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脳はあきらめない!

2016.09.24 公開 ツイート

第5回

発症してしまった認知症の進行を食い止める 瀧靖之

前回、認知症は予防できるとお伝えしましたが、認知症を発症してしまったらどうしたらいいでしょうか。進行を食い止めるためにできることがあります。それは、昔の音楽を一緒に聴いたり、懐かしい写真を見せたり、優しくふれたり、五感に働きかけるということです。

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五感に働きかける

 発症してしまった認知症の進行を、少しでも食い止めるにはどうすればいいのか。また、ケアをどのようにしたらいいのかもこれからの大きな課題です。

 ケアの一つとして有効だと言われているのは、五感に働きかけること。

 周囲からすると認知力が落ちているように見えても、いろいろな能力が実は、案外保たれています。それらをいかに呼び起こすかが大切。同じ目線で話しかけたり、五感をいろいろ刺激してあげたりすることで、残されている能力を引き出しましょう。

 もしかしたら、こちらが言うことを理解できているけれど、言葉や態度に示してアウトプットができないだけかもしれません。

 ですから、認知症だから何を言ってもダメだとあきらめるのではなく、いろいろ話しかけてあげることが重要です。

 昔の音楽を一緒に聴いたり、懐かしい写真を見せたり、昔話をしたりすると効果があるとも言われています。認知症の方は最近のことは忘れるけれど、昔のことは意外に覚えているものです。

 さまざまな機能が低下して、誰かに頼らなければならない状況でも、あなたのことを大切に思っていますというメッセージを発信し続ける。目線を患者さんに合わせて、手を握る。とにかくポジティブな働きかけをしてあげることが、その後の認知力低下を抑える働きをします。

 実際、肌に触れたり、優しくしたりすると、脳内のストレスホルモンを減らす効果があると言われています。

 その結果、認知症の進行を遅らせることにもつながるというわけです。

 

認知症のリスクが高いうつ病患者

 脳には神経伝達物質があり、無数の神経細胞に情報を伝達する働きがあります。

 ノルアドレナリン、ドーパミンと並んで「三大神経伝達物質」の一つであるセロトニンは、精神面に大きな影響を与えます。

 気分や意欲を左右するため、セロトニンが正常に分泌されていると、精神的に落ち着き、満足感を覚えることができます。

 反対にセロトニンが減少すると、イライラやモヤモヤ、ストレスなどで精神バランスが崩れてしまいます。うつ病の時には、このセロトニンの量が不足しています。

 そして、セロトニンが減少すると、人間らしさをつかさどる前頭葉を中心に、血流が低下し、その結果、前頭葉や海馬が萎縮します。

 うつ病にも遺伝要因と環境要因があり、ストレスも関係してくるため、何が一番の原因かはわからないのですが、うつ病を発症すると海馬が萎縮してしまうので、認知症のリスクを上げると言われています。

 高齢者うつ病と認知症は、専門の医師でも診断が難しいことが多く、また併発することも多いです。

 大切なのは、うつ病か認知症かを診断することよりも、認知力の維持に注力することです。すぐに行動にうつすと、効果も大きいものです。

 うつ病にも認知症にも、散歩などの軽い運動は大変効果的ですので、もし心肺機能や関節に問題がなければ、天気の良い日はできるだけ毎日散歩に連れ出されると良いと思います。本当に30分程度でも良いので、お話ししながら歩くだけで効果的です。

 また、日の光を浴びることも効果があるので、明るい時間帯に散歩をすると良いでしょう。

 そして、やはりコミュニケーションと趣味や好奇心です。まめに連絡をとり、また好きなこと、あるいは好きだったことを、多少無理してでも背中を押して、やってもらうことも重要と思います。

 あとは、とにかく楽しい! とご本人が思うようなことをしてあげることです。

 

関連書籍

瀧靖之『脳はあきらめない! 生涯健康脳で生きる 48の習慣』

日本人の平均寿命は世界一で84歳。だが、長生きだけが我々の願いではない。実際、健康寿命は74歳。亡くなる前の10年も自立した生活が送れないのだ。大きな原因のひとつに認知症がある。認知症にはアルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性があり、特にアルツハイマー型が高い割合を占める。その要因は脳の萎縮や血管障害。それらの予防には「睡眠」「運動」「知的好奇心」の3つが重要だ。脳が生涯健康であるための習慣を、16万人の脳画像を見てきた著者が、脳の発達としくみからわかりやすく解説。

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瀧靖之

東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授。東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授。MRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究に従事。著書に『生涯健康脳』『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「賢い子」に育てる究極のコツ』がある。

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