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2016.10.14

なんだか面白いので、まだ続けるよエッセイ23

誰にでもある「母校」。“今の自分”がそこへ戻った。生徒たちの目に、僕はどんなふうに映るんだろう?

歌う旅人・香川 裕光

誰にでもある「母校」。“今の自分”がそこへ戻った。生徒たちの目に、僕はどんなふうに映るんだろう?

母校。せつないような、懐かしいような、思い出したくないような、恥ずかしいような、そんな響きがします。
母校の体育館でライブをやってほしいと依頼があった香川さん。
今の自分を、10代の若い人たちはどんなふうに見て、なにを感じるんでしょうか?
自分自身の“あの頃”を思い出してしまう、今回のエッセイです。

*   *   *

エッセイ
旅人、母校へ帰る。


『キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……』
 なんとも懐かしい音が響く。
 湿った木の匂い。薄汚れた高い天井。床と靴が擦れて響く音。先生の呼び声。体操服。ポニーテール……。
 学生時代の記憶に残っているイメージとなんら変わらない体育館のステージの上で、僕はギターを抱えてリハーサルをしていた。
 なんと、自分の母校となる地元の中学校で、コンサートを開催して頂くことになったのである。
 ステージ上には『香川裕光凱旋コンサート!』と誇らしい横断幕までぶら下がっている。

 今から15年以上も前、卒業式の最中に天井を見上げながら、「嗚呼、青春の日々も、これで最後か…。もう2度とこの天井を見上げることもないな…。さようなら、母校…」なんて涙を堪えていたけれど、まさかこんな形でこの場所に帰ってくることができるとは……。ありがたいことだ。
 実際のところ、厳格なクラシック音楽でない、我々のやっているPOPSのようなジャンルの音楽は、「教育」というフィールドにおいてはとても間口が狭いようだ。学校などに招いてもらう機会にはなかなか恵まれない。
 教育委員会の同意や、授業時間の確保など、しがらみが多い中、”割りとイケイケな校長先生”や”型破りなPTA会長さん”が強引に話を通して下さって初めて実現できるような事なのだ(多分)。
 それこそ、そのしわ寄せは、真面目な教頭先生あたりが一挙に引き受けて下さっているに違いない(※多分)。

 なにはともあれ、「香川くん! 母校の後輩たちに”夢”を語ってよ!」という地元の皆さまの熱い思いのおかげで、旅の途中に、僕は久々に母校へ帰ってくることができたのである。
 ただいま母校。大人になって、帰ってきたよ。

 とはいえ、実は中学生を相手に歌わせてもらうのは初めてで、多感な思春期の学生たちにこんなおっさんの歌や言葉がちゃんと響いてくれるんだろうかと、内心大変ビクビクしていた。
 自慢ではないが、僕の歌が十代の少年少女に響いた試しが、あまりない。
 どちらかというと、僕はしっとりとしたバラードを歌うのが得意だ。更には運動音痴なのでダンスも踊れない。そして見た目も色白で、割と爽やかである(ええまぁ)。
 しかし、昨今の流行曲というのは、比較的リズム重視なダンス音楽や、ハードロックやデスメタルのような重さがあってテンポの速い曲が多い。そういった曲がアニソンに起用されたりもしているので、10代の人たちの耳に入りやすい。
 バラードのような静かな音楽を聴く中学生は、最近は少ないんじゃないかと思う(もちろん! バラードが好きな学生もたくさんいるけどね!!)。
 もはやスローバラードなんてものは、30代以上の大人が楽しむための音楽になりつつある気がするのだ。
 でも自分の学生時代を思い返してみたら、真面目で勤勉な自分のような人間よりも、髪を茶色に染めて、隠れてタバコを吸って先生に呼び出されるようなちょっと悪い感じの友人の方が、よほどモテた。
 やはり”三代目JSoul Brothers”のように、ちょい悪な感じがあって、ダンスとか上手くて、色黒で、恰好良い大人が魅力的なのは、いつの時代でも変わらないのかもしれない……。

 さあ愚痴っていても仕方がない。
 あと数十分後には、自分の目の前に全校生徒の中学生が数百人、整列するのだ。今さら、短い足を背伸びしても仕方ないし。タバコも吸わないし、優しいし、真面目だし……なんだから、しょうがないじゃないか。
 今の自分ができる最大限で、後輩達にぶつかっていくことにした。

 本番が始まると、怖がっていたようなことはまったくなく、むしろみんな純粋にまっすぐに、僕達が放つ音や言葉を受け取ってくれた。
 彼らには、僕がどんなふうに見えているのだろう。
 良い歳して夢を追いかけて、夢を語る大人は、思春期の彼らにとってどんな存在に映るのだろう。
 何度も何度も想像しながら、逃げ出したくなる気持ちを押し殺して、声を絞り出した。

 最後の曲が終わって、とてもたくさんの拍手をもらって、その音が鳴りやんだとき、何故か、あの頃の気持ちがそっくりそのまま蘇ってきた。
 目立ちたがりで、勉強が嫌いで、恋ばかりしていた少年が、なんだか照れ臭そうに顔を出したのだ。
「やるじゃん。いまなら、あの子も振り向いてくれたかもよ?」と、少年だった自分に褒められた気がした。
 さちえちゃんは元気にしてるんだろうか――。

 僕はまだ夢半ば。
 今の自分は、可愛い後輩たちに伝えられる偉そうな言葉なんて、何も持ち合わせていなかった。
 でも、彼らは、僕らが放った”音”から、ちゃんと自分なりの答えを見つけ出せる。”希望”と、”未来”を有り余るほど持ち合わせているに違いないんだから。
 そんなことが頭をよぎった、なんだか眩しい客席だった。

 コンサート後はサイン攻めに合い、「なんちゃってスター気分」を味わせて頂いた。なんともありがたいことだった。
 ただし問題なのは、このスター、自宅が中学生の通学路になってるくらい近所に住んでることだ。
 コンサートをしてからというもの、登下校の時間に外に出てると、列になった中学生達に
「んちゃ~」「んちゃ~」
 と声をかけられる。
「ンチャ~」
「はい、こんにちは。」
「ンチワー」
「はい、おかえり。」
 あいさつ運動する先生か!笑

 また、もっと大きくなって、あわよくば売れて、本当のスターになって母校へ帰らねば。

*   *   *

旅人、故郷へ帰るの巻でした!
なんだか、ひさびさに母校を見てみたくなりました。

 

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