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2016.08.27

今必要な、軽薄で無責任な「観光客としての生き方」

東 浩紀

今必要な、軽薄で無責任な「観光客としての生き方」

ネットは、階級を固定し、人間関係を縛り、そこから逃げ出せなくなる道具だーー。グーグルの予測検索で、Facebookで、そう実感する人も多いでしょう。そんなネットの世界からもはや逃れられない私たちはどうすればいいのか? 単行本発売時から、SNS時代の人生論として話題をさらった『弱いつながり 検索ワードを探す旅』が文庫になりました。本書の一部を抜粋しつつ、ネットの統制から逃れる方法を考えます。

無責任だからできることがある

 観光というのは、評判が悪い言葉です。ぼくの福島第一原発観光地化計画も、そのせいでしばしば誤解されます。

 しかし、観光はそんなに悪いものでしょうか。観光はたしかに軽薄です。観光地を通り過ぎていくだけです。そのように「軽薄」だからこそできることがあると思います。社会学者のディーン・マキァーネルが、観光には、いろんな階級に分化してしまった近代社会を統合する意味があると述べています(『ザ・ツーリスト』)。

 ひとは観光客になると、ふだんは決して行かないようなところに行って、ふだんは決して出会わないひとに出会う。たとえばパリに行く。「せっかくだから」とルーブル美術館に行く。近場の美術館にすら行かないひとでもそういうことをする。それでいい。美術愛好家でないと美術館に行ってはいけない、というほうがよほど窮屈です。

 観光客は無責任です。けれど、無責任だからこそできることがある。無責任を許容しないと拡がらない情報もある。「はじめに」で述べた弱い絆の話を思い出してください。無責任なひとの無責任な発言こそが、みなさんの将来を開くことがあるのです。

 ぼくは原発事故の記憶を後世に伝えるためにも、まさにそのような「軽薄さ」や「無責任さ」が必要だと思っています。福島の問題は深刻です。だから、ちゃんとコミットしろと言われると、みな腰が引けてしまいます。被災地にも行けなくなります。そしてみんな忘れてしまいます。それよりは、たとえ「軽薄」で「無責任」でも、観光客に事故跡地を見てもらって、少しでも事故について考えてもらったほうがいいのではないか。それがぼくの考えです。

 日本人は「村人」が好きです。一ヶ所にとどまって、ずっとがんばっているひとが大好きです。けれどもぼくは「旅人」でいたい。いや、むしろ「観光客」でいたいと思います。

 ずっと旅人でいるというのもたいへんです。それはそれで覚悟が要ります。バックパッカーになってインドを放浪するのは、若くないとできません。言い換えれば、それはサステナブルな生き方ではないのです。だからぼくは、旅人と村人のあいだを行き来するのが、いちばん自然だと考えます。観光とは、まさにその往復を意味する言葉です。

 世のなかの人生論は、たいてい二つに分けられます。ひとつの場所にとどまって、いまある人間関係を大切にして、コミュニティを深めて成功しろというタイプのものと、ひとつの場所にとどまらず、どんどん環境を切り換えて、広い世界を見て成功しろというタイプのもの。村人タイプ旅人タイプです。でも本当はその二つとも同じように狭い生き方なのです。

 だから勧めたいのは、第三の観光客タイプの生き方です。

 村人であることを忘れずに、自分の世界を拡げるノイズとして旅を利用すること。旅に過剰な期待をせず(自分探しはしない!)、自分の検索ワードを拡げる経験として、クールに付き合うこと。二五年後の観光客が、福島に来て、それまではいちども検索しなかった「原子力」や「放射能」を検索してくれれば、それで福島第一原発観光地化計画は成功です。

 検索とは一種の旅です。検索結果一覧を見るぼくたちの視線は、観光客の視線に似ていないでしょうか。
(『弱いつながり 検索ワードを探す旅』「2 観光客になる 福島」より)

**

『弱いつながり 検索ワードを探す旅』目次

0 はじめに     強いネットと弱いリアル
1 旅に出る     台湾/インド
2 観光客になる   福島
3 モノに触れる   アウシュヴィッツ
4 欲望を作る    チェルノブイリ
5 憐れみを感じる  韓国
6 コピーを怖れない バンコク
7 老いに抵抗する  東京
8 ボーナストラック 観光客の五つの心得
9 おわりに     旅とイメージ

◆哲学とは一種の観光である
◆文庫版あとがき
◆解説 杉田俊介

 

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