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2016.08.03

ヒットを知らない僕らが「百円の恋」を
ヒットさせた理由

足立 紳/佐藤 現

ヒットを知らない僕らが「百円の恋」を<br />ヒットさせた理由

公開と同時に口コミで人気が広がり、異例のヒットを記録した映画「百円の恋」。ものが売れにくい時代に、面白い創作物はどのように生まれ、その面白さはどう人へ伝播するのか。脚本家の足立紳さんとプロデューサーの佐藤現さんの、ヒットを生み出す「好き」の力に迫ります。

「百円の恋」まで芽が出なかった

佐藤 足立さんは今、時の人ですね。松田優作賞を皮切りに菊島隆三賞でしょう、それからヨコハマ映画祭脚本賞、市川森一賞脚本賞、そして第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞。「佐知とマユ」が創作テレビドラマ大賞も受賞してます。6冠!!

足立 そうなんです。

佐藤 すごいですよ。そんな人います? 

足立 いないと思います(笑)。

佐藤 すごいことです。今日はテーマが「好きがヒットを生み出す」ということなんですが。そんなに僕らヒットを生み出してないんですけどね。

足立 僕は「百円の恋」のみ。1安打。15打1安打くらいです。

佐藤 僕は3安打くらいはあるけど(笑)。でも、足立さんだって急にヒットを生み出したわけではないですよね。そうそう、こちらの小説『乳房に蚊』ほんとに面白かったです、これを読むと……この本はそもそも半自伝的というか。

足立 半というか4分の3くらい。

佐藤 自分のことを書いてるわけですよね。読むとわかるように、「百円の恋」に至るまでに芽が出ない時期が長かった。

足立 最近までずっとです。

佐藤 何がすごいって、男のあんまりさらけ出したくないゲスな部分を全く包み隠さず書いてるところですね。

足立 それがいいとは思ってないんですが、結局自分に芸がなくて。高校時代とかも笑いをとる時、とりあえず素っ裸になるという、その方法と同じ。

佐藤 僕も学生時代すぐ脱ぐタイプでした。でもプロデューサーという職業は人に気を遣って調整が多いんですよね。だから「こういうこと言っちゃいけない」とか、自分を律さないと出来ない仕事で。もちろん、プロデューサーだけじゃなくて社会で生きてるとそれぞれみんな自分を隠してることがあるように思いますが、足立さんの書くものを読むと胸がすく。読んでて気持ちいいんです。

足立 そう言っていただけると有り難いんです。


誰の目にどう留まるか。一旦は諦めた「百円の恋」

佐藤 そもそも「百円の恋」だって、書いたのはずいぶん前ですよね。

足立 シナリオは2010年です。その前のロングプロットはさらにそこから2年くらい遡る。ちょうどその頃、監督の武正晴さんが女の人をテーマにした企画をやりたがっていて、いくつか考えたんです。「百円の恋」のプロットを見せたら「面白い」と。それで二人で制作会社にもってまわって、でもいい返事はなかなかもらえず。半年くらい経った時に3.11が起きて、結局そこで一旦諦めるのですが、その後松田優作賞に応募した。本当のところ、武さん以外誰も面白いと思ってくれないんじゃないかという疑念があって、それを確かめたかった。

佐藤 それで松田優作賞をお獲りになった。松田優作賞というのは松田優作フリークの大橋さんという素敵なおじさまが実行委員長を務めていて、商売っけもなく山口県周南市で映画祭を立ち上げてしまった。松田優作さんが好きだ、映画が好きだというそのパワーだけで奔走してね。そこに大橋さんがいなかったから、まず「百円の恋」は陽の目を見てないですね。

足立 そうです。完全に埋もれてました。

佐藤 誰が読むかで、運命は大きく変わりますね。

足立 大橋さんがほとんどおひとりで応募作を読んでたと聞いて。どうやら朝4時にすごく眠くて眠くて読むのをやめようかと思った時にたまたま「百円の恋」が当たったらしいです。

佐藤 足立さんは持ってますよ。「百円の恋」に響く人が選考をしてたわけですから。最終選考委員の脚本家の丸山昇一さんは、一旦朝風呂を浴びて、優作さんが生きていたらどれを選ぶかという気持ちで最後の3本から選んだとお聞きしました。

足立 最終に3本残って、その3人が映画祭に呼ばれ、映画祭の最終日に大賞が発表されるという形だったんですが、どうやら友人らによると、大賞はそもそも決まっていたのではないかと。何も聞かされていない自分はきっと賑やかしのために呼ばれたんだな、と憂鬱な気分で映画祭に行ったのを覚えてます。

佐藤 もちろん、そんなふうに決まってたわけではなく。足立さんが第一回松田優作賞を穫った。でも、映像化が約束されているわけでもなく、賞金もそう大した額ではないんですよね。それでも栄誉があるし、何より、優作賞を獲ったということでもう一回営業をされた。その時に僕も初めて読ませてもらった。僕は松田優作が大好きで、「探偵物語」が好きだから東映ビデオに入ったくらいで。松田優作賞は知りませんでしたが、そんな賞があるのかと読み始めたら面白くて。もともとボクシング大好きなんです。そういう意味でも、この巡り合わせはラッキーですよね。それまで立とうともしなかったダメ人間が初めてリングに上がる話、それも「参加に意義がある」じゃなく、本気で勝とうとする意志を持っている、ボロボロになっても勝ちにいく人間の美しさがあった。

足立 そう考えると、一回くらいは勝ち組に入ってみたかったという僕の心の叫びがあったかもしれません。


勝ち慣れてないから、ヒットの実感さえ持てない

佐藤 「百円の恋」は、わかりやすく「勝った」という感触を僕も持ちました。今回のようなわかりやすい大ヒットは僕も初めてで。低予算で大変でしたけど、素晴らしい役者やスタッフが集まって来てくれて、幸福な出会い、巡り合わせが重なりましたね。

足立 僕のほうは勝ち慣れてないというか。勝ったことがないから、いつまでたってもヒットしている実感も持てなくて。2014年に公開して2016年のわりと最近までどこかで上映されているということで初めてたくさんの人が見てると実感が湧きました。

佐藤 日本アカデミー賞最優秀脚本賞でいろいろ変わったでしょう。

足立 わかりやすく変わりましたね。3月4日が授賞式で、翌日から仕事の依頼が異常に増えた。ほんとにびっくりしました。作品じゃないんだと。

佐藤 『乳房に蚊』のモデルになった奥さんもめちゃめちゃ嬉しかったんじゃないですか。

足立 松田優作賞を穫った時の喜び方が一番でしたね。今でもよく覚えています。僕が映画祭に行ってる間、何度も「どうだった??」とメールが来て。授賞が決まってすぐ電話したら悲鳴をあげてました。日本アカデミー賞の頃は妙に慣れてて「よかったじゃん」みたいな感じで。

佐藤 小説の中の妻チカは、デフォルメもあるとは思いますが……。

足立 ほとんど嫁さんです。デフォルメというか、むしろ弱くなってます。僕はワープロをうつのが遅いので嫁さんにタイプしてもらうんですけど、うってもらった原稿を読むと、女房の言葉遣いがソフトに変わってるんです。「こんな言葉遣いしてるって思われたくない」って。嫁が直すとつまらなくなるので、またそこを僕が直し、それをまた嫁が戻すという繰り返し。

佐藤 最終的にはチカは十分強烈だったし面白かったと思いますよ。

足立 最終的には僕が押し切りました。でも、確かあと30キロ痩せたら藤原紀香になれるのにってくだりを、毎回20キロに直してきて……。

佐藤 そこは本では会話になってたはずですよ。30キロ痩せたら藤原紀香もびっくりだよねって言ったら、20キロでしょうみたいな。

足立 あ、最後は会話にしたんだった。そういうところを気にするのか、と女房に対して初めて思いました。

佐藤 これを読んでチカのファンになった人、多いんじゃないですか。

足立 それは言われますね。男の人からも女の人からも。

佐藤 素晴らしい奥さんですよ。男のゲスな部分がさらけ出ててそこで大笑いしますが、根底には映画が好きでたまらない、奥さんが好きでたまらない男だし、奥さんは奥さんでその男の才能を信じている。根底に愛がある。

足立 うん、まぁ……。

佐藤 泣き笑いのシーン。寿司屋行ったあとチカの感情があふれるところ、名シーンです。

足立 寿司屋じゃなかったですけど、あんなようなことが本当にありました。その時は本当に申し訳ないと思いました。こいつ、1%くらいまだ俺のことを信じていたのかと。

佐藤 泣き笑いのシーンといえば、「百円の恋」で一子(安藤サクラさん)が狩野(新井浩文さん)とアパートで肉を食べるシーンでも、笑ってるけど泣けるというのがあって。

足立 ふたつの感情が同時にわき上がっちゃう場面は面白いですね。

佐藤 映像で浮かびます。『乳房に蚊』も映画で見たら、きっと泣けますね。確か、これは現代版「愛妻物語」だと思ってると足立さん書いてましたよね。「愛妻物語」は新藤兼人監督作品で、あれも脚本家の男と、それを支える女房の話でしたね。


シナリオライターになったほうが、早く監督になれるんじゃないか!?

佐藤 もともと足立さんは演出をやってたんですよね。

足立 助監督スタートです。いつか監督をしたいという気持ちがあって、シナリオを書いたのも、もしかしたら助監督をずっとやってるより、シナリオライターとして売れっ子になったほうが、早く監督になれるんじゃないかという、今思うとすごく甘い考えです。

佐藤 相米慎二監督に師事した時期もある。

足立 映画学校卒業してすぐ、相米さんが映画を撮ってない時期に、相米さん個人から月給をもらって一年間くっついてました。

佐藤 相米さんの映画は好きだったんですか。

足立 いや、どっちかっていうと苦手だったんですよ。そのことも初めて会った時に相米さんにお話ししたら「俺の映画なんて好きじゃないほうがいいんだよ」と、ぼそぼそした喋り方でおっしゃって。あと覚えている会話は「お前どこから来たんだ」「鳥取です」「ひでーところから来てるな」くらいです。ほんとに喋らない方で。

佐藤 プロット書いてみろとか、そういうことはあった?

足立 特にそれもなく。相米さんのところに持ち込まれる原作を読んだり、あとは自分で書いて見せたり。監督からは2本だけ面白いと言われました。

佐藤 その2本はまだ形になってない?

足立 できれば世に出したいと思ってます。

佐藤 相米さんから受け取ったことや感じたことはあるんですか。

足立 人生の大きな悔いのひとつなんですが、その時は辛いという思いしかなかった。相米さんが食べることが大好きで、美味いもんはたくさん食わせてもらったけど。だから何を自分が勉強したのか全くわかってないんです。もったいないです。


このままおっぱい触れることもなく、僕は死んでいくのか

佐藤 この夏、足立さんのもうひとつの夢が叶い、監督デビューします。「14(じゅうし)の夜(よる)」という作品です。

足立 僕が中学生だった1980年代後半の話です。その頃ちょうどレンタルビデオ屋が地方都市に普及してきて、アダルトビデオという言葉が当時あったかわからないけれど、それに出てる女優さんがサイン会に来るという噂が田舎の中学校に出回る。噂の尾ひれとして、夜の12時を過ぎるとおっばいを触らせてくれるらしいと。中学生たちが夜中にそのサイン会に向かう。そういうお話です。

佐藤 最初にプロットを読ませてもらった時にめちゃめちゃ大笑いして。中学生がAV女優のおっぱいに浮き足だつ話って、なかなか映画化できないじゃないですか。

足立 できないですよね。プロット自体は7、8年前にありましたけど。

佐藤 普通できないと思うんです。でも、安心していただきたいのは、足立さんの本なので、おっぱいだけではなくて、少年のひと夏の成長潭になっているし、父と子の話にもなっていて、青春映画としていいものになると思います。「スタンド・バイ・ミー」をお互い好きで、僕は「いか臭いスタンド・バイ・ミー」と言ってます。「性春」と「青春」が混ざったような、甘酸っぱい作品になればいいですね。でも実際、男はおっぱいのことを考えてる時間長いですよね。

足立 「14の夜」にも出てくるんですけど、僕は中学生の時、果たしてこの先女の人のおっぱいに触れることがあるのかが、人生最大の悩みだったんですよ。触りたいんじゃなくて、もちろん触りたいんだけど。このままの人生だったら触れずに終わるんじゃないかと、本当に不安でした。
(おわり)

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