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2016.09.10

なんだか面白いので、まだ続けるよエッセイ20

屋久島に、時々海の中から姿を現す、「幻の温泉」があるらしい!

歌う旅人・香川 裕光

屋久島に、時々海の中から姿を現す、「幻の温泉」があるらしい!

「温泉」と聞いて思い描くのは、だいたいが温泉宿の温泉でしょうか。
では「海中温泉」と言われたら、どんな光景を思い浮かべますか?
屋久島には、潮が満ちているときは海に沈んでいるが、引くと姿を現す、幻の温泉があるらしい……。
連れて行ってくれたのは、不思議なおじさん。
「もののけ姫」の世界にあこがれて行った屋久島で出会った、そのおじさんの正体とは?

   *   *   *
エッセイ
海中温泉

 テレビの番組で、なにやらおもしろいものをやっていた。
 日本各地の“絶景”と言うべき場所に無理やりお風呂を設置して、史上最高の温泉を作るというような企画だ。
 芸人やタレントさんが、僕の地元である広島県宮島へ来ていた。なんと、宮島花火大会のその日に、海上に五右衛門風呂を設置して、”花火を眺めながら風呂に入る”という。それはそれは贅沢な企画だった。
 我が地元が誇る宮島花火大会は、毎年すさまじい数の人が集まる。僕も何度も観に行ったことがあるが、渋滞と人混みで大変苦労する。
 それだけの価値があることは重々承知なんだけれども、ここ数年は、わざわざ出かけることもなく、家のベランダから、“火花”のようなミニマムサイズの花火だけ、チラッと眺めている。
 まぁ観れるだけマシか。いつか風呂に浸かりながら眺めてみたいもんだ。

 夏の終わりに、そんなことを思い出して物想いにふけっていると、1枚の写真の存在がボヤっと脳裏に浮かんできた。
 つるっぱげのおじさんと、今よりも少しだけ若い僕が、満面の笑みを浮かべている写真。全裸で、露天風呂に浸かっている。
 おじさん。元気にしてるだろうか。

 何を隠そう、僕はアニメの「もののけ姫」が好き過ぎて、“シシガミ様”を探しに屋久島まで行ったことがある。
 もちろん、いないことくらいは分かっているのだけれど、映画のモデルになった森も実際にあると聞いたし、いてもたってもいられなかったのだ。20代前半のこと。思えばあれが初めての一人旅だったのかもしれない。

 まだ旅にも慣れていなくて、大きなリュックに無駄な荷物をパンパンにつめこんでいた。思い荷物を必死に背負って屋久島を目指した。
 バスに揺られ、列車に揺られ、高速船に飛び乗って、ようやく屋久島に辿り着けたときは、一人ガッツポーズをしたのを覚えている。
 買ったばかりの一眼レフで、なんでもない空や海や、猫やら郵便ポストやら、バシバシ撮りまくっては、“今”を焼き付けようとしていた。

 昼過ぎに島に着いたため、これから登山というわけにも行かず、とりあえず腹拵えを済ませると、原付バイクをレンタルした。海を眺めながらあてもなく走った。
 屋久島といえば、屋久杉や苔の森等、木々や緑にスポットをあてられることが多いけれど、海も、とても蒼くて美しい。
 夏の湿った潮風を浴びながら、島の外周をどこまでも走った。
 鼻唄は『15の夜』(盗んだバイクじゃなかったけど)。途中、屋久シカに出くわしたときは、大声で「ヤックルぅーーーー!!」と叫んでしまった。
 もちろんヤックルではないし、鹿にしたら大変迷惑な話である。

 夕暮れになると、サンセットビーチは、すべてがオレンジ色に染まっていった。鮮やかな景色に感動して、涙が零れそうだった。
 正直、独りはとても寂しかった。誰かにこの感動を伝えたかった。

 人恋しくなった僕は、今夜からお世話になる、民宿「じょうもん」にさっさとチェックインすることにした。
「じょうもん」は、もともと焼肉屋だった店内を改装して民宿にしているらしい。入口はそのまま“焼肉屋さん”という雰囲気だった。
「いらっしゃい。ようきたねぇ」
 大柄な店主の女性がお出迎えしてくれた。もののけ姫で例えるなら……
 トトロのようなおばちゃんである!
 宿泊客はみんな、店主のことを”お母さん”と呼んでいるらしい。一見不愛想なようで、物腰の柔らかい優しそうな人だった。
 1泊2食付きで3000円。破格の安宿だったが、とても綺麗だし、居心地が良さそうだった。

 さっそくお母さんの手料理を頂く。トビウオの塩焼きなんて初めて食べた。意外とあっさりしていて旨い。
 食堂は共同スペースになっており、他にも宿泊客が何人か食事をしていた。
 日焼けで顔を真っ赤にした、ツルッパゲの、もののけ姫でいうところの”ジコ坊”のようなおじさんが、静かに一人で食べていたので、話しかけてみた。ジコ坊おじさんも一人旅で来ているというので、話に花が咲いた。
 おじさんは、今日は、「海中温泉」に行ってきたんだと言う。その名の通り、海にある天然の温泉らしい。
 潮が満ちているときは海に沈んでいるが、引くと姿を現す、幻の温泉なんだとか。
 なんだそれは……!? 是非とも行ってみたいじゃないか!
 詳しく場所を聞いていたら、お母さんがきて、「ジコ坊ちゃん、いまから連れてってやんなよ」と言う。

「え!? 今から!? ボク、今日行ってきたばかりのに……。ここから1時間くらいかかるんだけど…… まぁいいか。いきましょうか」
 ジコ坊おじさん。いいんですか!?
 と口に出しつつも、お言葉に甘えて連れて行ってもらうことにした。

 こうして僕は、さっき会ったばかりのジコ坊と、海中温泉へ向けて夜のドライブに出た。
 約1時間かけてたどり着いたその場所は、本当にただの道端で、小さく温泉の看板は出ていたものの、知らなかったら、間違いなく見落としてしまいそうな場所だった。
 海に続くゴツゴツした岩場を歩いていく。明かりもなく、懐中電灯も忘れたため、月灯りだけを頼りに、ゆっくりと岩場を歩いた。幸いにも満月で、十分すぎるくらい足元も見える。

「はい。ここで服を全部脱いでね」
 突然、ジコ坊が恐ろしいことを告げた。
 え? ここで!? 脱衣所も、物陰も、何にもありませんけど? 丸見えですよ!?
 僕の心配をよそに、ジコ坊はさっさと服を脱いだ。
 そしてなんの躊躇もなくパンツをずらし、服を畳んだ。
 まぁ、良いか……。誰もいないし。夜だし。
 外でいきなり裸になるなんて、なかなかやったことがない。恥ずかしかったので、ささっと脱いで、タオルを腰に巻いた。
 その後、二人で全裸で岩場を歩いた。傍から見ているひとがいるとしたら、これはなんともいえない光景に違いない。
 ジゴ坊さん……。これで温泉の話が全部嘘だったら……。ジゴ坊が急にデイダラボッチに変わったらどうしよう……。
 なんていう僕の心配などよそに、ジコ坊はズンズン歩いてゆく。
 ちなみに、残念ながらジコ坊は高下駄は履いていない。サンダルだ。

「ここだよ。ちょうど、良い時間帯かもしれないな」
 おじさんが指さしたところには、大きな岩のくぼみがあった。見たところ、岩場に海水が溜まっているようにしか見えない。
 恐る恐る足を浸けると、ちゃんとお湯だったのでびっくりした。
「うぉおおおおーーー!!!」と大声をあげて、ザブザブ温泉に入っていった。
 月灯りと星空の下で、夜の海を眺めながら浸かる温泉は、まさに海中温泉と呼ぶにふさわしかった。
 波の音が、柔らかく歌うように響く。
 とても静かな場所だった。
「ね? 良いところでしょう? ボクはこの温泉が日本一好きなんだ。お湯の温度も、冷たい海水とのバランスでいつも違うんだよ」
 今が、潮の具合的にはベストの時間帯らしい。ジゴ坊おじさんも気持ちよさそうだった。
「よし。写真を撮ろう」
 と、ジコ坊はバッグからカメラを取り出し、全裸のままセルフタイマーをセットした。そうしてふたりでにっこり笑って、
 温泉で写真を撮った。
 そんなことをしていると、次第に潮が満ちてきた。冷たい海水がザブザブ温泉に入ってきて、お湯が冷たくなってゆく。
「そろそろ潮時だな」ジコ坊はうまいこと言って、スっと温泉から上がった。
 そそくさと退散し、服を脱いだ場所に戻る。
 タイミング悪く、若い女の子が数人きていた。非常に恥ずかしかった。
 今からこの子達も裸になるのか!? とやや期待したが、そんなわけはなくて、ただ見学にきただけっぽかった。
 二人でさっさとパンツを履くと、ヤックルばりのスピードで車に乗り込んだ。

 ジコ坊おじさん、おもしろい人だなぁと思って
「そういえば、ジコ坊さんは普段何されてるんですか?」 
 と帰り道で聞くと、
「あ。言ってなかったっけ? まぁ大したもんじゃないですよ」
 と教えてくれなかった。
 宿に戻ってから、こっそりお母さんにジコ坊の職業を聞くと、東京の大きな病院で外科医として働いているんだそうだ。
 いつもは綺麗な白衣に身を包んでいるらしい。

 屋久島にいるときは真っ赤な顔してジコ坊を演じているわけか。この人も、よほど、もののけ姫が好きに違いない。

 二人して、「もののけ姫」のワンシーンばりに、夜食のおじやを掻き込んだ。

*   *   *
本物のシシ神様にも、ヤックルにも会えなかったけど、これってとってもリアルな「もののけ姫」体験ですね!
屋久島の魔力!?

 

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