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2016.09.08

「書く」ことで身体のチューニングを

武田 双雲

「書く」ことで身体のチューニングを

人気書道家の武田双雲さんは、ポジティブシンキングについての書籍も数多く著されています。その武田さんが、「書く」ことで疲れを取る方法をお教えする新刊『疲れない!!』の試し読みをお届けします。第2回は、武田さんが考える「なぜ書くことで疲れが取れるのか」を本文より抜粋します。

*  *  *

「疲れ」は人間にとって必要なもの。

 回復不能なまでに弱らないうちに、自分の体の状態を知らせてくれる信号。

 だからこれを、できるだけ早くキャッチするのが、疲れないコツなのです。

 早い段階で疲れをキャッチするというのは、機械や楽器のチューニングをするのと同じことです。

 チューニング=調子を合わせる。

 書道の心得がある人なら、ピンとくると思います。冒頭に僕が言った、「書くと疲れない」というのは、まさにこの疲れのメカニズムとそれに対する対処方法の関係について言っていることなのです。

 墨をすりながら気持ちを整え、

 筆の感触をたしかめながら、

 筆運びのバランスをとる。

 これは、書道家が日常的に行っている所作です。

 僕はいつも墨をするのにたっぷりと1時間はかけますが、その間に感じる墨の何とも言えない豊かな香りや、指先から全身へと伝わる心地よい感触、墨と硯のすれ合う音の響き、透明の水が次第に鮮やかな深い黒色を帯びてくる刹那など、すべての感覚がヒーリング効果となって、心と体がどんどんと純化されていくのがわかります。

 すり上がった墨を、筆の先に含ませてまっ白い半紙に向かう時間がまた最高。 紙に広がる滲み、墨色が織り成す視覚世界はまさにひとつの宇宙です。

 一度書き始めたら、もう後戻りはできませんが、それが二度と同じものが得られないバランスだと思うと、不思議な愛おしさが感じられてきます。

 筆を運んでいる間、ここをこんな線にしようとか、もう少し細くしていくとこんな絶妙なバランスになるんだとか、いろいろ試す過程を楽しむ感覚は、きっとジャズ・プレイヤーが極上の即興演奏をしているときと似た境地なんじゃないかと思います。

 このように、「書く」という行為はとてもアナログな世界。ゆったりとした時間感覚の中で瞑想したり、バランスをとったりすることで、どんどんチューニングが合ってくるのです。

 チューニング

 ハーモニー

 バイブレーション

 言葉はいろいろですが、どれも、僕がここで言わんとしていることに使えるものばかりです。

 この忙しいご時世に、ずいぶんのんびりした話だと思われるかもしれません。でも! その、のんびり感が大事なんです。

 完全に疲労し切ってしまってからでは、回復するのに時間がかかるし、病院に通うとか、仕事を長期間休むとか、かえって余計なロスが出てしまいます。そういうことにならないためには、対症療法ではなく、日ごろの小さなケアが大切。先ほどから述べているチューニングは、その小さなケアにほかなりません。

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