの知ってる先輩も結婚して名古屋に行ったんだけど!」という愛菜の言葉に、
「知らねえし!」
 ユキオが容赦なく突っ込むと、みんながわっと沸く。
「え~名古屋なんてやめて地元帰っておいでよ。ユキオがいないなんてさびしい」
「そうだよ~もっとうちらと遊んでよ」
「お前ら彼氏おるだろ」
「え~いるけどさぁ~」きゃっきゃ。
 ユキオが手に持っていた成人式のプログラムを、愛菜がさっと奪った。式次第の書かれたページをめくると、出席者名簿が載っている。
「結構みんな来てるんだね」と愛菜。
「ああ、ダイスケたちも来てたな。ほとんどいるんじゃね?」
「そりゃそうだよね。成人式来ないなんてありえなくない?」
「やっべ、オレけっこう来るの迷ったんだけど。面倒いから」
「来てよかったよユキオぉ~」
「あ、三橋学はさすがに来てないのかなぁ?」
 愛菜が名簿を見ながら言った。
「三橋って?」とユキオ。
「ほら、中一のときに速攻学校来なくなった男子。あたし小学校も一緒だったからけっこう知ってる」愛菜は名簿に目を落としながらこたえる。
「ていうかユキオも同じ小学校だったじゃん!!」
「クラス違ったから」
「中一のときは同じだったでしょ!?」
「えー憶えてねーわ」
「ひっどーい!」
 女子三人はケタケタ笑いながらユキオをなじった。

 自分が女子たちの会話に登場しているとも知らず、二十歳になった三橋学は成人式を、専門学校の同級生たちと県道沿いのバーミヤンで迎えていた。

 

 

※続きは、明日公開予定です。この連載は、『アズミハルコは行方不明』のp.6~の試し読みです。

 

映画『アズミ・ハルコは行方不明』
監督:松居大悟 脚本:瀬戸山美咲
出演: 蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい  加瀬亮
配給:ファントム・フィルム
2016年12月3日より全国ロードショー
©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会
公式サイトはこちら

 

刊行当時の楽しい弾けっぷりは、山内マリコさんとMamiさんの対談『アズミ・ハルコは行方不明』映画公開記念無敵女子対談 女の子Yeah~~☆☆!!!!』(電子書籍オリジナル)でぜひお楽しみください。


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