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2016.11.20

第1回 日本人は修行好きである

なぜ習い事の名前には「道」がつくのか

中村 圭志

なぜ習い事の名前には「道」がつくのか

 日本人にとって「縁起」「他力本願」「煩悩」という身近な言葉は、みな仏教の言葉です。多くの家には仏壇があり、お盆になると帰省してご先祖様の墓参りをし、人が死ぬと仏式で葬式をあげる習慣があります。日本人は仏教でてきているといってもいいかもしれません。
 しかし、私たちの多くは毎日お寺に行ったり、念仏を唱えたりはしません。では、仏教とは何なのか……。
 『教養としての仏教入門』の著者で、さまざまな宗教を平易に説くことで定評のある宗教研究者の中村圭志さんが、日本人なら耳にしたことがあるキーワードを軸に仏教を解説。本書より、一部を抜粋してお届けいたします。

 

修行好きという日本の伝統

 日本には伝統的にさまざまな習い事が多い。茶道、華道、俳句、剣術、柔術など、師匠について少しずつ習熟していくというシステムだが、いずれもどこか精神修養的な側面をもっている。起源をたどると、禅宗などの仏道修行の伝統が影響を与えている。

 こうした修行の伝統があるので、日本では、ビジネスでもスポーツでも芸能でも、「何か一つだけすごいことをやってみせたらそれでOK」というものではない。どこかでやはり全人格的な理想を追求している。西洋式格闘技のレスラーに要求される肉体的能力と、相撲取りに要求される肉体+精神的美徳との違いのようなものだ。

 こうしたやり方には重苦しさや封建的性格といったデメリットも伴いがちなのだが、大事なのは、「人生は修行である」という根本的展望が人生観を深く規定しているということだ。こういう文化的規定は個人の好みや決意だけで簡単に変わるものではない。

 日本人の修行好きは、娯楽の世界にも入り込んでいる。漫画やアニメのファンタジーや関連ゲームの世界も、修行のモチーフにあふれかえっている。何かパワーをつけて次々と敵や難題を乗り越えてステージを上げていく。これは、仏道修行のやり方の俗世バージョンに他ならない。

 おまけにマゾっぽいというか、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公碇シンジのように「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」と、なんだかワケの分からない境遇の中で、それでも懸命に頑張るのを良しとしている。これまたもちろんブラック企業の餌食になりそうなメンタリティーであるけれども、モチーフとしての不言実行型の修行を好むという、我々の中に潜在する文化的体質は認識しておいたほうがいいだろう。

あくまで精神の修養がメイン

 とはいえ、我々が世俗的に求める修行と、宗教の世界の修行とではニュアンスに大きな違いもある。

 仏道修行がコンピューターゲームなどと異なっているのは、仏教が目指すのは点数化された格闘技パワーやサバイバル能力を溜め込んでいくことではない点である。仏教はやはり宗教であるから、目指すのは精神的なものだ。「敵」といっても、生身の人間や敵国のことではない。自分の精神の中の敵、すなわち迷いや煩悩、そして自意識過剰などである。

 敵はいずこにありや?

 汝の心にあり。隙ありー! デヤー!!!

 このあたりのセンスは、武士道や宮本武蔵などの武芸の達人を描く小説や漫画の世界から類推がつくかもしれない。武芸の達人は、定義上は「戦士」であるが、ストーリーとしてのポイントは、敵をぶちのめすことではなく、オノレに克つことだ。できれば戦わないのが望ましい。物理的暴力は主題ではない。

 仏教の目標は、また、ビジネス上の出世や成功のようなものでもない。経済戦争は武力よりスマートであるが、物理的に相手を打ち負かすという点では暴力戦と同じ水準にある。実際、国家間競争においては、経済と軍事は連動している。

 仏教が目指すのは、煩悩克服ゲームにおける成功である。それは格闘技的サバイバルゲーム、ビジネス戦争、スポーツ界・芸能界・政界の競争のいずれとも異なるものだ。

 

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