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2016.10.31

自分の頭で考えるとはどういうことか ――橋本治に訊く(1)

自分の頭で考えるとはどういうことか ――橋本治に訊く(1)

 名著『学問のすゝめ』を、橋本治さんがかつてない方式で解読して話題の福沢諭吉の『学問のすゝめ』。諭吉が当時の日本人に何を学べといい、庶民を熱狂させたのかを説いた本書を、浅羽通明さんにさらに突っ込んでもらうインタビュー企画。
 しかし気つけば、福沢諭吉と橋本さんの憂いが重なり、「今、何をどう学ぶか、なぜ学ぶのか」を考える根本的な内容となりました。
 橋本さん独特の“知の技法”も学べるロングインタビュー、全5回に分けてお届けします。(聞き手・構成:浅羽通明 写真:plus編集部)

浅羽通明さん(左)と橋本治さん(右)。久しぶりのご対面

 

 

1、橋本治はアメリカ女性大統領誕生も大学生のデモも二十年まえに予見している

 

——— 橋本先生は、1999年、28年まえ、『映画たちよ!』の末尾で、映画「アメリカン・クイーン」の予告編シナリオというパスティーシュの傑作を発表しています。アメリカ初の女性大統領誕生を波瀾万丈なハリウッド・オールスター映画としたものですね。そちらも現在、まさに映画でなく現実となろうとしています。

橋本 そうですね。ふっふっふ。

——— このまえ私が、橋本先生にインタビューさせていただいたのは、二昔まえ、『別冊宝島 東大さんがいく!』の企画ででした。その折、『人工島戦記』という大河小説の執筆を準備していると話されていたのが記憶に残っております。
 架空の地方都市を、地名駅名、バス停の位置まで全て創造して、その町で起こるゼネコン開発企画の波紋を通して、バブル以降の日本を描き尽くす全体小説とお聞きし、期待が高まったのですが……。

橋本 東京以外、実在する固有名詞が一つも登場しない(笑)。あれは最後、学生たちにデモをさせる話なんです!

——— そう。それです。当時それを聞いてピンときませんでした。構想は凄いと感じたけれど、日本で今後、学生がデモへ盛り上がる時代がやってくるとは思えなかった。昨年来の国会周辺デモを知って、橋本治の洞察力の射程にあらためて感嘆しています。

橋本 今のデモとはちょっと違うと思いますけど。

——— でしょうね。どこが違いますか。

橋本治(はしもと・おさむ)1948年生まれ。小説、評論、古典の現代語訳、エッセイ、芝居の演出など、創作活動範囲は多岐にわたる。近著は『お春』『国家を考えてみよう』など。「橋本治はいつだって“文化総体”」とは浅羽さんの談。

 

橋本 私が対象にしたのは、事態にピンとこないノンキなその時の学生達でした。
 大学生はバカだという前提で、そんなバカな大学生がデモをやったら注目されるんじゃないかと。そういうあり方もあるだろうと。そのデモをやるというクライマックスで一本筋を通して、地方社会が見えるようにしたかっただけですけどね。
 まだ終わっていませんけど。

——— あきらめてもいらっしゃらない?

橋本 三千枚は書いて、あと千五百枚くらいは書かないといけない。中絶したのは結局、金詰りなんですよね。あと二年で借金返し終わるけど、四半世紀の隔たり越えて続き書くのかなあという気もする。
 ただ何つうのかな……、バカな大学生と政治は結びつかないというふうに考えていたけど、バカな大学生と政治が結びつかないといけないんじゃないの?というのはありますね。
 だから、ビリギャルが慶應受かったっていうのがあるんだったら、アホな大学生がちゃんと政治家になるっていうのもあったっていいと思うんですけどね。でも杉村太蔵じゃあねぇ。志だけじゃあね。頭悪いとどうにもならないのが政治家ですもんね。といって頭いいだけでもどうにもならないし。

——— 「桃尻娘」シリーズの最終巻では、頭のいい大学生榊原玲奈は立候補する妊婦となってましたね。

橋本 そうなってもおかしくない時代だろうな、と思ったんです。
 日本ってボスがいなければ政治成り立たないでしょ。ところが子供たちがそういうボスを作れなくなっちゃってる。民主教育が進んだから政治家は生まれなくなったんですよね。だから、ウチの娘も政治家にしちゃえと。
 でも現実にそれやれるのは、元ヤンだけですよ。多分……。

 

 

2、橋本治は、モラルと知性が同居したヤンキーの誕生を希望とする

 

——— それはリアリティありますね。地方議員の若手には、族あがりっぽい人、準ヤンキー系みたいな人けっこういますよ。あの世界も人手不足で、そういうタイプしかなり手がいなくなってきている。人の上に立つってみんなやりたがらなくなってるから。

橋本 人手不足でまた劣化してゆく。
 だから、いまや希望は、ヤンキーに学問をさせるしかないです(笑)。
 なぜって、普通の知識人つーか普通の人って、もはやモラルがないんですよ。頭はいいだろうけど、とってもセコい元都知事のマスゾエくんみたいにね。でもヤンキーってモラルで成り立っているから、ヤンキーに学問あたえるとモラルと知性が同居して、なんか久しく失われていたものが蘇りそうで。
 だってあの人たちは知らないことだらけなんだから。何に出会っても「へえー!」って呑みこむばかりだからいいと思うの。

——— まさしく福澤諭吉が、『学問のすすめ』をぶつけたときのごとく、まっさらなわけですね。
 福澤の著が、特定の学問を実利を挙げて勧めたものではないのは、橋本先生の今度の著でも再三指摘されていますが、それでも、「日本国中は勿論世界万国の風土道案内」地理学とか、「一身一家の世帯より天下の世帯を説きたる」経済学とか、はなはだ多き「なおまた進んで学ぶべき箇条」の一端を例示していますよね。
 いま現在、ヤンキーであれ誰であれ学ぶべき箇条を一端でも例示してはもらえないものですかね。そういう要望は多いと思いますが。

橋本 いや、どんな学問をすればいいかはわかんないです。

 

福沢諭吉の『学問のすゝめ』も、「〈これ1冊であなたに必要な学問のあらましがわかる本〉ではありません」(p.201)と解説。

 

——— 人によって個別具体的にいろいろだからですか。

橋本 というか、私自身アレコレを勘だけでやってて、博覧型のトータリティがなくて、そういうガイドブックがあるということ自体がちょっと違わないかって気がするんですよね。 今だと、これ読めばわかるという本を教えてくださいとか、ネットでどこを調べればいいかとかになっちゃう。今の学問は複雑多岐に分かれ過ぎてしまって、それやっても結局、学問じゃなくて技術をマスターするって方向にしか行かないんじゃないか。
 私基本的に勉強して何かわかったって人ではないので。勉強しなきゃいけない材料が何だかよくわからないから、こういうのかなってやって、なんとなく直感でわかったみたいなものだから。ガイドブックも何もなくても、目つぶって立って歩いていれば、自分の中から何か浮かんでくるだろうぐらいの、何か変な教育の中にいたような気がするんですよね。
 だから私の大学生時代、皆がいってることまったくわかんない。社会主義の用語しかないんだもん。だから、国語辞典引いてました。初めて。「政治」って引いたら「まつりごと」って書いてあって何の役にも立たない。
 だから本を読んでもよくわからなかった。

 

 

3、橋本治は、ガイドブックを忌避して、数学の証明問題で悟った自分を回想する

 

橋本 私、多分これ誰に言っても「それいいですね」とは言われないんですけど、数学やってなんかわかったんですよ。数学の証明問題つーのがあって、ああ説明ってこういうふうにするのだって。それと出会ってはじめて、説明というのがわかった。
 数学っていうのはわかんなくなっても元に戻ってはじめからずーっとやってれば答えがわかるもんだってことだけはわかった。

——— 確かに橋本先生の文章の「まずこれを説明します」という書き起こし方とか、証明問題の解答っぽいですね。

橋本 だってそういうふうに説明してくれる人あんまりいないんだもん。
 だから、評論系のものってまったく読んでないんですよ。

——— でしょうね。評論系っていまや福澤がいってる「世上に実のなき文学」ですからね。
そんなの読んでいる人は、今回の福澤諭吉についての本とか、『小林秀雄の恵み』のような凄い思索は絶対出来ないと思います。評論系読んでると、肝心なところをこれは考え詰めないでも皆がいってるからいいやって無意識で思っちゃって難解になっていっちゃう。

 

橋本治著『小林秀雄の恵み』。小林秀雄という存在を、人生に「学問」を与えてくれる人として改めて読み解く画期的論考。

 

 ところが橋本さんは、『学問のすすめ』のような「価値の定まった有名なもの」が本当はどういうものなのかを知りたいという衝動にかられて、時代背景との関係を丁寧に解きほぐしながら徒手空拳(としゅくうけん)で読みやぶってゆける……。
 橋本先生はいつだって何についてだってそうやって考えてこられましたよね。

橋本 それしかできないんです(笑)。
 やっぱり福澤諭吉のあり方をもうここらへんで出していかないと話まとまらないしなっていうのはありましたね。
 昔だったら、福澤諭吉というと勝海舟の悪口言ってたとかどういう人かっていう知られ方ってあったけど、お札(さつ)になってしまって、よくわからなくなってしまった。

——— みなもと太郎先生の『風雲児たち・幕末篇』を読むといっぱい書いてありますけどね(笑)。
 いま出た勝海舟のほうはお読みになりますか。

橋本 いいえ。
 私は海舟よりも勝小吉のほうが好きです。というのは阪妻(ばんつま=阪東妻三郎)の映画のせいですけど(笑)。

——— 何という映画ですか。

橋本 「父子鷹(おやこだか)」です。阪妻がやるとみんな魅力的ないい人になるからすごいです。

——— そういう知識というか記憶が原点となって、橋本先生はご自分の思索を積み上げていらっしゃる。そのあたりのコツ、勉強して何かわかるのでない橋本式方法を片鱗でも見せていただけたらと…。
 たとえば先生は、十代の頃、読書なんかほとんどしなかったけれど、中公から出たばかりの「日本の歴史」「世界の歴史」のシリーズは読んだと書かれてましたよね。その読まれ方って、受験勉強のためとか歴史学者や小説家になりたいとか、あるいは歴史マニアや歴史「おたく」的な読み方とはまるで違っていたと思うんですよ。

橋本 うん。多分違うと思います。

——— そういういわば「自己流」で読めたのはどうしてかをみんな知りたいんじゃないか。

 

(第2回に続く。11月3日公開予定です)

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