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2016.08.27

なんだか面白いので、まだ続けるよエッセイ18

SNSでメッセージくれた人と深いつながりになること、あるよね。

歌う旅人・香川 裕光

SNSでメッセージくれた人と深いつながりになること、あるよね。

「京都」といえば、世界中の憧れの都。
でも、香川さんにとっての京都は、どうってことないカフェだったりバーだったり。
そんな「ふつーの場所」にこそ、感動が生まれたり、人とのつながりができたりするわけで……。

 * * *
エッセイ
ちゅかさん

 全国津々浦々旅しているが、中には"しょっちゅー行く町"という場所もある。
 別に狙ったわけじゃないけれども、なんか気付いたらその場所にいる……という感じだ。
 “そこ”には、1年間に15回以上行ってる。毎月1回、多いときは2回くらい。
 ていうか、これを書いていて思い出したけど、そういえば明日からまた行く。
 別に、どうしても食べたい物あるとか、お気に入りの場所があるとか、そういうわけではない。
 むしろ、特段変わったこともない普通のカフェで、いつもだいたい同じコーヒーを啜る。
 ただただ、居心地が良い。肌に合う。そんな気がする場所。
 それは広島から車で約5時間程のところにある、西の都。
 そう、京都である。

 京都との出会いは、妙に必然的だった。人づてでライブを企画してもらい、嵐山にある老舗のライブカフェで、弾き語りワンマンライブを開催することになり、宣伝をしていたところ、とある人物からSNSのダイレクトメッセージが届いたのだ。
「はじめまして、ツカモトと申します。今度嵐山へ歌いに来るのですね。その近くで自分もお店やってまして----」
 丁寧なメッセージだった。
 この男こそが、後に、僕と京都という町を、深く結びつけてくれる人物となる。
 ツカモトさんは、嵐山からそう遠くない"向日市"という町で、『Radical BEAT site』というダーツバーを経営するマスターで、自身もギタリストでもあった。ネットを通じて僕のことを知って、よくyoutubeの動画を見てくれていたんだとか。
「嵐山に来るなら、うちの店でもライブしてくれませんか?」
 と書いてあったので、「喜んで!」と返答した。
 基本的に僕はそういうお誘いが大好物である。

 ライブ当日、お店に辿り着くと、マスターのツカモトさんは僕のことをそれはそれは快く迎え入れて下さった。「うわ~ほんまもんの香川くんやん。おいみんな見てみ! 芸能人やで! う~わ! ちっか~!」と関西弁で。
 お店の雰囲気はややアメリカン風で、ネオン菅の飾りや、小物が並ぶ。お酒の瓶がたくさん並び、カウンター席がメインだが、奥にダーツスペースがあり、ダーツ台が2台設置されている。
 今夜はその"ダーツスペースをステージにして"、唄わせてもらえるらしい。
「ごめんなぁ~。小さい店やけど、常連さんも楽しみにしてくれてんねん」
 関西弁特有の明るい感じがとても親しみやすく、初めてのお店で歌う緊張感を、さりげなくほぐしてくれた。
 メッセージのやりとりをしているときは、丁寧な人だと思っていたけれど、実際は、結構くだけた感じの人だった。
 そしてびっくりなことを告げられる。
「実はな、このお店、11年間やってきたんやけど、色々あってもう閉めるんやんか。今日がこの店のラストライブやねん」
 11年もの歴史があるお店のラストが、つい最近このお店について知ったばかりの僕のライブなんかでいいのだろうか。
「ほんと僕でいいんですか!?」と思ったけれど、せっかく呼んでもらえたのだ。精一杯、唄わせてもらおう。

「こいつは、常連のユウヤいうねん。こいつな、声帯を一回ガポっ!と外して、砂利でジャリジャリジャリー!!って削って、また喉にバコーンはめたみたいな、しゃがれ声やねんか。おもろいやろ!」「なんでやねん!」
 陽気なマスターと常連さんたちは、みんなゲラゲラ笑っている。。
 開演時間が近づくにつれて、続々とお客さんも集まってきた。みんなお酒を飲みながら、ワイワイ話している。11年間、このお店は、マスターの人柄と、そこに集う人たちに支えられてきたのだろう。
「香川くんにお願いがあんねん! 東京キッド、歌ってくれへん!?」マスターから懇願される。
 東京キッドとは美空ひばりさんの名曲で、僕も好きでyoutubeにカバー動画をあげている歌だった。

 ライブは、お酒の力も借りて、それはそれは大いに盛り上がった。みんなよく笑ってくれるし、一緒に歌ってくれた。そして終盤になり、マスターから頼まれた「東京キッド」を歌うと、みんながドッと歓声をあげた。
「わー! ホンモノや!」「キターー!! これこれ!」
 と興奮し始める。

 なんでやねん。

 まずはじめに、僕は決して"本物ではない"。本物は美空ひばりさんである。
 そして、むしろ「東京キッド」は、普段あんまり歌ってもいない。
 にもかかわらず、マスターのツカモトさんをはじめ、みんなが「待ってました!」とばかりに、一番盛り上がっているのだ。
 あとで聞いたところ、そもそも僕が「東京キッド」を歌っている動画を見て、僕のことを知ってくれたんだとか。
 シンガーソングライターとしては少し残念な気持ちにもなるが、喜んでもらえて何よりだ。
 みんなで音楽や歌を通じて繋がれるって素晴らしいじゃないか。
 最後の歌は、僕の「さよならレックス」という曲を唄った。僕の愛車が廃車になったときに作った歌で、お別れの歌だ。曲のラストは"さよなら、ありがとう"を連呼する。全員で、さよならとありがとうをメロディーに乗せて大合唱した。いつもよりも多めに、そのフレーズを唄った。
 マスターの目からは涙が溢れていた。湖の底に沈殿していた宝物が見つかったかのごとく、11年分のさよならとありがとうが溢れ出てきたらいいな、と思いながら、唄った。

 僕は、このお店の11年の歴史を、なにも知らない。「さよならレックス」という歌は、当然ながらその11年の歳月とはまったく関係ない所で生まれている。それでも、この歌はマスターの心に響いてくれた。
 マスターは、砂利でジャリジャリしたようなしゃがれ声で一緒に歌っている常連さんを茶化しながら、溢れ出る涙を止められずに静かに泣いていた。
 泣きながら小さな声で歌っていた。
 いろんな出会いと別れが、このお店にもあったのだろう。
 みんなの笑顔に囲まれて、一人涙を流すマスターの姿は、とても温かいものに思えた。

 こうして、ダーツバー「Radical BEAT site」のラストライブは、大盛り上がりで幕を閉じた。
 京都の知らない町と、僕はとても深い繋がりを持つことができたが、このお店はもうすぐ閉店してしまう。せっかく見つけたこの宝物と、もう別れをしないといけない。

 ――と、これが去年の夏の話だ。そこから、マスターのツカモトさんとは妙に深い縁で繋がった。もともと、お店のマスターをやりながらデザイナーとしても働かれていたらしく、その経歴を生かして、なんと今は僕の専属スタッフとして、グッズのデザインや、ポスター、チラシのデザインの仕事をしてもらっている。
 今ではツカモトさんじゃなく「ちゅかさん」と呼ぶくらい距離も縮まってしまった。
 何がどんな繋がりになるかわからないもんだ。

 そんなこんなで、京都に何度も足を運ぶうちに、すっかり今では、自分の居場所のひとつのように思っている。
 そして、ちゅかさんには無許可で、このエッセイも書いている。
 これを読んだら「何勝手に書いてんねん。恥ずいからやめとけや!」と彼は言うだろう。
 仕返しにしこたまお酒を飲まされるかもしれない。
 酒焼けして砂利でジャリジャリした声にならないよう注意しなければ。

 * * *

誘われたら、「まず行ってみる」。
そこでどんな素敵なことが起こるかわからないから。
あれこれ考えず、フットワークが軽いほうが、幸せを呼ぶのかな、と思った今回のエッセイでした。

 

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