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2016.10.12

ヨガはじめました。

狗飼 恭子

ヨガはじめました。<br />

   ヨガをはじめた。
 意外なことにもう半年以上続いている。意外なのか? 意外だ。ヨガは、ハワイ好きで海と夏が好きで、ノースリーブの服を好み、裏表なく社交的で、毎朝コールドプレスジュースを飲むような人がやるものだと思っていた。わたしとはまったく遠う人種。引きこもり気味で家を出るのは三日に一回程度、運動を一切好まず、一日の大半をソファで丸くなって過ごすようなわたしが、こんなに長くヨガを続けることができるなんて思わなかった。月に2、3度しか通っていないけれど。
 続いている理由は、わたしの選んだ教室が「陰ヨガ」を教えてくれるところだったから、だと思う。
 ヨガには大きく分けて二種類あるらしい(そういう知識はまだまったくない)。陰のヨガと陽のヨガ。陽のヨガは大きく早く体を動かす、太陽の下が似合うヨガで、陰ヨガは一つのポーズを三分から五分程度続けるという、薄暗闇で行うヨガだ。そのポーズもストレッチみたいな物が多く、基本的にずっと、座っているか寝ているか丸まっているかである。瞑想のヨガと呼ばれているといえば分かりやすいだろうか。イメージ的には、ハワイとかカリフォルニアでやっているのが陽ヨガ、インドとかチベットでやっているのが陰ヨガ。あくまでわたしの中のイメージだけれど。
 陰ヨガでは、汗をかいたりはほとんどしない。部屋の電気も薄くしかつけていないから、他人の目が気になるなんてこともない。目をつむって、ただただ自分の体にさわり、先生と同じポーズをとり、じっとしている。
 考えて見れば、今までこんなに自分の体に触れてあげたことなんかなかったかもしれない。ただただ息を吸って息を吐くことに集中する。すると、そのとき頭の中にあることがとてもクリアに浮かび上がってくる。
 ヨガ教室の最後には必ず、薄暗闇に寝転がって目をつぶる。
 そのとき、先生は必ずこう言う。
「眉間のこわばりをほどいて、奥歯の噛みしめをといて」
 その台詞を初めて聞いたとき、気づいてはっとしたのだ。自分が常に常に眉間に力を入れ、奥歯をぐっと噛みしめて生きていたのだということに。自分が、体にずっと力を込めていたのだということに。
 力を抜いて、ただただ暗闇でじっとする。夢とうつつの間の、朝と夜の間の、目が醒める前の数分間にたゆたっているみたいな感覚。
 考えてみれば、ヨガをはじめる前のわたしも基本的にはいつも薄暗闇でひざを抱えてうずくまっていた。やっていることはほとんど同じだ。ただ違うのは、奥歯をゆるめ、眉間に皺を寄せずにいられるようになったこと。
 体から力を抜くのは難しい。でもそれが、少しだけ上手になったような気がする。
 陽のヨガにも数回行ってみた。
 そっちはぜんぜん楽しくなかった。疲れるし汗をかくし、周りの人みんなノースリーブのヨガウェアを着ていたし、コールドプレスジュースを飲んでいそうに見えた。はじめたのが陰ヨガで良かったと思った。

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