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2016.07.26

SNSからだけで知り得ること

(らしい)の世界

狗飼 恭子

(らしい)の世界

 知人が離婚した(らしい)。
 ある日突然、奥さんが出て行った(らしい)。
 子供も連れて行った(らしい)。
 荷物もすでに運び出されていた(らしい)。
 弁護士から連絡が来て、離婚届に判を押せと言われた(らしい)。
 なぜ(らしい)なのかというと、これがすべてSNS上で得た情報だからである。
 もともと、わたしと彼とはほとんど接点がなく、数回しか会ったことがない。SNSで繋がっているだけの関係である。奥さんとも数回会った。とてもきちんとした、素敵な女性だった。だから彼女が突然出て行ったとしたならば、それにはちゃんと理由があるのだろう、と思う。
 なぜ彼は、奥さんとのいろいろなやりとりをネット上に上げてしまうのだろう。直接言えばいいのに、とやきもきしながら彼のSNSを辿り読み続ける。奥さんとは連絡ができない状態で、だから彼は自分の現在をネット上に書き続けているのかも知れない。SNSに書かれた言葉は彼から彼女へのメッセージなのかも知れない。
 とは分かりつつも、それでも、もしわたしが奥さんだとしたら書かれるのは嫌だ。なんで誰でも読めるような場所に書くの、わたしへのメッセージならわたしにだけ送って欲しい、きっとそう感じるだろう。彼はそれも理解した上でSNSにことの顛末を書き続けているのか? 「さっき弁護士から連絡が来た」とか「離婚の条件」とか、そんなの書く方がおかしいってことぐらい普通誰だって分かるだろう。
 これはひょっとすると、ものすごく考え抜かれたDVなのではないだろうか。
 奥さんに出て行かれる、連絡が取れなくなる、子供に会えない。事実だけでは彼のほうが被害者に見える。けれど自分が被害者であることを晒すことにより、相手を貶めて加害者になるという、巧妙な攻撃。晒すことで裁判に不利になるだろう、それでもいいから相手にダメージを与えたいという、捨て身の攻撃。
「わたし昔苛められていたんだよね」
 と、酔っぱらうと口にする友人がいる。
 当時の彼女を知っているわたしから見ると、彼女はけして苛められていなかった。彼女は親しい友人の恋人を奪ったので、他の友人たちから敬遠されていただけだった。その証拠に、彼女の親しい友人たちは、彼女が恋人と別れた後はそれまで通り友達に戻った。
 被害者であることと加害者であることは、とてもよく似ている。ほんの薄皮一枚の世界。
 たまたま「彼の奥さん」や「苛められていた彼女」を現実で知っていたわたしは、真実を想像することができた。けれどSNSや伝聞でもし一方向からしか見えていなかったら、きっと(らしい)を信じてしまった。世界は多面であることを、忘れないようにしなければ、と思う。
 そののち、彼と奥さんは離婚が成立した(らしい)。
 今では子供たちともときどき会わせて貰える(らしい)。
 毎日一人で酒を飲んでいる(らしい)。 

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