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2016.10.01

なんだか面白いので、まだ続けるよエッセイ22

石川県金沢市の海の家での「夕日ライブ」。意外な“歓迎”には、特別な意味があった――!

歌う旅人・香川 裕光

石川県金沢市の海の家での「夕日ライブ」。意外な“歓迎”には、特別な意味があった――!

ライブツアーのため、車を運転して、日本中を巡る日々。
今回は、海岸で夕日をバックに、海の家のテラスで歌えるという。
がしかし、会場に着くなり、準備もそこそこに、バナナボートに乗せられたメンバー。いったいどういうこと?!

   *    *      *
エッセイ
バンドマンバナナボート

 ライブツアーはだいたい、機材も多いし、バンドメンバーと共に車で移動する。
 これを書いてる今この時も、広島から東京までの道すがら、交代で運転しながら3人仲良く旅をしている真っ最中。助手席でだまりこんでスマホをピコピコしていたら、「眠くなるから、お前なんか喋れよ」と怒られた。
 2人とも、歳下ながらも気遣いのできる、なんと優しいメンバー! 涙が出そうだ。
 結成から3年が経ち、ずいぶん息の合った演奏ができるようになってきた。くだらない話ばかり並べてゲラゲラと腹を抱えている、音楽漬けな日々。
 チームワークなら、そんじょそこらのバンドに負けない自信もある。

 今年の夏もたくさん旅を重ねて、夏には、念願だった"海の家での夕日LIVE"という催しに呼んで頂いた。
 場所は石川県金沢市。バックには日本海の雄大な景色。舞台照明は、夕焼け空。そんなステージで、湿った海風を浴びながら歌わせてもらえるという。
 それはそれは最高に気持ち良く歌が歌わせてもらえるんじゃないかと、期待に胸を膨らませながら、金沢までの道のりを踊るようにドライブして向かった。
 絶好な野外ライブ日和り。やや日差しが暑かったが、とても気持ち良い夏晴れだった。
 日本海沿いを走っているときは、なんだか湘南ボーイにでもなったような気分だった。
 たどり着いた海の家"内灘ラメール"は、やや古いが小綺麗で、屋上にテラスがある。今日のステージはそこだ。
 ステージのバックには、青い水平線がゆるやかな弧を描いている。
 ちょうど我々が演奏する真後ろに夕日が沈むらしい。

 金沢の主催者の方々から歓迎され、まずは水分補給でもと、缶ビールを渡された。
 これは、なんだか濃い夜になりそうだ。
 普通は、会場入りしたらまず、楽器や機材をセッティングして、サウンドチェックをして、リハーサルをする。いつも通り準備に取り掛かろうとしていたら、
「はい。じゃあまずはこれに着替えてください」
 と当たり前のように水着を渡された。
「え?」
「それを履いたら、このライフジャケットをきてくださいね」
 真っ赤なライフジャケットを渡される。
「え、え?」
「それじゃあ、こちらへ」
 と波打ち際まで案内され、
「しっかりつかまっててくださいね」
 と、黒ごまみたいな肌の色をしたおじさんの、ジェットスキーの後部座席に座らされた。

「それじゃあいきますね」
『ブォォォォオォオォォ!!!!!!!』
 またがったジェットスキーは、けたたましい音を鳴らしながら、僕と黒ごまのおじさんを乗せてあっという間に沖に出てしまった。
 一体なんのリハーサルなのか、よくわからないが、とりあえずとても気持ちが良い。
 なんの障害物もない海のど真ん中をジェットスキーで走るのは、なんだか、モンゴルの大草原で馬にまたがったときの記憶を彷彿とさせた。

 次はバンドのメンバーみんなでバナナボートに乗った。一体どうしたんだ。
 これはライブツアーで、歌いに、またはピアノを弾きに、太鼓を叩きにきたはずなのに、何故か今、3人でバナナボートに乗っている。
『ブオンオンオォォォオオオー!』と走り出したそれは、我々の黄色いバナナボートを勢いよく引っ張っていった。

 そして5分後、当たり前のようにバナナボートは宙に浮き、ツンのめる形で海上にひっくり返った。
 ライフジャケットを着ているし、溺れることはないのだけれど、海上に投げ出されて海中へ落ちるまでの0.5秒ほどの間に、3回くらい死んだと思った。
 一瞬、目の前が泡で真っ白になり、どっちが上でどっちが下なのかわからなくなった。その後に、ゆっくり海面に浮上した。
 びっくりした……。
 実際のところは、鼻に大量に海水が入った以外は、特になんともないのだが、なかなか恐ろしいものである。
「ぶはーーー!!」とバンドメンバーの2人も顔を出す。
 海のど真ん中だし、とりあえずバナナボートにしがみつくが、よじ登ろうとしてもそう簡単に登れるものではない。
 押し上げたり、ひっぱりあげたりする"チームワーク"が大切なのだ。
 チームワークといえば、我々のために存在しているような言葉である!
 容易いものだと思っていたのだが、3人が我先にとバナナボートを取り合い、結果何度もひっくり帰っては海に落ちた。
 このまま泳いで岸に帰ってやろうかとさえ思った。

 なんとか息を合わせてよじのぼり、岸にひっぱっていってもらう。
 これからライブだというのに、既にやりきった充実感だ。

 お陰様で、幻想的な夕焼けをバックにした夕日ライブは大盛況だった。歌と楽器の音色を、オレンジ色の空に、投げて、溶かしていくように歌った。

 この季節の日の入りは19:00前後だったので、ライブのクライマックス間近でちょうど日が落ちた。ピアノの静かな音色と共に、ゆっくりと日の光が水平線に消えていく。
 狙ったわけではないけれど、ちょうどピアノの音をゆっくりと止めたときに、最後の光が海に消えた。
 まるで夕焼けを操っているみたいだ。
 日の沈んだ空の下、波と風の音だけが響く。
 次に音を鳴らしたら、また日が昇ってくるんじゃないか――。なわけもなく、時間は戻せない。やがて群青色が空から降りてきて、僕たちを包んだ。青紫の幻想的な空を見ながら、最後まで歌った。

 大盛況のライブは終了。非常に満足な夜だった。
 ライブ後の打ち上げで、主催者の方から
「やはり、あのバナナボートから落ちたのが、リラックスして演奏する秘訣だったようですな」
 感心するように告げられた。

 なるほど。そうだったのか。
 母なる海に投げ出されて、心も身体もリラックスしたからできた演奏だったに違いない。
 今度からリハーサルの前には、必ずバナナボートに乗らなければ。
 チームワークも、より磨くことができるはず。
 全国のバンドマン達に推奨したい。

 って、んなわけあるかーーい!!笑
 何はともあれ、この夏1番の思い出ができた。

    *   *   *
笑える話!? いやいやいい話!? 謎めいてるけど、とびきり素敵な夏のエピソードでした。

 

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