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2016.11.03

日本推理作家協会賞、受賞後第一作。新人家裁調査官の葛藤と成長を描く!

柚月裕子『あしたの君へ』

西上 心太

柚月裕子『あしたの君へ』

あしたの君へ』柚月裕子
文藝春秋刊/本体1500円+税


  昭和の悪徳刑事を描いた『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞するなど、柚月裕子にかけられる期待は大きい。受賞後第一作となる本書は、氏が注目されるきっかけとなった佐方貞人シリーズ同様、法曹界が舞台となる連作だ。

 主人公となる家庭裁判所調査官補の望月大地は、実務修習として九州の裁判所に配属されたばかりの新人だ。当事者が置かれている状況を調査し、詳細な情報を裁判官に報告するのが家裁調査官の職務である。決定を下すのは裁判官であるが、調査官も判決の一端を担っているのだ。

 彼が補佐した最初の事案が、ホテルに誘った男の財布を盗んだ十七歳の少女の窃盗事件だ(「背負う者」)。心を開かない少女の家庭環境を調べていくと、少女一家の貧困問題に起因することが明らかになる。ではなぜ少女は情状が有利になるその事実を明かそうとしないのか。大地はその原因も突き止めるが、少女の処分に関する結論が、上司と正反対であったことに驚き、己の不明を恥じることになる。

 事件の真相解明で終わるのではなく、当事者の将来を見すえた適正な処分を下すことが本当の解決であるところが、本書の読みどころ。

 大地は大学を卒業したばかりの二十二歳。この仕事を選んだのは強い使命感によってではなく、調査官の知人がいたことと、公務員という安定した立場を求めたために過ぎないのだ。

 初めての事案では、人生経験の浅さが露呈してしまったが、申立書という紙に書かれた情報だけで真実が見えるなら調査官は必要ない、という上司の言葉を胸に、大地は地道な調査を行ない、文書からは読み取れない事実を明らかにしていく。

 男子高校生によるストーカー事件(「抱かれる者」)では歪んだ親子関係を、理想的に見える夫との離婚を望む妻の事案(「責める者」)では夫の意外な一面を調査によって浮かび上がらせ、当事者の益に寄与するようになっていく。

 人の一生を左右する職務に、悩みながら対峙する青年の成長物語の側面もある、好感の持てる優れた作品集である。

「小説幻冬」2016年11月号より)

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柚月裕子『あしたの君へ』(7月29日発売)
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小説幻冬 2016年11月号(10月27日発売)
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