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2016.08.05

なんだか面白いので、まだまだ続けるよエッセイ15

愛する人とのダンス、濃厚な愛撫――。そんな愛する人が、ある日“誘拐”された!?

歌う旅人・香川 裕光

愛する人とのダンス、濃厚な愛撫――。そんな愛する人が、ある日“誘拐”された!?

あの大きな大きな楽器、コントラバスをこよなく愛する知り合いのミュージシャンは、女の人を愛撫するようにその音を奏で、原付バイクを停めるようにコンビニの前に置き去りにする。
そんな“愛する人”が、ある日誘拐されたらどうする――!?

*   *   *

エッセイ
コントラバス

 楽器の音にはいろんな「色」がある。
 ポロポロと水がこぼれ落ちるような鍵盤の音。甲高い鳥の鳴き声のような管楽器。心臓の鼓動のような打楽器。心の奥底に眠る何かを思い出させてくれるような、伸びやかな弦楽器。
 その他にも様々な楽器が、それぞれの「音色」を奏でる。
「コントラバス」という、バイオリンの大きなお化けのような形をした楽器がある。「ウッドベース」とも呼ばれるその大きな楽器は、人の背丈よりも大きく、4本の太い弦を震わせ、地を這うような低い音を鳴らす。
 音楽の世界で"ベース"と呼ばれる低い音は、その名の通り、建築でいうところの"基礎"や"土台"のような役割を果たしている。縁の下の力持ちってやつだ。
 土台がしっかりしていないと、頑丈で立派な家を建てることができないのと同じように、ベースは音楽を奏でる上で、非常に重要な楽器と言える。
 しかし、コアな音楽好きや、楽器を演奏している人でもない限り、あまりその重要性や存在を“意識”して音楽を聞いてないのでないだろうか。
 むしろ、歌やギターなど、華やかで目立つ音に耳が集中してしまうため、ベースの音を聞きとることができない! って人も少なくないんじゃないかな、って思う。あくまで一般的なお話だけど。

 そんな目立たない楽器"コントラバス"をこよなく愛し、その楽器に人生を捧げている方が、僕の身近にいる。
たまたま、僕が地元のカフェでコーヒーを飲んでいたところに、大きな楽器を持ってその方は現われた。話しかけたら早速セッションすることになり、握手する前に音楽で繋がったような方だ。
「はじめまして。能見誠(のうみまこと)と言います。よろしく。君の歌は耳に残るね」
 長髪で、大きな身体のその人は、優しい声で、最初から僕の歌を褒めてくれた。
 能見さんはもともとクラシックのコントラバス奏者としてオーケストラに所属していたが、40歳を越えてからジャズに転向し、現在はソロアーティストとして活動をしているらしい。
 ひとしきり話を聞いて、そのずば抜けた演奏技術と低音の美しい音に魅了された。

「なるほど……。この人は変態なんだな」

 と思ったのが率直な感想だ。
 音を鳴らしながら、自分の身体より大きなコントラバスと、踊るように、いや、徐々に一体化していくかのように見えた。その姿に"魅せられた"。
 この人は、本当に心から楽器を愛しているのだろう。多分、男が女性を愛撫するような気持ちでコントラバスを奏でている。
 指で弦を弾きながら、
「ここがいいんだろう? いや、ここかな?」
 と考えながら演奏しているらしい(多分)。
 でも、そのくらい変態だからこそ、どうしようもなく情熱的で、優しい音色として、聴く人の心の底の方にまで響く。
 指と弓を巧みに操り、美しく力強い旋律を奏でてゆく。
 今まで“縁の下の力持ち”としてその魅力を発揮していた裏方が、堂々とメインキャストとしてステージの中央でスポットライトを浴びている! そんなふうに見えた。

 たとえば甲子園で優勝が決まり、みんなで泣きながら抱き合っている。そこには、怪我をして野球生命を断たれたけれど、裏方で雑用をこなし、チームを支えた男子マネージャーがいる。その彼が、泣きながら胴上げされている――。そんなシーンろを見たら僕は涙が止まらない。
 それと同じくらい、能見さんのコントラバスを聴いて、涙が出た。
 目立たない音の楽器だと思っていたけれど、ちゃんと主役になれる楽器なのだ。能見さんはそれを音で教えてくれた。

 大きな楽器を真っ赤なケースに入れて、車輪をつけてゴロゴロと引き連れ、その変態おじさんは旅をしている。コンビニに寄りたくなったら、「ちょっとここで待っててなさい」と言わんばかりに、駐輪場に、まるで原付バイクを駐輪するように横たわらせて、買い物へいく。
「そんなことしてたら、盗まれますよ?!」
 と忠告しても、「こんな大きな楽器、盗む方も骨が折れるさ」と能見さんは気にしない。
 結構ワイルドで、亭主関白だ。
 そんなふうに言ってるくせに、自分の愛する妻を連れて歩くように、幸せそうに楽器を抱きかかえて街をゆくのだ。

 そしたらあっけなく盗まれたのである。
 ライブ後に酔っ払ってコンビニに入った隙に、何者かに持ち去られてしまったらしい。

 愛するヒトを誰かに誘拐されてしまった能見誠は、ショックのあまり、ご飯も喉が通らなくなり、すっかり落ち込んでしまった。自分の身体が半分に引き裂かれたように胸を痛め、自分の浅はかな行動を恨んだ。
 警察に相談するも出てこず、絶望的な状況に陥った能見誠。藁をも掴む思いで盗難された旨をSNSに書きこんだ。

『僕の楽器、盗まれました。見かけたら情報ください。とても大切な楽器です。』

 するとどうだろう。
 写真付きのその投稿を見かけた人から、1人、2人、3人と情報がシェアされていく。
 シェアされるたびに、『ピコン!』と能見誠のスマホの通知音が鳴った。
『ピコン!』
 バンド仲間がみんなに呼びかけてくれた。
『ピコン!』『ピコン!』
 能見誠の音楽を愛する人々が、どんどん情報を拡散していく。
『ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!!!!』
 ネットの力を借りて、人々が次々と手を繋いで行くように、その想いは広がっていく。
『ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン!!!!!』
 恐ろしいくらいに能見誠の投稿は拡散され、
 一晩でシェアが6000件を超えた。
そして、
「ヒロミツくん。僕のFacebook、炎上してますよ」
 能見さんから不気味なメールが届いた。

結果、SNSの猛烈な拡散により、『近所の質屋で同じ楽器を見かけた!』という方に行き着き、警察も介入し、能見誠のもとに、愛するコントラバスは帰ってきた。

「ヒロミツくん。ネットの力はすごいよ。ボクの楽器、戻ってきました。本当によかった」
 嬉しくて嬉しくて僕は飛びあがった!
 SNSも、使いようによっては本当に大きな力を発揮できるものだなと思った。
 能見誠は今日も、大きな楽器を抱きかかえ踊る。
 最近は野外プレイと称して、路上でもあんなことやこんなことを繰り広げるらしい。
 先日、"楽器見つかりましたありがとうパーティー"に招待していただいた。実は能見さんは料理の腕がプロ級なのだ。彼の自宅で、彼の手料理をごちそうになり、みんなで美味しいお酒を飲んだ。

 それにしてもSNSの力はすごい。
 僕もそろそろ投稿してみようかと思う。

 誰か愛撫させてください。……いや炎上するわ!

*   *   *

こんなふうにSNSが役に立つことがあるんですね。
SNSエピソード、感動編でした!

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