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2016.10.09

第3回

一日店長の義務と権利「規制とタブーは一切なし。犯罪以外は何でも自由」

平野 悠

一日店長の義務と権利「規制とタブーは一切なし。犯罪以外は何でも自由」

 その後は順調で、何とか開店にこぎつけた。

 まず考えたのは、「居酒屋で一番面白そうな話をしているテーブルにマイクを置いたら活気があって盛り上がる」と夢想した。ふら~っと入った居酒屋で、突然自分の知らない「こだわり」を持った人の話に出合い、ビールを飲んで千円でおつりが来る店を目指した。ライブチャージを取るという発想は排除した。出演者には交通費ぐらいのギャラしか払えなかったが「好きなことをしゃべって、酒はいくらでも飲ませる」が口説き文句だった。

「チャージは取らない」こそが店の売りだと思っていた。ノーチャージで安くすれば、好奇心あふれるお客さんが来てくれるはずだ。

 だが実際は、無名の表現者ではお客さんが来ないし、飲み始めたお客さんはステージの話を聞かない、というダブルパンチを食らった。有名人を招くと、どうしてもギャラや交通費が必要となってくる。ノーチャージの試みは数か月でパンクして、どこにでもあるライブハウスと同じようにライブチャージを取るようになってしまったのは残念だった。

 だが、市井の人が何十年にもわたってこだわり続けてきた“いぶし銀の世界”を居合わせた人たちが酒を飲みながらかいま見る。質問も自由だ。日本での居場所を失ってしまった私が新しく挑戦する価値は、十分あるように感じられた。

 自信なんて全くなかったが、そんな空間は日本にも世界にも一つもないだろうということに興奮していた。幸いにして私にはライブハウスというイベントスペースの経営に成功した実績がある。それに準じてやれば「何とかなるさ」だった。 

 

一日店長の義務と権利

 開店にあたって「店のルール」を定めた。

 1)出演者を「一日店長」と呼び、その日は出演者が自由に店を仕切ることができる。(開店して数か月は「一日店長修了書」という賞状を発行していた)

 2)一日店長はトークの後半に必ず質疑応答時間を設け、お客さんの質問、異論には誠意をもって答えなければならない。

 3)トークの時間は無制限。いつやめても、朝まで続けてもよい。

4規制とタブーは一切なし。好きなことを表現すればいい。犯罪以外は何でも自由。

5不特定多数のお客さんが集まるので、中には店長の嫌いな客もいるだろう。店長は嫌いな客を実力で追い出すことができる。しかし、店側は一切手伝わない。

6基本的に、店はライブのためのチャージは取らない。店長のギャラは、その日のお客さんが使ってくれる売り上げの10%~15%である。面白かったら沢山飲んでくれるし、つまらなかったら、屁でもこいて帰ってしまう。「なんとか沢山飲んで貰おう」と思ったら、ステージを面白くするために工夫する。
 

売上高が1日店長のギャラに直結

 困ったのは、情報誌『ぴあ』から、「スケジュールを掲載出来ない」と言われたことだ。開店数か月前、ぴあ本社を訪れた時は、担当者から「明日にでも会議にかけます。たぶん大丈夫です」と内諾は受けていたのだが、“トークライブ”という項目が誌面上ないことと、ロフトプラスワンの情報を載せると、他のあらゆる情報も無条件で載せなければならなくなり、収拾がつかなくなる」というものだった。情報誌ぴあとロフトは、創刊時からの付き合いで安心していたのだが……。

 ネットもない時代、宣伝は必要だった。「噂の真相」「創」「月刊ガロ」「模索舎月報」に有料広告を載せ、あとは各イベントの手づくりチラシをばらまいたり、DMを発送したりした。

 最初の2か月のトークライブは週末だけとした。店は午後6時から朝4時まで開いていた。

 店側では「ステージが面白かったら、沢山飲んでください。皆さんの飲み代が出演者のギャラに反映されます。今夜、出演者がタクシーで帰って焼き肉屋に寄れるギャラが出せるかどうかは皆さんにかかっています」とあおることによって、客席とステージに一つの緊張関係が生まれたことは収穫だった。

 一番苦労したのはやはりブッキングだった。何しろ前代未聞の「トークライブハウス」だ。出演を依頼しても、当然と言えば当然だが、先方が何のことだか理解してくれないのだ。それなりに有名な文化人に出演交渉すると、「酒の席で私にしゃべれと言うのか? みんな酔っぱらって誰も聞きやしないだろ」「なに、ギャラは交通費だけ?」「客がタバコを吸うところではやらない」などなど、散々だった。

 だから当初は、ほとんどが私の知り合いに声を掛けるしかなかった。

 

※第4回に続く 

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