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賞味期限のウソ

2016.10.27 公開 ツイート

「賞味期限」と「消費期限」の違いを知っていますか 井出留美

 「食品ロス」という言葉をご存じでしょうか。まだ食べられるにもかかわらず、賞味期限が迫っているため流通できないなど、様々な理由で廃棄せざるを得ない食品のことです。
 日本の食品ロス量は、632万トン(2013年度、農林水産省調べ)。世界の食料援助量は約320万トン(2014年)なので、日本は、世界全体で支援される食料の約2倍もの量を捨てていることになります。しかも、日本の食品ロス632万トンのうち、約半分は、消費者由来、すなわち家庭から出ています。
 なぜ日本はこのような「食品ロス大国」になってしまったのでしょうか。
 家庭からの食品ロスを減らす第1歩は、まだ食べられる食品・もう食べられない食品を正しく知ることから。
 新著『賞味期限のウソ――食品ロスはなぜ生まれるのか』で、食品をめぐる「もったいない構造」に斬り込んだ食品ロス問題専門家の井出留美さんが、混乱しやすい「賞味期限」と「消費期限」の違いを解説します。

* * *

●「消費期限」は過ぎたら食べない、「賞味期限」は食べられる!

 食品に表示された期限には、「賞味期限」と「消費期限」の2種類があることを、ご存じですか。「賞味期限」と「消費期限」は、何が違うのでしょう。早めに食べないといけないのはどちらでしょう。

 答えは「消費期限」です。

「消費期限(use-by date)」とは、食品表示法によれば「食品を摂取する際の安全性の判断に資する期限」です。農林水産省の「加工食品の表示に関するQ&A」では、「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗、その他の品質の劣化に伴い、安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日」「開封前の状態で、定められた方法により保存すれば、食品衛生上の問題が生じないと認められるもの」「消費期限を過ぎた食品は食べないようにしてください」と説明されています。

「消費期限」は、お弁当やサンドウィッチなどの調理パン、お総菜、生菓子、生麺、食肉など、日持ちがしない食品に表示されます。日付を過ぎると、急激に品質が劣化します。「消費期限」が表示されたものは、日付を守って食べることをお勧めします。

「消費しなければいけない」消費期限と違って、賞味期限は「おいしさの目安」です。
「賞味期限(best-before date)」とは、「未開封の状態で、定められた方法で保存した場合、期待されるすべての品質の保持が十分可能であると認められる期限を示す年月日」のことです(前出、農林水産省の加工食品の表示に関するQ&Aによる)。スナック菓子、即席麺類、缶詰など、品質が長く持つ加工食品に表示されます。

「当該期限を過ぎた場合であっても、必ずしもすぐに食べられなくなるわけではありませんので、それぞれの食品が食べられるかどうかについては、消費者が個別に判断する必要があります」とあり、国は、食べられるかどうかを判断する責任を消費者にゆだねています。

 賞味期限は、本来の期間より約2割前後、もしくはそれ以上短めに設定されていることが多くあります。購入してから、表示されている保存方法を守って保管していれば、多少、日にちが過ぎても食べることが可能です。賞味期限は「おいしさの目安」ですから、においを嗅かぐ、目で見る、などの五感を使って、問題ないと判断できれば、食べて大丈夫なのです。
 

⇒次ページ「ペットボトルのキャップの印字に注目!」に続く

 

左は年月表示 右は年月日表示(著者撮影)   

●ペットボトルのキャップの印字に注目!

 法律上、賞味期間が3カ月以上の食品については、賞味期限の日付表示を省略してもよいとされています。にもかかわらず、メーカーが、賞味期限を年月日表示にしている商品があるのは、受注・発注業務や生産管理のためであり、異物混入などのとき、製造ロットを特定してすみやかに回収するというトレーサビリティ(追跡可能性)が一つの要因です。

 商品に表示する賞味期限を、日付まで入った丁寧なものにしてしまうと、ある問題が生じます。それは、賞味期限の翌日からは、商品として流通できなくなってしまう、ということです。

「2017年7月」と書いてあれば、その商品は2017年7月31日まで流通させることが可能です。おいしく食べられる「賞味期間」に、より幅を持たせることができます。他方、「2017年7月1日」と日付まで表示されていると、その商品は、7月2日にはもう「食品」として流通させることはできません。まだ十分に飲食できるにもかかわらず、場合によっては「ゴミ」扱いになってしまうわけです。

 そのような現状を変えようという動きもあります。
 アサヒ飲料、伊藤園、キリンビバレッジ、サントリー食品インターナショナル、日本コカ・コーラの飲料メーカー大手5社は、2013年5月以降、国産のミネラルウォーターの大サイズ(2リットル)など、賞味期限が1年を超えるものについては、賞味期限を「年月表示」とし、業界内で標準化しました。

 その後、2014年6月製造分からは、缶コーヒーやお茶など、小さいサイズのペットボトルや缶入り飲料についても、「年月表示」への切り替えを実施、もしくは検討しています。

 2016年7月に開催された、メーカー(製)、中間流通・卸(配)、小売(販)の55社が参加する製・配・販連携協議会の総会では「賞味期限1年以上の商品を対象に年月表示化を推進する」という方針が固まりました。これは一つの進歩です。

 ただ私は、「賞味期限1年以上」からもう一歩踏み込んで、3カ月以上賞味期間がある食品については、食品表示法にのっとって、表示を年月表示にすることを、ぜひ徹底してもらいたいと願っています。

(年月表示の場合、半端な日にちは切り捨てられ、前月表示となりますから、厳密には100パーセントロス削減とはいきません。ただ、月表示にすることで、ロスの一因は緩和されます)

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◇次回は11月3日(木)に掲載予定です。

井出留美『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』

卵の賞味期限は通常、産卵日から3週間だが、実は冬場なら57日間は生食可。卵に限らず、ほとんどの食品の賞味期限は実際より2割以上短く設定されている。だが消費者の多くは期限を1日でも過ぎた食品は捨て、店では棚の奥の期限が先の商品を選ぶ。小売店も期限よりかなり前に商品を撤去。その結果、日本は、まだ食べられる食品を大量に廃棄する「食品ロス」大国となっている。しかも消費者は知らずに廃棄のコストを負担させられている。食品をめぐる、この「もったいない」構造に初めてメスを入れた衝撃の書!

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賞味期限のウソ

まだ食べられる食品を大量に廃棄する「食品ロス」大国・日本。小売店、メーカー、消費者、悪いのは誰なのか。食品をめぐる「もったいない」構造にメスを入れる。

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井出留美

食品ロス問題専門家。消費生活アドバイザー。博士(栄養学 女子栄養大学大学院)、修士(農学 東京大学大学院)。女子栄養大学・石巻専修大学非常勤講師。日本ケロッグで広報室長と社会貢献業務を兼任し、東日本大震災の折には食料支援に従事する。その際、大量の食料廃棄に憤りを覚え、自らの誕生日であり、人生の転機ともなった3・11を冠した(株)office3.11を設立。日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンの広報を委託され、同団体をPRアワードグランプリのソーシャル・コミュニケーション部門最優秀賞や食品産業もったいない大賞食料産業局長賞受賞へと導く。市会議員、県庁職員、商店街振興組合理事長らと食品ロス削減検討チーム川口主宰。平成28年度農林水産省食品ロス削減国民運動展開事業フードバンク推進検討会(沖縄)講師。同年11月、国際学会で本著内容発表。www.office311.jp

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