「月9」が連続ドラマの頂点に立つまでの10年の軌跡と、恋愛とバブル経済に沸き、崩れ始める日本を描いた話題作『月9 101のラブストーリー』(中川右介著)からの試し読み第7回。
「月9」枠の第一弾『アナウンサーぷっつん物語』は、情報バラエティ番組『MONDAY60』の女子アナ(岸本加世子扮する「西沢由美子」)が主人公。“オフィスラブ”と番組制作の内幕を描いたコメディタッチのドラマでしたが、第2回では、当時のドラマの“際どさ”と“おおらかさ”が垣間見えます。

第一章 前史としての「業界ドラマ」——1987年

「テレビ批判」をするテレビドラマ

 四月十三日月曜日夜九時、『アナウンサーぷっつん物語』の第二回が放映された。

 前日は統一地方選挙の前半、知事と県議会議員選挙の投開票が行なわれ、中曽根内閣の「売上税」への反撥から、自民党は県議選で大きく議席を減らしていた。半年前の衆参同時選挙では圧勝したばかりだったのに、「売上税」を導入しようとしたことで、中曽根政権の支持率は低下していた。この選挙結果を受けて、党内ではこの状況では売上税法案の成立は困難だとの声が強まった。

 だが、この日の夜九時からのフジテレビの『MONDAY60』のテーマは選挙とも売上税とも関係のない「オフィスラブ」だった。政局が気になる国民はNHKの『ニュースセンター9時』を見ればいいのだ。この番組の当時のキャスターは木村太郎である。翌年、NHKを退社し、フリーとなってフジテレビと専属契約を結ぶ。

 政局よりもフジテレビの内幕に関心のある人は、『アナウンサーぷっつん物語』を見た。キャスターの新城と早苗のオフィスラブが、すでに二年続いていることが明らかにされていく。早苗は早く二人の関係を公にし、結婚したいと思っているのだが、新城にその気はない。二人の間に気持ちのズレが生じていた。

「オフィスラブ」特集で由美子が取材を命じられたのは、大手商社の副社長(現社長の息子で次期社長の座が約束されている)の後妻となるOLの話題だった。「オフィスラブからの玉の輿」だ。由美子が突撃取材したOLのインタビューが番組で流れると、「事件」が起きた。副社長は離婚しており、OLは後妻となるわけだが、彼女と不倫したのが原因で離婚したかのような印象を与える取材映像が放映されたのだ。しかし、映像が流れた後、由美子はカメラに向かって、「そのOLが入社する前に副社長は離婚していたとの説明がカットされ、不倫を印象づけるようになっているけど事実と違う、これではそのOLが気の毒で申し訳ない」という内容の発言をした。生放送の番組内で新人アナウンサーが自分の局の姿勢を批判してしまったのだ。

 番組が終わると、由美子は上司に呼ばれた。彼女は叱られ、降ろされることを覚悟した。ところが、視聴者からの電話では、由美子に好意的な声のほうが多かった。正直でいい、と言うのだ。さらに視聴率も前週より上がった。テレビの世界では視聴率がすべてだ。由美子はそのまま番組を続けることになった。彼女の「ホンネ」が受けたのであれば、それを売り物にしていけばいいのだ。由美子は上司のそうした判断にも疑問を感じるのだが、受け入れるしかない。彼女にとっても損な話ではないのだ。

 コミカルに描かれているが、ここには「テレビ批判」がある。それをテレビドラマのエピソードのひとつとして描いてしまうのも、そうしたほうが「受ける」との判断だろうが、それを可能にするだけの大らかさやゆとりが当時のテレビ界、とくにフジテレビにはあった。

 さらに言えば、劇中に出てくる「社内恋愛で、副社長と結婚するOL」というのは、誰が見ても、フジテレビの鹿内春雄会長の妻となった頼近美津子を思い出させる設定だ。山村美智子扮する「元NHKの女子アナ」という設定が頼近を模している以上に刺激的だ。

 自社の経営トップの妻を題材に──しかも揶揄するようなかたちで──できるほど、当時のフジテレビは自由な社風であった。勢いのある企業には、タブーなどないのだ。

 

※ 第8回へ続く。12月24日(土)公開予定です。

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

中川右介『月9 101のラブストーリー』
電子書籍の購入はこちら(幻冬舎plus)
書籍の購入はこちら(Amazon)