“ドラマこそ今を映すジャーナリズム”。「月9」が連続ドラマの頂点に立つまでの10年の軌跡と、恋愛とバブル経済に沸き、崩れ初める日本社会を描いた話題作『月9 101のラブストーリー』(中川右介著)。第2回は「はじめに」をお届けします。

 

はじめに

「月9」と書いて、「げつく」あるいは「げっく」と読む。「月曜日夜九時」を意味するテレビ業界の略語である。月曜夜九時から放映される番組は、地上波の全国ネットだけでも七つある。しかし「月9」と言う場合、それはフジテレビ系列で放映されているドラマのことを指す。

 フジテレビの月曜九時枠は一九八七年四月からドラマ枠となり、最初はフジサンケイグループ企業が実名で登場する、マスコミ業界を舞台とした「業界ドラマ」が放映された。その後、一世を風靡した「トレンディドラマ」を放ち、ドラマに革命を起こし、人気時間枠として確立された。

 以後「月9」枠で主役を勤めることが若手俳優のステイタスシンボルとなり、新人の登竜門ともなった。俳優にとどまらず、脚本家にとっても同じだったし、主題歌・挿入歌になれば大ヒットが約束されたので、ミュージシャンにとっても重要なドラマ枠となった。

 その特徴として、登場人物たちが最新のファッションに身を包み、人気スポットで飲食しているといった表層的なことが批判の的となっていたが、ドラマの作劇上の特徴としては、
 

・「職業を持つ女性」が主人公であること
・「現代の東京」が舞台であること
・「恋愛」が重要な位置を占めること
・ 数人ずつの男女が主人公の群像劇であること
若い主人公たちの「親」と「故郷」と「過去」が出てこないこと
スタジオでのセット撮影よりもロケが多用されること
・ 主題歌があり、クライマックスになると流れること
・ 衣裳やロケ地がタイアップであること

 などが挙げられる。

 これらの特徴のひとつひとつは、「月9」以前のドラマにもあったものだが、「月9」はそれを徹底化した。それによって生まれたのが、これまでとは異なる、きらびやかなドラマだった。ヒロインは悩みを抱えつつも美しく輝き、前向きに生きていく。それを支えるのが、「トレンディ」とされるファッションであり、都会の風景だった。

「月9」枠の作品ではないが、同時期にフジテレビが作った『抱きしめたい!』はトレンディドラマの代表作だ。これが放映されていたのは一九八八年夏であり、その年の秋に昭和天皇が重体となるので、まさに、このドラマが描いた男女関係と女同士の友情こそが、長い昭和の到達点だったのである。

 時代が平成となり、後に「バブル」と名付けられた時代も終わると、「月9」のトレンディドラマはリニューアルされ、より恋愛に比重を置くようになる。『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』は「純愛ドラマ」に分類されることもあるが、このあたりまでをトレンディドラマとしていいだろう。

 「月9」ドラマは女性が主人公の作品が多かったが、木村拓哉という俳優を得てからは、男性が主人公のものが増えていき、恋愛ドラマではないものも作られていく。それでも、「若い女性」を主なターゲットにしているのは、二〇一六年のいまも変わらない。

 この本は、「月9」の歴史を、一九八七年からの最初の十年を中心に、文字通り「歴史」として描くものだ。何年何月から何月までどのドラマが制作され、誰が主演して、どんな内容だったかを記していくわけだが、あらすじを列記していくのではない。ドラマのなか、芸能界、現実の世界、という三つの時空間をパラレルに記していく、メタノンフィクションとなる。

 そのなかでも、次の四つが大きな流れとなる。

「時代のヒロイン」の座が、浅野温子・浅野ゆう子から鈴木保奈美、中山美穂と移行する女優たちの世代交代。
・木村拓哉が「時代のヒーロー」になっていくサクセスストーリー。
ドラマ作りの中心が「作家主義」から「プロデューサーシステム」へ移行し、さらにまた「脚本家の時代」へと移るテレビドラマ発展史。
・フジテレビという企業の盛衰。

 これらが「月曜九時」という場で絡み合いながら、進んでいく。

 

 本書は演劇・映画の一ジャンルとしてのテレビドラマを扱うが、文化・藝術論ではない。さらには社会学の評論でもないが、二十世紀末から二十一世紀初頭の日本を考察するための資料になるであろう。

 あの時代のドラマ群とそのヒロインが提示していたのは、ファッションやグルメのカタログ雑誌的情報だけではない。自由で自立した女性たちが、同性と異性の友人たちとベタベタしない友情を保ち、やりがいのある仕事をし、切ない恋や素敵な恋をして、楽しく前向きに生きていける日本社会の到来を宣言したのだ。それは現実の日本社会よりも一歩か半歩先を進んでいたが、いつかはそうなる近い未来のはずだった。

 そして二〇一六年──「月9」の歴史が始まって三十年が過ぎようとしているいま、この枠のドラマの視聴率は低迷している。それは、結局のところ、そうなるはずの未来が到来しなかったことの象徴なのか。

 

 タイトルに「101のラブストーリー」と入れたのは、「月9」の代表作である『101回目のプロポーズ』『東京ラブストーリー』からの思い付きで、実際は、「101」作品を細かく書くわけではない。

 一九八七年からの二十九年間を細かく記すと、とても新書の枠組みには収まらないので、最初の十年──九六年の『ロングバケーション』までとするので、対象となるのは、三十九作だが、言及するのは、「月9」枠以外の他局の作品も含めれば、二百近くになるかもしれない。ほとんどのドラマは、一作の中に複数のラブストーリーがある。「101」というタイトルの数字は、象徴としてのもので実数ではない。あまり細かいことは気にせずにお読みいただきたい。


※第3回に続きます。12月6日(火)公開予定です。

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