「月9」が連続ドラマの頂点に立つまでの10年の軌跡と、恋愛とバブル経済に沸き、崩れ始める日本を描いた話題作『月9 101のラブストーリー』(中川右介著)からの試し読み第8回。
 フジテレビの一歩先をいっていたTBSの「業界ドラマ」は、さらに「ありえない」方向へと進んでいき、支持を得ました。ドラマの「リアリティ」は、視る側にとって今ほど重要ではなかったようです。 

 

 第一章 前史としての「業界ドラマ」——1987年

 

 より先を行くTBS

 四月十四日火曜日夜八時、「業界ドラマ」はさらに進歩した。TBSで中山美穂と後藤久美子主演の『ママはアイドル!』が始まったのだ。

『パパはニュースキャスター』で成功したTBSの業界ドラマは、よりリアルな方向へ向かうのではなく、より「ありえない」方向へと進んでいった。この時点でトップアイドルに躍り出ていた中山美穂が演じるのは「アイドルの中山美穂」である。メタフィクションの手法を駆使した前衛作であり、それでいて子供でも楽しめるホームコメディだった。

 このドラマでの中山美穂扮する「中山美穂」は、本名は野々村裕美という設定だ。その夫となる中学校教員「水沢修一」を演じるのは三田村邦彦。美穂は水沢のかつての教え子で、アイドルとして活躍している。水沢は妻が事故で亡くなっており、三人の子を育てていた。そんな水沢とアイドルになっていた美穂は偶然再会して、はずみのようなかたちで結婚することになる。

 この設定を「ありえない」と批判しては、おしまいだ。これを「現実の話」としてリアルに描くことなど、最初から放棄されている。このありえない設定を受け入れられる者だけを相手にしている。そして、そういう「虚構を虚構として楽しむ」視聴者が数千万人いたのである。

 水沢の中学二年になる長女「晶」を演じるのが、「国民的美少女」と称されていた後藤久美子。つまり、中山美穂と後藤久美子は義理の母娘の関係を演じた。晶は父の再婚に反対し、美穂を母と認めようとしない。そんな義理の母娘の対立を軸にして物語は進む。

 中山美穂は一九七〇年三月生まれなので、十七歳になったばかりだ。芸能界へ入ってから都立の定時制高校を中退したが、通っていたら二年生だ。この年齢のアイドルに、ドラマのなかとはいえ「結婚」させるという非現実的な設定は、一九七〇年代はじめに岡崎友紀が主演した『おくさまは18歳』と『ママはライバル』をヒントにしたものであろう。

『ママはアイドル!』の放映枠は火曜の八時で、対象とする年齢層は「小学生からお年寄りまで」と広い。初回の視聴率は二七・二パーセントを取った。『アナウンサーぷっつん物語』も健闘し、初回一八・四パーセントを取り、週間視聴率のトップテンに入っている。一月から三月の『パパはニュースキャスター』も二二パーセント前後で、常に視聴率のドラマ部門ランキングの上位にあった。業界ドラマは人気があったのだ。

 

 三週目となる四月二十日、『MONDAY60』の特集テーマは「女の嫉妬 男の嫉妬」。ここまでくると、劇中の『MONDAY60』の特集と、ドラマの展開がリンクしていることに、鈍感な視聴者でも気づくだろう。

 

※第9回へ続く。12月27日(火)公開予定です。

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