「月9」が連続ドラマの頂点に立つまでの10年の軌跡と、恋愛とバブル経済に沸き、崩れ始める日本を描いた話題作『月9 101のラブストーリー』(中川右介著)。
「月9」が初めてドラマ枠になってからの記念すべき第一弾『アナウンサーぷっつん物語』の話から、本編はスタートです。

 

 第一章 前史としての「業界ドラマ」———1987年

 最初のヒロインは女子アナ

 フジテレビのスタジオでは、「新感覚の情報バラエティ番組」『MONDAY60』のリハーサルが始まっていた。カメラが捉えるのはデスクにいる三人──中央には神田正輝、向かって右には山村美智子、左には岸本加世子。神田と山村はしっかりとしたカメラ目線だが、岸本は落ち着かない様子で、手許のメモに夢中でカメラのほうを見ていない。

 そんなシーンから、『アナウンサーぷっつん物語』は始まった。

 ときは、一九八七年四月六日月曜日。時代はまだ昭和である。地価と株価が高騰しており、後に「バブル」と呼ばれる時代だが、当時はまだそんな言葉はない。

 内閣総理大臣は中曽根康弘──首相に就任したのは八二年秋なので、彼の政権は四年半が過ぎていた。中曽根政権の重要政策のひとつが、電電公社・専売公社・国鉄の三公社の民営化であった。すでに電電公社と専売公社は一九八五年四月に民営化され、難航した国鉄も、この年の四月一日をもって分割民営化され、JRになったばかりだった。

 この春、フジテレビはそれまで六年半にわたり萩本欽一のバラエティ番組『欽ドン!』を放映していた月曜夜九時の枠を、ドラマ枠にした。『欽ドン!』が始まる前の一九七〇年代はドラマ枠だったので、元に戻ったとも言えるが、明確に「若者」を対象とした点で、従来のドラマ枠とは異なっていた。たとえば七〇年代の月曜九時には勝新太郎の『新・座頭市』などが放映されていたのだ。

 ドラマ復活第一作『アナウンサーぷっつん物語』はタイトルからコメディタッチのドラマであると想像がつく。フジテレビの社史である『フジテレビジョン開局50年史』(以下、「50年史」)にはこのドラマについてこう記されている。

 〈他局からフジテレビに移籍して来た女子アナを中心に、番組制作の内幕をリアルに描き話題となった業界ドラマ第一弾。〉

 たしかにテレビ局の内幕、舞台裏が「リアル」に描かれていた。物語の舞台となる放送局は、架空のものではなく、「フジテレビ」がそのまま実名で登場し、当時は新宿区河田町にあった社屋が画面に頻繁に登場する。作られたセットと、現実の社屋内との区別がつきにくい。

 後にバブルと呼ばれるこの好景気な時代、花形の職業となっていたのが、マスコミ業界だった。売り上げの規模では自動車業界や金融業界のほうが勝っていたが、見かけの華やかさでは、マスコミやその近くにある広告業界が勝った。なかでもテレビは芸能界と一体化しているので華やかさがあった。そこを舞台にしたドラマだ。

 主演の岸本加世子は一九六〇年十二月生まれなので、番組放映時は二十六歳。一九七七年にTBSの水曜劇場『ムー』でデビューしたので、女優としては十年目になり、八七年前後はドラマの主演女優のひとりだ。記念すべき「月9」主演女優第一号となったが、「月9」主演は、いまのところこれが最初で最後だ。

 岸本加世子扮する「西沢由美子」は名古屋のラジオ局からフジテレビに移籍してきたばかりで、東京にも、テレビにもまだ慣れていない。『MONDAY60』への起用は大抜擢で、アナウンサー部の女子アナのなかには彼女の起用を面白く思わない者もいた。最初の放送で由美子は見事に失敗する。失敗を繰り返しながら一人前の女子アナへと成長していく物語に恋愛がからんで、という物語を予想させる始まりだった。

 相手役となる神田正輝は当時の二枚目俳優のひとりだ。一九五〇年十二月生まれなので、この時は三十六歳。神田が松田聖子と結婚したのは八五年である。

 神田正輝扮するキャスターの「新城卓也」は真面目だが、どこか冷めている。由美子が仕事に慣れないために本番でもミスばかりするので新城は苛立ち、二人の関係は「最悪の出会い」として始まる。恋愛ドラマによくあるパターンだ。

 山村美智子(後、山村美智)は一九五六年十一月生まれで、八〇年にフジテレビに入社してアナウンサーとなったが八五年に退社し、フリーになっていた。山村扮する「一柳ますみ」は、NHKのアナウンサーだったがフリーになりフジテレビに移籍したという設定となっている。八一年にNHKを辞めてフジテレビへ入った頼近(よりちか)美津子を思い出させる設定だ。その頼近は八四年にフジテレビの副社長鹿内(しかない)春雄と結婚して退社していた。

 岸本、神田に次ぐ重要な役を演じたのは麻生祐未である。麻生は一九六三年八月生まれなので、二十三歳。彼女が扮するアナウンサーの「小川早苗」は、新城と恋人関係にあるのだが、社内の誰も知らない。由美子と早苗は親しくしていたが、やがて新城が由美子と親しくなるにつれて、二人の関係も微妙になっていく。

 こうした「恋愛」がドラマの中心のストーリーではあるが、「50年史」にあるように、番組制作の過程を「そのまま」(と見えるように)描くことに、かなり重点が置かれている。「業界ドラマ」と称されるのは、そこに理由がある。

 このドラマでは、華やかな職業のように見える女子アナもテレビ局という企業の女子社員に過ぎず、お茶くみなどの雑用もやるという「現実」を見せていく。先輩による「いじめ」もあり、同僚間には恋愛での嫉妬もあれば仕事での嫉妬もあり、「女が働くことの困難さ」と「恋と仕事の両立」という問題が描かれる──と書いても間違いではないが、深刻な社会派ドラマではない。

 すでに『アナウンサーぷっつん物語』には「はじめに」に記した「月9」の特徴──それはトレンディドラマの特徴でもある──が見られる。すなわち、

 

 ・「職業を持つ女性」が主人公であること
 ・「現代の東京」が舞台であること
 ・「恋愛」が重要な位置を占めること
 ・数人ずつの男女が主人公の群像劇であること
 ・若い主人公たちの「親」と「故郷」と「過去」が出てこないこと(由美子の母は、留守番電話に録音されている「声」でしか登場しない)
 ・スタジオでのセット撮影よりもロケが多用されていること
 ・主題歌があること(このドラマでは女性デュオのBaBe(ベイブ)が歌う《I Don't Know!》が採用された)
・衣裳やロケ地がタイアップであること

 

※第4回へ続きます。12月10日(土)公開予定です。

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