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2016.12.13

あの世に行かれても大切なお客様

安達 晴彦

あの世に行かれても大切なお客様

京都を中心に携帯電話ショップ等を展開するテレアースジャパン。万年最下位のとある店舗が、わずか2ヵ月で首位になった理由は、なんと朝礼でした。

ただ参加するのではなく確実に成果を出すための朝礼の考え方から、人財育成・採用活動・地域密着ビジネスの真髄まで、チーム力を強くするためのメソッドがつまった書籍『朝礼ざんまい 人財が育つ、成果が上がる』より、リーダーもスタッフもお客様も幸せになる働き方を紹介いたします。


あの世に行かれても大切なお客様


 私が時々、お邪魔する喫茶店「ジャッキー」でも常連さんと言われるお客さんがどんどん他界され、いつもその店に来たら座っていた指定席が自ずと空くようになっています。

 丹後の網野で昔から魚屋「田清鮮魚店」を営んでいる田茂井さんもその1人で、ジャッキーに行くと、いつもの指定席で機嫌よくコーヒーを楽しんでおられました。田茂井さんは70代。その時代の人にしては珍しく身長は180cmもあり、若い頃から腕っ節も強く、リーダー格の存在で、いわゆる田舎町の「番長」でした。
 みんなから「田清さん」「田清さん」と慕われていました。

 その田清さんからも私はとても可愛がって頂き、ある日「晴ちゃん、その革ジャンええなー。わしに売ってくれんか」と言ってきました。それ以前も体格が私と似ていることもあって、何枚か服をプレゼントしたことがあります。しかし、着ているジャンパーをその場で売ってくれと言われたのは初めてです。

 そのジャンパーはぱっと見では革ジャンに見えるのですが、素材はビニールでレザーに似せたジャンパーです。
 ですから私は「お金なんか要らんよ。プレゼントするわ」と言って、着ていたモノをその場で渡しましたが、そこは番長。「こんないいモノをタダでもらうわけにはいかない」となかなか引き下がらないので、「そしたら1000円だけちょうだい」と言って手打ちにしました。とても満足げにそのジャンパーを羽織って、ジャッキーを後にされました。

 それから5年ほどあと、田清さんは胃ガンに侵され入院してしまわれました。
 その話を聞いて、私は近くの病院までお見舞いに行きました。

 お花とお菓子を持って見舞いに行くと、病室に奥さんもおられました。
 すると奥さんが「安達さん。ちょっと運んで欲しいモノがあるから手伝って」と私は病室の外に連れ出されました。
 そして駐車場まで奥さんに付いて行くと、実は1人でも持てる軽い荷物でした。

 「主人はあのように見えても、ものすごく臆病で怖がりなんです。今回の病気も本当は胃ガンなんだけど、軽い胃潰瘍だと言っているので本人にはガンということは内緒にしておいて下さい」

 再び病室に戻ると田清さんは、いつもと変わらない笑顔で
 「ただの胃潰瘍だから、すぐ退院して帰るのに晴ちゃん、わざわざ見舞いに来てくれてありがとう」

 それから入院は長引き、2ヵ月。すっかり痩せ細ってしまい、自力で立てない状態になってしまいました。
 いよいよ家に帰すということになり、退院をしました。良くなっての退院ではなく、見送るための最後の退院です。
 退院当日、お宅まで見舞いに行きました。
 背が高くあれだけ体格が良かったのに、ガリガリに痩せ細り、最早、言葉も聞き取りにくいくらいの細い声。

 「田清さん早く良くなって一緒にジャッキーに行こうよ」
 私は田清さんの涙を初めて目にしたことに驚きました。ポロリとこぼし、私の手をきゅっと握りました。
 その様子を奥さんと息子さんご夫婦がはたで見ていて、いたたまれなくなったのか、部屋から出ていかれました。部屋には私と田清さんだけ。

 か細い声で「晴ちゃん。わしガンと違うかなぁ」
 「そんなん違うよ。胃潰瘍や」
 「胃潰瘍ってこんなに悪くなるん?」
 「ガンやったら退院はまずない。胃潰瘍やて」
 私が精一杯、作ったつもりの笑顔は見透かされました。

 「晴ちゃん。ほんまのことを言うて。晴ちゃんやったらほんまのこと言うてくれるやろ」
 私の中で言葉がなくなりました。
 田清さんの目からはただただ涙がポロポロ。
 「多分、僕より先に田清さんはあの世に行くでしょう。僕もいつかその場所に行きます。だから田清さん。先に行って、陽当りのいい、綺麗な景色の見える特別席を取っておいて」
 「ありがとう。やっぱり晴ちゃんだわ。わしが最高の場所を取っといてやる。その代わりゆっくり、ものすごうゆっくり後で来てくれ」

 田清さんの表情は心なしか明るくなったような気がしました。

 もう私だけでは無理です。
 一杯思い出を持って逝ってもらうために、ジャッキーの常連さんたちに協力してもらって、励ましのビデオを撮影しました。
 10名ほど協力してくれました。
 「早く元気になって一緒にコーヒー飲もうよ」
 「いつまで寝てるの。早くコーヒー飲みに来な。みんな待ってるよ」
 「はよ来な。指定席、わしがもらうで」

 後日、お宅にお邪魔し、寝たきりの田清さんが見やすい位置にテレビを移動し、みんなからのビデオメッセージを観てもらいました。
 田清さんはずっと涙。

 「晴ちゃんありがとう。こんなことまでしてくれてほんまありがとう」
 私の手をぎゅっと握りしめてきました。
 私もやっと涙させてもらうことができました。
 声を出して。

 結局、それが田清さんとの最期の別れになりました。
 お通夜に行くと、5年前に田清さんに1000円で売った例の革ジャンが棺の中に入っていました。
 そのジャンパーはセリ市場や狭い冷凍庫などを行き来してできたひっかきキズや破れなどをガムテープで貼り、ずっと愛用してくれていたんですね。

 あとで奥さんから聞いたのですが、「そのジャンパーもう破れたし、あんた新しいの買うたら」と言っても、「これは晴ちゃんから分けてもらった大事なジャンパーだ。破れはガムテープを貼れば大丈夫。まだまだ着れる」と言いながらずっと着てくれていたそうです。

 肌寒い季節になって似たようなジャンパーを着ている人を見かけると、いつも田清さんのことを思い出します。
 それだけが私が田清さんに今、できることです。

 長くなってしまいました。すみません。

 地域密着型の仕事を続けていると、色んな経験や苦しみ、悲しみが積もります。
 地域のお客様とのこうした絆が、私を今日まで支えてくれていると確信しています。
 

 

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