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2016.11.11

オランダ旅行記2

アムステルダムは煙い

狗飼 恭子

アムステルダムは煙い
 空港からアムステルダム中央駅まで、国鉄で二十分。
 小さなスーツケースを一つ持って、アムステルダムの街に降り立つ。東京よりも空気がひんやりとしている。飛行機が着いたのは十五時過ぎだったけれど、入国に少し時間がかかったせいで時計はもう十六時半を指していた。
 
 駅前に広がる異国の景色を見ても、とくになんの感慨もなかった。少なくとも、感動するほど綺麗ではない。アムステルダム中央駅は東京駅と似ているとよく言われているから、初めて見る感じがしなかったせいかもしれない。人が多過ぎるのも一因だろう。休日の原宿のようだ。目の前を通り過ぎていく何台ものトラムを、ぼうっと眺める。
 
 ヨーロッパの風景に目がなれてきたのかな、とも思う。でも去年行ったオーストリアでは、駅を降りてすぐに大きな感嘆のため息が漏れた。アムステルダムがあんまりわたしに響いていないのはどうしてなのかな、考えながらとりあえず足を進める。
 トランクの中身はほぼ空だから重くはないのだけれど、初日だし、日没までにはホテルへ入ろうと思っていた。ホテルは、アムステルダム中央駅の裏にある無料フェリーで運河を二十分ほど渡ったところにある。
 
 この国の十月末の日没時間は、十八時だと本に書いてあった。
 中央駅周辺は気をつけた方がいい。ネットでこの街について調べれば調べるほど、そんな書き込みばかりが目についた。あんなに駅前が暗い先進国は滅多にない、とか、大麻が合法の街だからそこかしこにジャンキーがいる、とか、街中が大麻の甘い匂いで煙っている、とか。数日前にイランへの空爆が再開されたばかりだったこともあって、わたしは少し緊張しながら街を歩いた。空爆にはオランダ軍も参加しているから、テロへ巻き込まれる可能性だってあるのだ。
 
 ホテルの周りにはほとんどお店がないらしいということも調べていたので、なにか食べるものを買っていこう、と思う。一人旅のときは、大抵食事はホテルの部屋で取る。欧米のレストランの食事は、わたしには多すぎるし脂っこすぎるのだ。歩きながら売店を探すが、とにかくとにかく人が多い。この人たちみんな観光客なのだろうか。
 一本目の運河にたどり着く。観光ボートの案内が見えた。アムステルダムは周囲を運河に囲まれた街だから、ボートで一周できるのだった。乗ってみよう、となんとなく思って、十六ユーロ払って乗り込む。天井はガラスで覆われているから寒くない。上着を脱いで音声ガイドのイヤホンを耳にさす。日本語ガイドがあったのでそれを選ぶ。
 
 ボートは、一時間かけてアムステルダムの街を回った。運転席に座っていたのは二十代の若い女の子で、足を組んでサンドウイッチを食べながらときどき目の前の機材を触った。自動運転なのかもしれない。厚いガラスの向こう側にゆっくりと流れていくアムステルダムの町並みを、ぼんやりと眺める。いくつもの水門や、ゴッホの絵の情景に似たマヘレのハネ橋や、アンネ・フランクが匿われていた家や、その家の中を見ようと並ぶ観光客の長い列や。アムステルダムの街は確かにどこか煙って見えた。曇天のせいかもしれないけれど。
 
 ここは、今まで訪れた他のどの場所よりも「わたしに興味がない街」だと思った。わたしが、ではなく、わたしに。この土地から、ウェルカムっていう気持ちをまったく感じられないのだ。そんなのわたしの感じ方次第かもしれないけれど。そういうわたしだって、アムステルダムのことを多く知っているわけじゃない。これから、一週間かけてゆっくり知ろう。わたしはこの街を好きになるのだろうか。
 ゆっくりとゆったりと、旅が始まろうとしていた。
 
 

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