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2016.12.01

「外食」にまつわるノート

山田 マチ

「外食」にまつわるノート

 ひとり旅に出ると、必然的に、食事も、ひとり。朝と昼は、ぱぱっと済ませることが多いのですが、晩ごはんは、せっかくなのでゆっくりと、その土地ならではの料理やお酒をいただくようにしています。
 胃袋はひとつしかありませんから、海のもの、山のもの、郷土料理や珍味をそれぞれひとつずつでも注文したら、もうお腹いっぱいになり、満足。

 席数もお客さんも少ない居酒屋でひとりで飲んでいると、「お仕事ですか?」「いえ、旅行で」「おひとり?」「はい」なんて会話がはじまること、よくあります。
 旅行だとわかると、「じゃああそこは行った?」「あれは食べた?」と続き、そのうちほかのお客さんまで巻き込んで、「お昼ご飯はあそこがいい」「あの店は有名だけど、観光客用。うまいわけじゃない」「実はこんな名物がある」というふうに発展し、るるぶや食べログで網羅しきれていない情報が得られたりもします。

 もう一杯飲みたいな、というときは、通りすがりのバーに飛び込んでみることも。見ず知らずの土地で自分の嗅覚だけを頼りに、イチかバチか。旅テンションと、お酒で気が大きくなっているのもあいまって、えいっと扉をあけてみます。

 あるときは、たまたま入ったのがミニステージつきのミュージックバーで、マスターと常連のふたりのおじさんが、かわるがわる、私のためだけにギターで弾き語ってくれたこともあります。途切れることのないフォークミュージック。いつのまにかグラスに注がれるウイスキー。べろんべろんで、次の日、教えてもらった漁港の海鮮丼が食べられなかった、なんてなことも、今となっては良い思い出です。

                   *

 2011年の夏、私はひとり、旅立ちました。行き先は、東北沿岸部。岩手県の山田町というところです。山田町の読み方は、「やまだちょう」ではなく、「やまだまち」。行った理由は、自分と同じ名前だからです。
 そのころは、東日本大震災から半年もたたない時期。人口約2万人の山田町は、町の中心部が津波と火災により壊滅状態となり、800人以上もの方々が犠牲になりました。海に近い町は、元の姿が想像もできないほど、家も、店も、駅も、道すらも、なくなっていました。

 焼け野原のような町のなか、ちらほらと立つ仮設の店舗に、私はかたっぱしから入っていきました。買い物でも飲食でも、なんでもいいからお金を落としたいというのと、町のことを知りたかったからです。
 海沿いの公園だったところには、大量の瓦礫やぺしゃんこになった車がうず高く積まれており、やっと1軒のスーパーが復活したばかり。 そんな状態のときに、「同じ名前だから来た」なんて言ったら怒られるんじゃないかと心配していたのですが、町のみなさんの反応は、一様に、爆笑、でした。

「どうしてひとりで山田町に? ボランティア?」
「いえ、観光です。私、山田マチっていうんです。おんなじ名前だから、来てみました」
「ええっ、やまだまち。はーはっはっはっ、こりゃおかしいや。ねえ、このひと、やまだまちっていう名前なんだってー! 」
 お笑い用語でいうところの「テッパン」とはこのことを言うのでしょうか。名乗ることが、すでにオチ。どこに行っても、老若男女問わず、おおいに笑ってもらえました。

 夜になると、街灯もなく闇に包まれた町に、ぽつりぽつりと、明かりが灯ります。私は、営業しているプレハブのお店に、順番に入っていきました。お寿司屋さん、居酒屋さん、スナック……。
 お酒が飲める身体でよかったと、これほどに思うことはありませんでした。豪快な海の男たちや、キップの良いおかみさんたちと渡り合うには、「飲め!」「はい!」、で、ぐびっとやるのが、いちばんてっとりばやい手段。
 そういったなかで、震災や復興の話だけではなく、「山田町に “ 山田さん ” はいない」とか、「山田交番には、苗字だけを理由に他県から派遣された “ 山田さん ” という警察官がいる」などの、貴重な山田情報をゲットすることができました。

 山田町は三陸ど真ん中。魚介類がおいしいのは言わずもがな、なのですが、私がひとり静かに感動したのは、麺類のポテンシャルの高さでした。
 ラーメン、うどん、冷麺などが、どのお店で食べてもうまいのです。そのうえラーメン屋さんは、仕事おわりの漁師さんのために、早朝7時から営業。飲んだ翌日の、ひとり朝ラー。最高でした。

 山田町は、行くたびに町の様子がかわり、飲食店も増えてきました。イルカの煮込みや、見た目はグロいが味はうまい「 どんこ」の刺身などをつまみに、日本酒をちびちび。
 通ううちに知り合いも増え、ひとりで飲むことも少なくなってきました。生のオリオンビールや海ぶどうがある本格的な沖縄料理店に連れていってもらったり、震災後に誕生した「山田商店街」の会合でなぜか乾杯の音頭をとったりと、なかなか不思議な夜をすごしています。

                   *

 ひとりで外食するときに私が心がけているのは、スマホを必要以上に見ないこと。そして、背筋をしゃんと伸ばすこと。ちぢこまって光る画面だけを見ていたら、おもしろい話を聞きそびれてしまうかもしれないし、壁にちらっと貼ってある隠れメニューなんかも、見逃してしまうかもしれません。るるぶや食べログのその先に、私はいきたい。
 もちろん、誰ともコミュニケーションをとらずに、ただだまって料理やお酒をいただくことだって、たくさんあります。そんなときは、味に集中。

 ひとりでご飯を食べている人を見ると、「あの人、ひとりだな」って思います。でも、それだけのこと。他人から見た自分も、ただ、それだけのこと。
 食べたいものを食べたいときに食べられるのは、ひとりだからこその特権です。
 山田は今日もひとり、どこかでご飯を食べています。同じ空の下にいる、ひとりのみんなと、心のなかで、乾杯します。 

岩手県山田町。朝7時からやっている「藤七屋」さんにて、ひとり朝ラー。飲んだ翌日の胃に染み入る、やさしいお味。

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