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2016.11.16

不在と時間

鈴木 涼美

不在と時間

「どこにいる? また帰ってこないつもりなのか? 手紙には何が書いてあるんだ? 手紙は帰ってからお父さんが読む」

 横浜西口の駅ビルに入っていたシアトルカフェというベーグルとサラダの店で、ユリアに見せられた携帯電話の画面を前に、彼女と私はいろいろと対策を練っていた。今から14年ほど前の秋のことである。

「一応、返信しといた方がいいんじゃない? また捜索願出されるよ」
「返信しても出されると思う。でも、帰るとほんとに監禁状態だし。ただ、ダブルの場所も自分の店の場所もバレてるから、当分、出勤はできないかも」
「店替えれば? 普通のキャバじゃ嫌なの?」

 当時19歳だった私は、横浜西口の大手グループのキャバクラに勤めだして間もなく、実家を出て桜木町と関内の間の、新しいけれどひたすら狭い部屋で一人暮らしをしていた。一応、部屋を桜木町の徒歩圏内にしたのは、桜木町から大学のある湘南台までは横浜市営地下鉄で1本であるという、ぎりぎりの言い訳があったからなのだけど、私と昼間のまっとうな世界を結ぶ架け橋の地下鉄には、結局年に10回くらいしか乗らなかった。

 ちなみにユリアというのは、西口の同じビルの中に入っていた、水を使ったダンスショーのあるキャバクラの女の子で、同い年の専門学校生だった。ちなみにその、水を使ったダンスというものの需要は当時の私にはよくわからなかったし、いまだにあの店の存在意義はよくわからない。私たちは、同じスカウトを使って店に入っていたので、そのスカウトマンのマンションで一緒にウイニングイレブンをしたり、他のスカウトマンやキャバクラの内勤の男の人たちと居酒屋で呑んだりしているうちに仲良くなった。

 ユリアは東戸塚にある実家から店に通っていたのだが、キャバクラで(しかもなぜか水を使ったダンスを披露するキャバクラ)バイトしていることは直近まで親に話していなかった。ありがちな青春の話だが、当初専門学校に行きながら週に3回くらいバイトで出勤していたユリアは、ホストの彼氏(で、その人が勤めていたホスクラの名前がダブル)の家に入り浸るようになり、店の出勤も増やし、代わりに学校にはほとんど行かなくなっていた。

 家にあまり帰ってこなくなった上に、学校に行っていないらしい娘を心配した父親は、最初に捜索願を出し、ユリアが思いっきりそれを無視していたため、探偵らしき人と一緒にダブルの前で待ち構えて、朝方に御用となって家に連れ戻されたのである。結構な頻度で連絡をとったり、お互いの店終わりに合流してカラオケに行ったりしていたユリアがなんか連絡つかないなと、私が不信に思っていたら、しばらく携帯電話も没収された状態で、家に軟禁されていた、というメールをもらった。

 父親の情けなのかどうかはよくわからないが携帯電話は返してもらい、そうしたらすぐ、父親が仕事でいない日中に置き手紙をし、必要な荷物を偽物のヴィトンのシースルーのバッグに詰めて、ユリアは再び避難してきた。……ものの、大荷物でうろうろしているのにもかかわらず彼氏の携帯が繋がらないと言って、私がそのベーグル屋に呼び出されたのである。

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