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2016.08.11

美人を一撃!

ちふれの女

狗飼 恭子

ちふれの女

先日、年下の美女から恋愛相談を受けた。
「今、好きな人がいるんです。まだ明確な言葉は貰っていないけれど、付き合ってるのとほとんど同じ状態でいます。週一くらいで会って相手のうちに泊まって、ほぼ毎日連絡を取り合って」
 と、彼女は温かい飲み物を飲みながら言った。なぜすべての美人は猛暑日でも温かい飲み物を飲むのだろうと思いつつ、ストローでアイスコーヒーをすする。
「じゃあ幸せだね」
「それがそうでもないんです。実は、先週泊まりに行ったときにみつけてしまったんですよ」
 お風呂を借りて、洗面台の前に立ったときだった。男ものの整髪料やら何やらの奥に、化粧水の瓶が一本、あったのだという。
「それがね、『ちふれ』のものだったんです」
「『ちふれ』!」
 思わず繰り返す。彼女も神妙な顔でうなずく。
「そうです。よりによって『ちふれ』です」
 女性なら皆さんご存じであろう、『ちふれ』。男性のために説明すると、『ちふれ』はちふれ化粧品というメーカーの化粧品たちのことを指す。洗顔料、乳液などの基礎化粧品から、口紅、ファンデーションなどまでを網羅している。そして特筆すべきは、その値段である。他社の多くの化粧品が安くても三千円、高ければ数万円(ものによっては数十万)のところ、ちふれ化粧品は多くが数百円で買えるのである(ちなみに今調べてみたら、ちふれ化粧水さっぱりタイプは五百円であった)。
「その前に行った時にはなかったので、他の女がわざわざ置いていったんですよ。ライバルたちを牽制するために」
 『ちふれ』。これ以上ない牽制があるだろうか。わたしが(そして多分多くの女性が)『ちふれ』に抱くイメージは、ずばり、お嫁さんにしたいタイプの女、である。黒髪ロング、清楚、薄化粧、家庭的、挨拶ができる、男を立てる。冷蔵庫の残り物でぱぱっと三品作ってしまいそうな、お財布も預けられるタイプの女性だ。
「置いてある化粧水が『シャネル』とか『カネボウ』とか『ジョンマスターオーガニック』とかだったらまだ戦える気がしたんですけど、『ちふれ』じゃあ、わたしとても敵わないです」
 彼女は肩を落とし気味に、言った。
 美人を一撃で退治するとは。ちふれの女、恐るべし攻撃力である。
「ぎりぎり、彼が『ちふれ』を使っていると思えないこともない、と無理矢理自分に思い込ませて、どうにか自分を保っています」
 まあ、今日もこのあと会いに行くんですけどね、と彼女は暖かいハーブティーを飲みながら、言った。

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