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2016.11.03

松井今朝子が描く「八百善」主人の生涯。これは読むご馳走だ。

松井今朝子『料理通異聞』

細谷 正充

松井今朝子『料理通異聞』

 『料理通異聞』松井今朝子
幻冬舎刊/本体1600円+税

 

 名料理屋の娘にして、手練れの時代小説家。江戸一番の料理屋「八百善」の四代目主人・善四郎の生涯を描くのに、松井今朝子ほど相応しい作家はいないだろう。

 浅草にある「福田屋」は、御斎が評判の料理屋である。その「福田屋」の息子の善四郎は、訳あって、大名相手の金貸しをしている水野平八の屋敷で丁稚奉公をしていた。さまざまな見聞と出会いを経て、「福田屋」に戻った善四郎は、父親を助けて店を切り盛りする。天明の飢饉を始めとする時代の動きにより、浮き沈みする料理屋という商売。しかし、遣り甲斐がある。父親から「福田屋」の主人の座を譲り受けた善四郎は、徐々に店を変えていく。若き日に見知った、酒井抱一や大田南畝、さらに亀田鵬斎や谷文晁といった一流の文人墨客が集まるようになった店は、「八百善」となり、大きな評判を呼ぶ。店の経営や私生活の問題など、幾つもの波乱を乗り越えながら善四郎は、「八百善」と共に生きていく。

 本書の読みどころは、大きく三つに分かれる。ひとつは主人公の善四郎だ。出生の秘密を持ち、心の底に“冷やっこいもの”を抱えている。だが一方で、物おじしない性格で、人の世話を焼きたがる。時に、弱さや狡さを見せながらも、料理と店の経営に魅了され、「八百善」を日本一の料理屋に育てた。自分の道を早くから定め、邁進した男の、充実した人生がここにある。

 もうひとつの読みどころは料理屋と、そこで出される料理の持つ意味だ。高い店で外食しなくても生きていける。なのに多くの人が、それを求める。料理屋での食事が文化だからだ。これを作者は、善四郎の思想を通じて表現しているのである。

 そして最後のひとつは、時代のダイナミズムだ。天明の飢饉から始まり、幾つもの史実が、善四郎と周囲の人々の人生を彩っている。そこから時代の流れの中で生きていかねばならない、人間の姿が浮かび上がってくるのだ。

 こうした各題材を、作者は巧みな文章で、紙上に美しく盛り付けた。どこを頬張っても味は抜群。これは読む御馳走なのである。

「小説幻冬」2016年11月号より)

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『料理通異聞』松井今朝子
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