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2016.09.29

最終的好みのタイプ

狗飼 恭子

最終的好みのタイプ

 好みのタイプの男性は、と聞かれた彼女は、
「頭がよくて野望があって鈍感な男」
 と、答えた。
 彼女は二十代半ばのクリエーターで、見目も良くお洒落で仕事もあり物怖じもしない人だ。白くて柔らかそうな男好きのする脚を惜しげもなく晒している彼女に、怖いものは何にもないように見えた。それを聞いた男性(たぶん四〇代)は、「へえ、鈍感なのがいいの」と、驚いたように呟いた。
「そんな男っている?」
 と彼に尋ねられて、
「政治家とか?」
 と答えたら、笑われた。
 頭がよい男はいる。野望がある男もいる。鈍感な男もいる。きっとそのすべてを供え持つ男もいるだろう。わたしが意外に思ったのは、その三つを持つ男を好きだと思う彼女の気持ち、だった。
 しかしそばにいた二十代半ばのもう一人の女性も、「あ、分かる。わたしもそういう人好き」と言った。二十代女性にはわりとメジャーな素敵男性の定義らしかった。
 わたしは、ぜんぜんぜんぜん好きじゃないそんな男、と、架空のその男の人を頭に思い浮かべながら、思った。
 野望がある男は、えてして優しくない。弱いものをないがしろにする。彼女たちの言う「野望ある男の鈍感さ」が、わたしには恐怖だ。弱いものの痛みに鈍感になれるのは、本当に何も見えていない愚かな人か、残酷な人間のどちらかだ。そして、「頭がよくて」という条件があるのだから、その男は後者の方になる。
「頭がよくて野望があって鈍感な男」は、すなわち残酷な男だ、とわたしは勝手に考えてしまう。
 頭がよいのは良いことだ。野望だって悪くない。鈍感なのはちょっと困るけれど、優しさがあれば構わない。でもその三つが揃ったとき、その男は怪物になってしまわないのか。だったら、「頭が悪くて野望があって鈍感な男」か、「頭がよくて日和見主義で鈍感な男」か「頭がよくて野望があって繊細な男」のほうがよっぽどいい。たぶんその三者は、たいして成功しないだろうけれど。彼女たちは「成功しそうな男」が好きなのかもしれないな、などとちょっと意地悪く思った。
 では、わたしの好きなタイプの男の人はどんな人だろうか、と考えてみた。
 若いときに年上の人たちにその質問を投げかけると、男女問わずみんなこう答えていた。
「優しい人なら、それでいい」
 結局それが真理だな、と思う。年齢を重ねさまざまな人に会ってさまざまな経験をして思うのは、他者の傷みを想像すること、すなわち優しさを備えている人間こそが、世界で一番素晴らしいのだということだ。
 そう答えるつもりでしばらく待ったのだけれど、四十代男性は、わたしに「好きな男のタイプ」を聞かなかった。四十女の男の趣味なんか知りたくないってことだろうか。
 世の中、ぜんぜん優しくない。

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