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食らすぞ、きさんッ!北九州グルメ伝説

2018.05.05 公開 ツイート

第15回

今浪うどんの肉うどん【リバイバル掲載】 福澤徹三

GWも残りわずか。近場で思い出の味を作るなら……? 食都・福岡県でいちばんディープな街、北九州の「安くて旨い」を紹介した人気コラムから、とっておきをご紹介します。

 正確に数えてみたことはないけれど、麺類のなかでもっとも種類が豊富なのは、うどんではなかろうか。「かけうどん」「釜揚げうどん」「つけうどん」「鍋焼うどん」「ぶっかけうどん」「焼うどん」「煮込みうどん」といった食べかたのバリエーションから「きつね」「たぬき」「天ぷら」「力」「山かけ」「月見」「カレー」「肉」など具の種類も数多い。「稲庭うどん」や「五島うどん」のように名高い乾麺もある。

 さらに全国各地の名物うどんが加わる。「讃岐うどん」「きしめん」「伊勢うどん」「京うどん」「博多うどん」「小松うどん」「氷見うどん」をはじめ、大阪の「かすうどん」「天カレー」山梨の「ほうとう」岡山の「ホルモンうどん」福岡の「ごぼ天うどん」「かしわうどん」といった個性的なうどんがいくつもある。

 珍しいものだけ解説すると「かすうどん」は、牛や豚や馬の腸を油で揚げた「油かす」と呼ばれる具を入れたもの。「天カレー」はエビ天が入ったカレーうどん。「ほうとう」は野菜を入れた味噌汁で幅広の麺を煮込む。「ホルモンうどん」は牛ホルモンと野菜を麺と一緒に炒めたものだ。

 近年はネットの影響で、こうしたご当地うどんも知られるようになってきたが、北九州の「肉うどん」をご存知ない読者は多いだろう。肉うどんといっても、甘辛く煮た牛肉を載せたふつうの肉うどんではない。

 やわらかく煮込んだ牛スジや牛のホホ肉がメインの具で、ツユは醤油ベース。そこにおろしショウガを入れて食べる。「肉うどん」の発祥には諸説あるが、戦後の食糧難の時代、あまった牛スジやホホ肉を具として使ったのがはじまりらしい。

 かつては「どぎ○ぎうどん」もしくは「ど○どきうどん」と呼ばれていたが、現在は商標登録されているために、どちらの名称も自由に使えなくなった。

 それはともかく、この「肉うどん」は、食べたことのない地元民もいるほどで、まさに知るひとぞ知る北九州名物である。店舗数がすくないうえに、おもだった店が目立たない立地にあるせいだが、熱烈なファンが多く、人気店は開店から閉店まで客が途切れない。

 そうした人気店の筆頭にあがるのが「今浪(いまなみ)うどん」である。

 

「今浪うどん」は、北九州の小倉競馬場に近い住宅街の一角にある。

 目印は白い暖簾だけで、ぱっと見は民家のような佇まいだから、ふつうのうどん屋をイメージしていると、見逃してしまうかもしれない。実際、食べにいこうとして道に迷ったという話は再三耳にした。

 

 

 そんな立地条件にもかかわらず、店内はいつも混みあっている。店内はせまいが、十七台も停められる駐車場に人気のほどがうかがえる。店を切り盛りするのは大将のご家族と従業員で、接客はアットホームな雰囲気だ。

 創業は昭和四十六年だから、半世紀近い歴史を誇る。

 メインメニューは、もちろん「肉うどん」と「肉肉うどん」。それぞれ大中小があって、麺の量を選ぶ。「肉肉うどん」は肉の量が倍になる。最初から入っている具は、肉とネギだけとシンプルだ。

 

 

 大将によれば肉はミスジ——一般的にいう肩肉のミスジではなく、身とスジのあいだの肉を中心にホホ肉を混ぜたもので、煮込みから味付けまで三時間以上かかるという。

 中太の麺は自家製の手打ち、ツユはダシのきいた醤油味。関東のうどんは醤油ベースだが、せいぜい薄口醤油しか使わない九州で、黒っぽいツユは珍しい。色が濃いわりに醤油辛くないのが特徴だ。

 

 

 薬味はテーブルやカウンターに用意してあり、好みで味を調整できる。おろしたてのショウガ、唐辛子、千切り大根の漬物、柚子胡椒。これらの薬味もすべて自家製である。

 

 

 はじめて「肉うどん」や「肉肉うどん」を注文したら、まずは薬味を入れずに食べてみて欲しい。やわらかくてコクのある肉、もっちりした麺、肉の旨みが溶けこんだ、まろやかで甘みのあるツユを味わってから、おろしショウガをたっぷり入れる。

 

 

 ショウガの辛さとさっぱりした口当たりは「肉うどん」と抜群の相性で、猛烈に食欲を刺激する。続いて唐辛子や柚子胡椒を加えると、辛さが増しておにぎりやごはんが欲しくなる。

 

 

 ぴりっと辛い千切り大根の漬物はごはんの友に絶品で、これを目当てに通ってくる常連客も多いらしい。玉ネギの天ぷらが入った「玉ねぎうどん」と「ごぼ天うどん」も人気で、玉ネギの天ぷらとごぼ天は単品でも注文できる。
 営業時間は、午前八時半から午後三時まで。
 取材にいったのは閉店直前だったが、客足はいっこうに途切れない。高校生からお年寄りまで、みなものすごい勢いで「肉うどん」や「肉肉うどん」をたいらげていく。
 いったん食べはじめたが最後、丼が空になるまで箸が止まらなくなるから会話は困難で、食事会やお誕生会、各種パーティやご両家の顔合わせには不向きである。もっとも次から次へと客がくるから、どのみち長居はできない。
 芸能人やスポーツ選手が北九州を訪れると、わざわざお忍びで来店するが、一気に食べてしまうのは一般客とおなじである。
「今浪うどん」の「肉うどん」は、大将の母親である先代の女将さんが、独学で現在の味を作りだしたという。北九州ならではのうどんとして、もっと全国に知られて欲しい味である。

(写真:punch)

今浪うどん
TEL:非公開
住所:福岡県北九州市小倉南区北方3-49-29

 

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食らすぞ、きさんッ!北九州グルメ伝説

食都・福岡県でいちばんディープな街、北九州。「安くて旨い」なら「北九州最強」説をとなえる作家、福澤徹三が地元の味を紹介する激旨コラム。

キタキューの食いもんが、いっちゃん旨いけん。

なんちかんち言わんでええけ、いっぺん食うてみりっちゃ!

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福澤徹三

1962年、福岡県北九州市生まれ。デザイナー、コピーライター、専門学校講師を経て、作家活動に入る。2008年『すじぼり』で第10回大藪春彦賞を受賞。14年には『東京難民』が映画化され話題に。小説作品以外にも、『自分に適した仕事がないと思ったら読む本 落ちこぼれの就職・転職術』など、仕事や就職をテーマにした新書も発表している。

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