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2016.10.10

作家・中山七里(後編)

他人のせいにしないのが、挫折知らずの条件

中山七里

他人のせいにしないのが、挫折知らずの条件

「人生に挫折はありません」と朗らかに語る中山七里さんが、自身をモチーフにして書いた最新刊『作家刑事毒島』。出版業界で挫折しっぱなしの人たちがコミカルに描かれているこの作品の裏話を伺いながら、中山さんの誰にも真似できない特殊な作家生活を明かしてもらいました。
(構成:四戸咲子 撮影:小嶋淑子)

◆出版界の常識は世間の非常識◆ 

――『作家刑事毒島』は、出版業界で起こる殺人事件を、刑事技能指導員でもある流行作家の毒島が解決していきますが、編集者から「中山さんを主人公に書いてほしい」というオーダーがあったそうですね。

中山 依頼があったときに、これは業界物を書けということなんだと思いました。今まで業界物をいろいろ書いて思ったことは、出版業界の常識は世間の非常識だな、と。そんな特殊な世界に投入して爽快感がある主人公と言ったら、“毒の塊”みたいな人間を出さなきゃしょうがないな、というところから練っていきました。

――小説の新人賞に落選した応募者たちが編集者を逆恨みしたり、巨匠病にかかった新人作家が勘違いしたりと挫折感あふれる人たちが登場して、出版関係者が口に出したくても出せなかったタブーがたくさん詰まっていました。

中山 毒の塊みたいな人間を主人公に据えて、なおかつ読後感をよくするためには、その周りの人間をろくでなしにすればいい。でもろくでなしは、あ、そうか、困んねえなって話になって。これ、フィクションの部分って5%なんです。殺人が起こっただけで、95%は真実。実際面白かったのは、別の出版社の編集者さんたちがこの作品のゲラを回し読みしていたところに、電話がかかって来たんですよ。「すいません、私○○賞に応募して一次で落ちた者なんですけど、おたくで出してる○○という本、内容が私の投稿したやつにそっくりなんです。パクったでしょ!」と。その出版社って、新人賞出してないんですよ。読んでた最中だから、編集長が、「いや、本当にこういうことってあるんだな」って(笑)。登場人物がしゃべっていること、やっていること全部、そのままではとてもじゃないけどギトギトしすぎてダメだから(笑)、ソフトにして書きました。

――ギトギトの出版業界を、「執念が怨念に変わる」場所と表現されていたのが印象的でした。妙なプライドと自信はある作家志望の人たちの承認欲求が暴走していくストーリーは、悲劇です。

中山 悲劇のもとはたいてい本人なんですけどね(笑)。承認欲求って要は、カンフル剤みたいなものなんですよ。その時は効くかもしれませんが、ずっと打っていると副作用が出ます。物を書くほうも出版社も、いわゆるビジネスパートナーなんですから、基本的には利潤を生まなければ、商業活動においてはマイナスにしかならないわけですよ。だったら流通しやすいようにこちらが提供するべきで、一つは企画が通りやすいプロットを作ろう。もう一つは、本を出しても、最低限これくらいは売れるものを目指そう、それが商売の基本。商品を出す時に、「ここに僕の何々を込めました!」とか言われても、何にも面白くも、ありがたくもないでしょ(笑)?

――そんな商売の基本が全く身についてない登場人物たちの罵詈雑言も本作の読みどころなんですが、実際に新人賞を受賞して作家デビューしてからも、作品をコンスタントに出し続けていくには大変な苦労があると思います。

中山 新人賞を獲ったら、賞味期限は1年しかないんですよ。次の年が来たら、もう別の新人が出てくるわけでしょ? その間にどれだけ認知度を上げるかっていうのが結局その後を決めていくわけじゃないですか。だったら仕事しようよと。長編書いて、短編書いて、ショートショート書いて、コラム書いて、火の輪くぐりして、玉乗りして、ってそういう話なんですよ(笑)。デビューした時って素人だから書けば書くほど上手くなっていくし、デビュー作っていうのは、はっきり言うと全力投球なんです。たくさん作品を書いて慣れてくると、同じ結果を出すにしても力の入れ方を工夫することができます。「ここは無駄な体力だから、今後の作品にとっておこう」とか「ここはこういうふうに体を使えば、全力でやったのと同じ効果が出るな」とかが分かってくるんです。


◆トイレと睡眠時間を削って書く◆

 ――作品を量産していくことで技術が磨かれたり、テーマが広がるという以外で、昔と比べて何か変化はありましたか。

中山 デビューした時には原稿を書くのが楽しかったんですが、最近楽しくなくなったんですよ。それはたぶん、生活の一部になったから。原稿書くことが呼吸するのと同じになってきたんだと思います。呼吸してても楽しいと思わないのと一緒です。食べるより原稿を書いていますから、ふっと気づくと2日食べていないこともあるんです。トイレだけはちゃんと1日1回行ってますよ。

――えっ! 1日1回しか行かないんですか!

中山 だって、2回も3回も行っていたら時間がもったいないから。体の構造を変えることは簡単なんです(笑)。睡眠時間も、会社員の時には6~8時間寝てたんですけど、二足のわらじになってだんだん短くなって、会社を辞めて少しは楽になると思ったんですけど、今はもう、2時間切ってますからね。でも慣れると別になんてことないし。

――寝食削りながら、中山さんは3日でプロットを考え終えて、そのあとは最初から最後まで頭の中で完成している原稿をダウンロードするように書かれると伺いました。その仕事のスピードは、デビュー後どのように身につけられたのでしょうか。

中山 3日って72時間もあるんですから、楽ですよ。体の構造を変えるのと一緒に、思考回路も変えたんです。デビューした時に、次から次へとオファーが来るので、1冊の話を考えるのに一カ月もかかっていたらアップアップになるから、最低3日でやらないとダメだって逆算したんです。そのためには72時間ずっと起きていればいいんだ、って。それと、推理小説というのは、風呂敷を広げてたたむ小説なんです。どうやってきれいにたたもうかっていうことに皆さん悩んでいらっしゃいますが、僕は解決しました。たたむ速さを光の速さに近づけていくと、いつたたんだか分からないっていう(笑)。結局一気読みしてもらえる小説を書くと、瑕疵があったとしても見逃しちゃうんですよ。だから「あぁ、面白かった」って言って、3日くらい経ってから「あれちょっと変だな」って(笑)。でももう読んでしまった後だから、満足感ってあるでしょ?

――なるほど、面白いですね(笑)。結局、中山さんから挫折したり、落ち込んだりしたエピソードを伺うのは無理でした……。

中山 考え方次第ですよ。自分さえ変わればトラブルを回避できることのほうが多いと思います。それを他人とか外部要因のせいにするからこじれるだけなんです。作品だってそうで、本が売れなかったのは自分が悪かったんだ。じゃあ次はもっと新しいのを書こう、と。そう思ったら楽でしょ? それを出版社のせいだ、編集者のせいだ、だったらどうすればいいとか、そんなことを苦労して考えるより、自分が変わったほうがずっと楽ですから。だから僕がいつも新人さんに言ってる言葉、本が売れるのは出版社の手柄、本が売れないのは作家の責任。そうやって考えたらすっごく楽ですもん。でも、これをほかの人に聞かせると、皆嫌な顔をするんです(笑)。

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