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2016.07.28

ノンフィクションの限界。
フィクションの可能性。

青木 俊/清水 潔

ノンフィクションの限界。<br />フィクションの可能性。

尖閣ゲーム』(青木俊・著、幻冬舎刊)の刊行には、ジャーナリスト清水潔さんが大きく関与する。
桶川ストーカー殺人事件』や『殺人犯はそこにいる』などの著書があり、卓越した取材力で知られる清水さんと、
元テレビ東京北京支局長で『尖閣ゲーム』で作家デビューを果した青木さんによるフィクション・ノンフィクション談議。

………

青木 最初に清水さんにお会いしたのはかれこれ十数年前です。ご著書の『桶川ストーカー殺人事件』があまりに素晴らしくて、知り合いに紹介してもらいました。ここまで取材する人がいるのかと、読んでびっくりしちゃって、絶対この人に会いたいと思った。

清水 青木さんがまだテレビ東京に勤務してた時代だね。暫くしたら、非常に丁寧な手紙と一緒に書いたものが送られてきた。第一印象は文章がすごく上手くて言葉をよく知っている。僕とは全然タイプが違う。ただそれが果たして商売品になるかというと、僕にはわからなかった。それで特に何もしなかったんだけど、暫くしたら二作目が届いた。確かによくなっている。一作目も二作目も中国に絡む話だったので、本気で出版したいなら、舞台は日本にしたほうがいい、というアドバイスを確かしました。

青木 それから僕が書いて送ると、清水さんが鬼のようなコメントを付けて返してくれるというようなやり取りが始まって。今回『尖閣ゲーム』という初めての小説を出版しましたが、清水さんから多大な協力をいただきました。監修というか、完全なプロデューサーです。

清水 青木さんは文献による調査はかなり緻密にされる方だから、あとはどれだけリアリティのあるディテールを盛り込めるかで。2014年には一緒に沖縄に取材旅行にも出掛けましたよね。

青木 あの取材があったから、『尖閣ゲーム』のストーリーが生まれたといっても過言じゃない。

清水 鍾乳洞や防空壕など戦争と関わる場所を色々見たり。小説の冒頭に出てくる真栄原も、今はほとんど廃れてますが、古い建物など残ってる雰囲気を見てもらって。

青木 真栄原に「浴衣姿の相撲取りの一団がいた」と本に書きましたが、それも清水さんから聞いた話です。

清水 そうそう。10年くらい前に沖縄に行った時、「すごい所がある」って見に行ったら化粧の濃い女性がずらっと並んでて。なかに文庫本を読んでる白いブラウスに紺のスカートの女性がいてドキッとした。どうしてこういう場所にこんな女性がいるのかと。もちろん僕は彼女と言葉を交わすことはなかったけど、勝手に頭の中で想像したわけです。そんなことも青木さんに話した。

青木 清水さんから話を聞けば聞くほど、創作意欲が湧いてくるんです。技量が追いつくかは別ですが。だから、真栄原の少女も県警のキャリアも実在するリアルな姿を作品に投影したつもりです。

 

ダントツの取材経験と知識の蓄積が
確固たるリアリティを生む

清水 『尖閣ゲーム』のオスプレイ墜落シーンも偶然から生まれたんだよね。町中にオスプレイが墜落したらどうなるかをシミュレーションするために、沖縄取材の時に普天間基地を一望できる嘉数高台公園に行ったら酒盛りしているおじさんたちがいて。猫もいて楽しそうな昼下がり。そうしたシーンを青木さんは実にうまく描き出した。

青木 清水さんは取材仲間も多いから銃の詳しい話も取材させてもらったりもしました。

清水 ドライバーで三分割にするとかね。組み立て式の銃をバレないで現場に持ち込むにはどうしたらいいかとか。一行一行、丁寧に情報を積み上げて青木さんはお書きになった。そうした話は新橋のガード下でハイボールを飲みながらとかね。さんざんやりました。

青木 清水さんは取材の仕方、考え方がダントツなんです。報道に長く携わる人間は清水さん以外にも大勢いるし、僕だって官僚や警察組織について知らない方ではない。ところが清水さんの知識はもっともっと踏み込んでいる。例えば警察の動きについて描くとき、清水さんの場合、仮説を立てるというより「実際にこう動く」という、経験に基づく話が出てくる。あるいは「こういう動き方はしない」ということも、実際に見てるので自信をもって教えてくれる。ずっと現場で最前線を追いかけてきた経験と知識の蓄積がすごい。

清水 僕ががーっと言うと、青木さんは「なるほどなるほど」と言いながらメモ取ってね。こっちはハイボールでいい気分になってそのまますっかり忘れてしまうけど、次の日に詳細なメールが送られてくる。

青木 肝心なことはメモを取らなくても覚えてますけどね。「こういう時どうなりますかね」と聞くと、1分とか30秒で「それはこういうことでしょう」って反応がパッと返ってくる。問題になっているポイントがぴっと浮かび上がる。もちろん生来の頭のよさとか、そういうこともあるとは思いますが、それまでの取材や経験の蓄積がダントツにすごい。こっちは物語を進めるにあたって相当切羽詰まってるから、酔っぱらっていようがなにしようが、清水さんが提示してくれた解決の道をしっかり記憶に刻む。

清水 さんざん考えて煮詰まってると見えないことがあるんだよ。俺は端から見てるだけだから。

青木 それだけじゃないです。現実をたくさん知ってるからこそ迷いがないってことだと思う。こっちは知らないところを想像で埋めようとするからどんどん迷路に入り込む。清水さんは想像しない。

清水 気をつけないといけないのは、小説といえども、今の時代、入り込んではいけない領域があるでしょう。名誉毀損だったりプライバシー侵害だったり。報道とは違うレベルで小説やドラマにもある。そのあたりを感覚的に避けることには、人より慣れてるかもしれない。

 

小説に描いた「あり得ない」状況が
現実に起きている

青木 一人で頭のなかで考えたことなんて所詮つまらないと思うんです。昨年清水さんは南京事件について取材されて、それをNNNドキュメント「南京 兵士たちの遺言」として放送し、先日ギャラクシー賞テレビ部門の優秀賞を受賞されたけど、その取材過程で見たことや感じたことも『尖閣ゲーム』でヒントにさせていただいた。

清水 状況は刻々と変わってますね。今回、青木さんが書いてる途中で沖縄の状況もずいぶん変わった。「冗談じゃない」という状況が実際に起きてるし、小説が描いたことが、実際の沖縄で起きている。その一つの例が自衛隊の治安出動の話。書いてる時は、治安出動など現実には起こらないだろうが、もし仮に起きたらどういう流れかをシミュレーションしながら書くわけだけど、本の完成が間近になった時、実際に辺野古で警視庁機動隊が出動した。

青木 第4機動隊。

清水 警視庁の機動隊が沖縄まで行ってデモ隊を強引に退去させるなんてあり得ない状況です。ところが現実に起きている。また、小説のなかで女子高生レイプ事件があって、被害者がいかにも遊んでる女子高生に見えるよう警察が情報操作をする、要は事件を矮小化しようとするわけだけど、まさにこの五月、二十歳の女性が沖縄で殺害された事件では、県警は早い段階からYナンバー(軍関係者の車)がカメラに映ってるのを把握していたとの情報がある。ところが志摩サミットが終わるまで公開しないと、どうやら県警上層部は「忖度」したらしい。そのことに納得できない人間が地元新聞にリークして明るみに出ましたが。

 そうしたことは、小説の世界ではなくて、現実に起きている。詳細はよくわからなくても、当局が情報を隠したり、歪めたり、そして忖度する人たちが本当にいるんです。僕はずっとノンフィクションの世界でやってきたけど、ノンフィクションで、そうした「詳細がよくわからないこと」を書くことはできない。ノンフィクションは事実しか書けないんです。だから僕はフィクションに、青木さんのフィクションの力に希望を託すわけです。本当に起きるかもしれないことを、この小説に詰め込んでもらったわけです。次回そのあたりの話をしましょう。

 

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