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2016.09.08

時空を超えた想いにキュンッ!

佐々木 克雄

時空を超えた想いにキュンッ!

800年後に会いにいく
河合莞爾
幻冬舎刊 \1,700(税別)

クリスマスイブの夜、飛田旅人のもとに謎の動画メールが届く。映し出された美少女・メイは言った。「2826年の私に、スズランを届けて」。メイに惹かれた旅人は「ある方法」で、800年後の未来に旅立つのだが──。
 

あらためて考えるにSFって何でしょう

 5年にわたって書かせていただきましたこの書評連載、今回をもちましてラストとなりました。

 いやあ、毎回どんな「食わず嫌い本」に出会えるかドキドキ&ワクワクしておりました。漫画、バイオレンス、空想科学なんてのもありましたね。この連載がなければ読まないだろう本にたくさん出会えたこと、この場をお借りして感謝です。

 で、まだ未着手のジャンルがあることに、担当さんから連絡をいただいて気づきました。

「すごいSF作品が出るから、読んでみて」

 ああ最後にこれがあったのねと。それと「そもそもSFって何?」と素朴な疑問が浮かびました。

「宇宙とか、タイムワープとか、未来とかじゃね」

 と説明すれば簡単で、未来から猫型ロボットやシュワちゃんが来るやつかなと。でも、かぐや姫も月の人だし、浦島太郎もタイムワープしてます。でもってデロリアンに乗って未来にバックするあの映画。パート2で彼らが訪れた未来は2015年、つまり未来が過去に──ってもうワケわかんない。

 SF小説って設定が特殊すぎるし、その本だけの用語が飛び交うし、食わず嫌いのジャンルかな、と思っていたのですが……そんなコトはなくて、いろんな読み所があるのですよ、と教えてくれたのが、今回ご紹介する『800年後に会いにいく』です。
 

ミステリ界の注目作家がついにSF小説を放つ

 著者、河合莞爾さんをサクッとご紹介しますと、この方は2012年に第32回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。受賞作『デッドマン』を読んだときに私、ぶったまげました。体の一部を切断された遺体が次々と発見される。その一方で、他人の体を繋ぎ合わせた存在も登場する。猟奇殺人の背後にある過去と現在が繋がったときの、でもって終盤の驚きの展開ったら! 思わず唸ってしまったのです。こ、こんなコト考える人がいるんだ……と。

 既成概念にない仕掛けを施し、予測不能のどんでん返しをかましてくれる河合さんの作品は、なかなかに唯一無二なものと思います。すごいイマジネーションを持った作家さんなのだなと。では、そんな方がSF小説を書くとどうなるか……どうです、興味が湧いてきたでしょ?

『800年後に会いにいく』は未来である2826年のクリスマスイブから始まります。

 メイという少女が閉鎖された空間にいて、生きることをその使命としています。けれど、いまのままでは彼女は命を長らえることができず、それを解決するには数百年前に絶滅したスズランが必要なのです。そこで彼女は、800年前の「過去」に希望を託します。メッセージをプログラムと共にウイルスとしてネットワークに放ち、2026年──私たちが生きるほぼ現代の、誰かの端末へ忍び込ませるのです……と、ここまでがプロローグ。主役となるのは、彼女のメッセージを受け取ることになる若者です。ここから、とてつもなく壮大で、感動的なストーリーが繰り広げられます。
 

SF食わず嫌いを払拭するキャラとリアルな設定

 実は私、観念的なSFは苦手でして、筆者の世界感で繰り広げられる壮大なファンタジーはかなり食わず嫌いとなってしまうのです。でも、この作品はのめり込みました! というのは冒頭こそ800年後の世界ですが第一章は2026年で、これがほとんど現代の日本なのですね。そこにかなりのリアルがあるから、スッと入り込める。

 主人公は三流大学の文学部に在籍する飛田旅人。就活で連敗中の彼が手にした求人広告はエターナル・ライフという会社で、官公庁を主な顧客としたコンピュータ・セキュリティを行うらしい。高給につられてアルバイトを始めたものの、IT用語などチンプンカンプンで、主な仕事は雑用と、長年書いてきた自分の日記をソフトに入力すること。そしてスマイルというネット上で生きているワンコの相手をすること──どこにでもいそうなキャラが事件に巻き込まれるニオイがプンプンです。

 対して、脇キャラは濃いめで、話をグイグイ引っ張ってくれます。社長の名前はエンゼル空野。ガハハ系な彼は博学で、旅人に説明する話は読み手の興味も引き付けてくれます。そしてもう一人、ヒロイン的な位置にいる菜野マリアは情報工学、総合医学の博士号を18歳で取得した頭脳明晰な美女です。専務である彼女は開発を担当しています。

 そして現実に起こりうる、いや、すでに起きてしまったリアルな出来事──稼働中の原発すべてにシステム不具合──に直面します。侵入したウイルスはマリアたちの力で食い止めて事なきを得たものの、翌年は旅客機の自動操縦装置がウイルスに乗っ取られ、原発に向かって飛んでいくという……これはもうサスペンスですよ。のめり込みますってば。
 

800年後に会いにいく どんな方法で会いにいく?

 ここまでが(800年後に比べれば比較的)現在の話です。フツーな主人公が濃いキャラに出会い、事件に巻き込まれる──のですが、じわじわと著者のイマジネーションが広がっていきます。それがメイからのメッセージです。

「あたしを助けて」

 800年後の少女が自分にビデオレターを送ってきた……この場面での旅人の逡巡(しゆん じゆん)が、女子の皆さんにとって胸キュンなポイントかと。過去に何かを送るなんて不可能だと言われても旅人は彼女を信じ、救ってあげたいと考えます。現代なら不可能なことでも、800年後なら可能かも……旅人の心情に寄り添うことで、読み手も未来の可能性を信じるようになるでしょう。

 かなりリアルな原発の危機と、未来の少女を想う旅人の純真──このあたりが同著の読み所なのではと思うのですが、よーく考えますに、絶対にひっかかる問題に直面します。

「どうやって800年後に会いにいくのよ?」

 永遠の命が与えられたわけではない現代で、旅人がどうやってスズランをメイに送り届けることができるのか。タイムマシンはありません。

 菜野マリアは答えを知っていました。

「ウイルスよ。コンピュータ・ウイルスになるの」

 私、この言葉に目ウロコでした。日記をつけてきた旅人の記憶をデータ化してネットワーク上にもぐり込ませる。ウイルスとなった彼は、いつしか心が生まれ、800年の間、ネット上を漂って人工知能に入り込んでメイに辿り着くことができる……と、ここまでが話の七割くらいです。

 この先は時を超えた壮大なSFになっていくのですが、ここまで紹介してきた要素が絶妙に絡み合って、終盤は驚きの連続になる、ということだけはお伝えしておきましょう。だって河合さんはミステリを書いてこられたのですよ。私自身何度も「エッ、そうくるの」って言っちゃいましたもの。気が付けば食わず嫌いだったはずのSFをイッキ読みでございました。

 嗚呼……結末を教えたくて仕方ないけれど、グッと我慢をして読み手の貴女に託そうと思います。物語の世界に心を漂わすのは評者ではなく、手に取りページを捲られる貴女自身なのですから。

『GINGER L.』2016 AUTUMN 24号より

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