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2016.11.26

オランダ旅行記3

サービス料1ユーロ

狗飼 恭子

サービス料1ユーロ

 今日は国鉄に乗って、セントーヘンボスという街へ行くことにする。

 券売機でチケットを買うと、サービス料1ユーロが加算されて請求される。一体なんのサービスを受けたんだ、券売機で買ったのにと思う。券売機にはオランダ語と英語のどちらかを選べるようになっているから、オランダ語を選べばサービス料は請求されないのかもしれない。

 アムステルダム中央駅は、さすがにホームの数が多い。適当に電車に乗ればいつか目的地に着く、というようなことは絶対になさそうだ。壁に貼ってある時刻表とにらめっこして、s-Hertogenbosch、という複雑な文字の並びをようやく見つけ、そこに書いてある通りのホームへあがる。と、ちょうど電車がホームに入ってくるところだった。

 その辺を歩いている人を捕まえ、「この電車はセントーヘンボスへ行きますか?」と尋ねるが「分からない」と言われてしまう。駅員を捜すがいない。降りてきた乗客にも尋ねるが、分からないと言う。セントーヘンボスは中央駅から一時間くらいかかる街だ。渋谷駅で埼京線を指さして「この電車は浦和に止まりますか?」と聞いているようなものなんだろう。もしかしたらわたしの「セントーヘンボス」の発音が悪いのかもしれない。そうこうしているうちに、出発のベルが鳴り始めた。いいや、なるようになるさ。わたしはその電車がどこへ行くのかもよく分からないまま、飛び乗った。

 わたしは海外一人旅をするとき、「地球の歩き方」を熟読し、情報を頭にたたき込む。一人旅において身を守る一番の武器になるのは知識だからだ。

 しかし、セントーヘンボスという街についての情報は、「地球の歩き方」に載っていなかった。それ以外にも読んだ数册のガイドブックにも、ない。日本人観光客にとってはあまり親しみのある街ではないらしかった。

 それなのにどうしてわたしがその街へ行こうとしているかというと、そこに「ヒエロニムス・ボス・アートセンター」があるからだった。ヒエロニムス・ボスはオランダの画家で、現存する絵画が四十五点ほどしかないという謎多き人物だ。彼の絵をはじめてみたとき、わたしは自分の脳味噌が酷く混乱するのを感じた。そこに何が描いてあるのかは分かるのに、何が描いてあるのか分からないのだ。その絵は天国にも地獄にも似ていて、明るく可愛らしく不穏で不気味。曼荼羅に少し似ている。そして混乱ののち、感激し、感動する。彼の絵を見ているとわたしは、自分の脳味噌や体の細胞が喜ぶのを感じるのだった。

 その彼が生まれ育った街が、セントーヘンボスなのだ。自分が好きな世界を描く画家が何を見て育ったのか、それを見ることができるのは至福の体験である。考えるだけでまた細胞が喜ぶ。

 とはいえ、わたしが乗っているこの電車がセントーヘンボスへ行くのか、わたしにはまだ分からない。

 不安になりながら、携帯を手にした。オランダの電車はWi-Fiが飛んでいる。開くとすぐに、よく分からないページに勝手に飛んだ。オランダ鉄道のページらしい。そこには、わたしが今乗っている電車がどこ行きで、何時にどこ駅に着くかが書かれていた。そのページと、用意していたオランダ鉄道の路線図を見比べる。ユトレヒトで一回降りて乗り換えれば良いことがすぐに分かる。ユトレヒトへはあと一駅だ。わたしは慌てて電車を降りる準備をする。

 すごい、オランダの国鉄。なんて親切なんだ。
 サービス料、これならもっと払ってもいい、と心から思った。  

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