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親公認AV女優 裸になる娘とその親たち

2016.07.08 公開 ツイート

「オンナ」を最大限生かす職業の影 アケミン

親が応援するAV女優、「カラダを売る仕事」をめぐる社会の価値観、親子の関係を探ってきたこの連載。今回は、波乱続きの人生の末にAV女優を選択した娘と、その仕事を知り、娘を戸籍から抜いた母親が登場します。果たして「公認」といえるのか――。

<今回の女優>
若菜 亜梨沙(わかな ありさ:仮名)
1990年5月15日生まれ
千葉県出身
164センチ スリーサイズ B88 W58 H86
父、母、弟の4人家族 (現在、両親は離婚)
AV女優歴5年目の単体女優

元読者モデル、タレントのAV女優

「私、今年の秋に引退しようと思っているんです。なんとか5年、続きました。振り返るとこれまでもいろいろやっていたなあ~と思いますよ」

 ゆっくりとした口調で亜梨沙は語る。小さい顔にアイラインで縁取られた大きな瞳が印象的で、少しけだるげな口調がセクシーだ。小麦色に焼けた肌と派手なメイクは、いわゆる「ギャル」と称される部類に入る。しかし笑うたびに口元から覗く白く形の良い歯、カラフルに彩られた長い爪、艶やかにカラーリングされた茶髪、細部までよくメンテナンスされた隙のなさは、明らかに「どこにでもいるギャル」とは一線を画している。亜梨沙は現在26歳、AVデビューする以前はテレビやファッション誌を中心にタレントとして活動していた。

 

「モデルを始めたのは16歳のとき。たまたま109に買い物に行ったらスナップを撮られて読モを始めました。18歳からは事務所に入ってやっていたけど、モデル業はそんなにお金にならない。読モはせいぜい月5、6万くらい。専属でやっても15万とか。生活費を稼ぐためにキャバも並行してやってましたね」

 私が彼女を取材するのは2回目。前回はエロ本の取材だったが、質問を投げかけずとも終始、こちら側の意図を汲み、的確な言葉で表現してくれる。「トークスキルの高い女優さんだな」と思っていた。

「あ、二十歳のとき地元でガールズバーを出したこともあったな~。売り上げもすごいよかったんですけど1年半くらいやって、私は東京に出てきちゃった。オープニングで働いていた子を店長にして経理関係は母親に任せる感じで。それからも結構続いていて、ついこの間まであったんですよ」

 ついついこちらが食いつきたくなる話題を振ってくれる。インタビュアーとしては非常にありがたい限りだ。

「うちの母親、ずっと水商売をやっていた人で、二十歳のころには自分のお店を出したって聞いていて。私、負けず嫌いだし、よく母からも『なんで私にできることがあなたはできないの』って言われていたし、二十歳でお店を出さないと負けた気がしていた、というのが大きかったんですよね」
 

母が家出。残された家族の生活は一変した

 亜梨沙の両親は共働きだ。父は飲食店を経営し、母親はスナックを切り盛するかたわら、ホームエステを営み化粧品の販売にも精を出していた。両親は忙しかった。子どものころは寂しい思いをすることがあったが、家庭は裕福で経済的には恵まれ、何不自由ない暮らしをしていた。

 そんな亜梨沙の生活が一変したのは16歳のとき。母親が家を出て行った。
「お母さんがウツ病になってしまったんです。よく喧嘩もしていた。お父さんの暴力がひどくて。私や弟の前でも殴る蹴るは日常茶飯事。ある日、お母さんが殴られて歯がピューンって飛んでいくのも見ちゃいました」

 母はしばらく親戚の家に身を寄せていたが、すぐに一人暮らしを始めた。ウツの原因は父親との不仲だったという。

「そもそものきっかけは、私が生まれる前にあったお父さんの不倫。私がお腹の中にいたときによそに女の人を作ったみたいで、しかも向こうも妊娠して、認知もしてしまったって聞きました。そのときお母さんはベビーベッドに寝ている私を殺して自分も死のうと思ったって。でも殺せなかった。『我慢して生きていくしかない、娘、息子のため』って自分に言い聞かせたみたい。大人になってから聞いたんだけど、セックスしなかったらぶん殴られたりしたこともあったみたい。それでも暴力が私や弟に向けられないように、自分が我慢すればいいって思い続けた結果、ウツ病になってしまったみたい」

 淡々と亜梨沙は話していく。母が出て行ったのち、残された亜梨沙と父、弟での三人暮らしが始まった。

「お父さんもお母さんがいくなって気がおかしくなっちゃって、虫の居所が悪いと『この出来損ないが!』って私も殴られていた。しかも仕事もできなくなって『お金がない、お金がない』って言うようにもなったし。ほら、高校って修学旅行の積立金とかあるじゃないですか、そういうのもそのうち払えなくなってしまって。お父さん自身はエリートと言われる大学を出ている人だから、勉強をあまりしない私のことが気に食わないのもあったと思う。家の中がずっとそんな感じだったし、お金に関しても『ちょうだい』って言える雰囲気じゃなかった。自分でどうにかしなきゃって思って、キャバクラでバイトを始めました」

 未成年であったが、地元のキャバクラに潜り込み、キャバ嬢として働き始めた。

「夜8時から深夜2時までキャバで働いて、終わったら家に帰って4時間くらい寝て、また朝起きて学校に行って…そんな毎日でしたね。10代だったから寝なくて大丈夫だったのかも、授業中に寝落ちしたことはあったけど、学校にはちゃんと毎日通っていましたよ。まあ、さすがに今は寝ないと無理だし、同じことできませんけど(笑)。キャバで稼いだお金は生活費と学費にいきましたね」

 高校には毎日、通い、彼氏もできた。彼女の派手なルックスからして、一見すると周囲からは一目置かれるスクールカースト高めのギャルだったに違いない。高校生の頃の亜梨沙をふと想像してしまった。
 

17歳で一家の大黒柱になる

 母親との別居で父親は荒れ続けた。心のどこかで母がいつか戻ってくるのではないかと期待をしていたが、ある日、亜梨沙にも限界がやってきた。17歳のときだった。

「きっかけは本当に些細なこと。その頃に飼っていた犬がテーブルを散らかしたとかそんな感じのことなんだけど、それが父親の勘に触れたのか、夜に怒鳴り始めたのね。そのときにもう我慢できなくなって私も家を飛び出しちゃった、だからといって行く場所なんてないから、夜中にファミレスで途方に暮れていました」

 父親との生活から逃げ出した亜梨沙はやがて母親と暮らすようになる。

「お母さん、マンションを借りて一人暮らしを始めていたんですけど、病気で対人恐怖症みたくなっちゃって仕事もできなくなっちゃったんです。それまで本当に仕事ができる人だったのに。もうこうなったら私がなんとかするしかないなって。まあお父さんと暮らしていたときからキャバクラで働いていたし、贅沢はできないけど家賃や光熱費、食費はそれでなんとかなりましたね」

 17歳にして亜梨沙はいわば一家の大黒柱となった。

「お母さんのこと大好きだった。でもその頃って子どもだったし、やっぱり相当キツかったですよ。遊びたいし、でも働かないとお金ないし、家に帰ったらお母さん具合悪いし。病気が悪化して、ときには買い物依存になるから、とにかくお金がかかるんです。私もお金ないと不安になって死にたくなるし、稼がなきゃって追われていた。ずっと『なんで私だけこんな思いをしなきゃいけないんだろう』って思ってましたね。だから当時ってかなりひねくれてましたよ(苦笑)」

 世間話をするかのようにサバサバとした口調で亜梨沙は話し続ける。

「先生たちも心配して学校にも呼ばれたこともあったけど『わかったようなこと言わないでよ』『そんなこと言ったって私のツラさ、わからないじゃん?』って結局、喧嘩になってましたね。分かってるんですよ、頭では。私だっていろいろ受け止めたいし、でもそうなれない環境とか自分自身に常にイラ立っていました」

 精神的、経済的負担を抱えた当時の亜梨沙にとって、唯一の楽しみは読者モデルの仕事だったという。

「接客は好きだけど、キャバはあくまでも食っていくためにやってただけ。あまり好きじゃなかったですね。いやでもお酒を飲まなきゃいけないし、特に若い頃は色恋で揉めたりするし(苦笑)。読モをやっている時間は救われましたね」

 進学は服飾系の専門学校を希望した。

「ファッションが好きで、デザイナーにはなれなくてもなにかしらアパレルの仕事に就きたいなって漠然と思っていたんです。そんなことを三者面談で話したら、先生の前で父親が『うちにそんな金ねーよ!』ってキレ出して。奨学金というのも考えたけど、所詮あれって…まぁなんだかんだいって借金じゃないですか。さすがにそれは嫌だなって思って。だったら自分が稼げばいいし、稼げば学校行ける、って思いました。きっと高校を卒業できたのも自分で全部払っていたからかも」
 

19歳で母親と心中未遂。もう限界だった

 専門学校への入学金はそれまでの貯金で賄った。服飾の専門学校生、キャバ嬢、ギャルモデル、三足のワラジを履き、地元と都内を往復する日々だった。そして母親の介護も亜梨沙が全面的に担った。

「身の回りのことはもちろん、母親の病院やカウンセリングに私も一緒に行って、先生から対応の仕方を聞いたりしていましたね。私のなにげない言葉で母を傷つけてしまうこともあったから。ただ本当に切羽詰まったことがあって、私もウツ病って診断されました、介護ウツっていうのかな」

 精神的にも限界だった。19歳のある日、亜梨沙は母親と心中を図った。

「激しく落ちたことがあってそのときにお母さんに土下座して『死にたい、でもお母さん残して死ねないし。お願いだから一緒に死んでくれ』って言いました。お母さんも『いいよ、一緒に死のう』って」

 自宅で二人、母娘は眠剤を大量服用し、練炭を炊いた。

「あれってすごいキツイんですよ~!よく『ラクに死ねる』って言われてるけど全然そんなんじゃない。ハンパない頭痛と嘔吐がするんです、でも眠剤を飲んでるから途中で意識失っていて。目が覚めたら病院にいました」

 連絡が取れないことを不審に思った母親の知人が自宅にかけつけ、救急搬送され、母娘は一命を取り留めた。

「今、こうやって生きてるのが不思議なくらいです。私よく思うんですよね、明るい人ほど、その人が持っている影とか闇って深いんじゃないかな、って。いつも明るい子って何かしら抱えているものが多いから」

 モデル、キャバ嬢。「オンナ」を最大限に活かした職業は、10代後半から20代前半の女性にとっては華々しく見えるものだ。溢れるばかりの若さと美しさを世に認められた立ち位置なのだから。「やりたくてもできない仕事だよ」と私が言うと亜梨沙は「そんないいもんじゃないですよ」と苦笑する。光りの強さだけ影があるのかもしれない。

 そのころ芸能事務所に所属していた亜梨沙は雑誌の専属モデルとして活躍し、ときにテレビにも出演することもあった。徐々に母親の体調も安定し、都内にその生活の基盤を置いていくようにもなった。仕事自体は順調であったが、やがて事務所から彼女に振り込まれるギャラの未入金が目立つようになっていった。そんな事務所への不信感が募っていた矢先、AVにスカウトされる。19歳が終わるころだったという。
 

元タレントの肩書に単体デビューのオファーが

「最初はもちろん断りましたよ。でも半年以上、ずっとそのスカウトから連絡があって、やりとりしているうちに徐々に今の事務所に遊びにいくようになって。会長や社長、当時いたスタッフとも仲良くなって、遊びに連れて行ってもらったり。もちろん『あぁ、この人たちはいつか私にAV出てほしいんだろうな』って内心、思って接していましたけど」

 そんな中、とある大手メーカーからのデビュー話を持ちかけられた。元タレントとしての肩書きを存分に活かした単体デビューのオファーだ。ギャラも破格だ。当然、亜梨沙は悩んだ。

「そんなときふと『マスカッツに入れば?』って言われたんです。『彼女たちはAV女優だけどテレビに出たり、タレントとしての仕事もやっていけばいいんじゃない。だってあれ、脱いでないよね?』そんな風な話をしたかな。なんかそのときは納得してしまって。よく考えたらツッコミどころもあるけどいわゆる『間違っていない』っていうやつですね(笑)。あとはキャバやモデルとして働いていたけど、正直、人生を変えたかったというのもあったかな」

 現状を「なにか」変えたかった。

「理屈じゃないかも。キャバは稼げていたけどやりたい仕事じゃなかったし、でも生活していく上でそれしかなかった。だからず~っとモヤモヤしていたの。やりたいことをやっているわけでもないしなって」

 メーカー面接を受け、すぐに撮影の日程も決まっていった。モデルとしての活動を応援していた友人、恋人、親には一切、相談せずにいた。

「デビュー作の撮影前日、ふと『自分が選択したことってとてつもなくヤバいことなんじゃないか』って考えました」

 ことの重大さが改めてリアルに迫ってきた。その夜は一睡もできないまま翌朝、現場に向かい、葛藤と緊張の中、初AVの撮影は慌ただしく過ぎていった。

「撮影して、もう自分のAVが世に出ることが確定して、さぁどうしようって改めて考えましたね。で、そのとき付き合っていた彼氏が広告代理店で働いていたんです。作品の情報って発売1ヶ月前に情報解禁されるでしょ、その人は大手通販サイトの仕事もしていたから、バナーや広告ですぐにバレる環境だったんですよね」
 

恋人は激高。母親からは絶縁をつきつけられる

 恋人には自ら打ち明けた。

「『お前ふざけんなよ。殺す!』って包丁を突きつけられましたね。5年くらい付き合っていたし、将来的には結婚も考えていたと思うんです。だからこそ一層、私に対する憎しみがヤバかったんでしょうね」

 両親の離婚から亜梨沙の苦労をそばで見てきた恋人は、彼女の告白に逆上した。

「でもそのとき、『私、この人に殺されるんだったら本望かな』って思いました。それぐらい情はあった人だから」

 幸いにも警察沙汰にはならなかったものの、AVデビューの話は恋人から亜梨沙の母親に伝えられた。しかし最初、母親は取り合わなかった。

「『何、言ってるの?』『あの子がそんなもの出られるわけないじゃない』って。
母は風俗とかヌードを毛嫌いする人で。そもそもその手のものが大嫌いな自分の娘が、よりによってそんなことするはずないっていう発想。そういうレベル」

 しかし、母親の耳に入ってしまった以上、あとには引けない。事務所の人間も一緒に亜梨沙の母親に電話をかけ説得を続けた。「アダルトなイメージDVD」「絡みといってもVシネ程度のゆるいもの」など大人特有の、何重ものオブラートに包まれた言葉も母親の前にはその効力を発揮することはなかった。

「母親からするとヌードになった時点でダメなんですよね。そのうちに電話も着拒されたし、家にも入れてもらえなくなりました。デビューすることについて会って話すことがないまま、母親とは一切、連絡が取れなくなりました」

 ある日、亜梨沙が引越し手続きのため役所に住民票を取り行くと、それまで母親の戸籍にあった自分の名前がなくなっていた。

「戸籍を抜かれていました。窓口で調べてもらったら私の戸籍はお父さんのほうにあって。そのとき『本当に勘当されたんだ』『絶縁されたんだ』って突きつけられたね。仕事頑張るしかないな~って」

 しかし、亜梨沙は母親への毎月の振込は欠かさなかった。

「事務所の人が電話で話したときにも母親は『もう、お金も送らなくていい、お前の金なんて要らない』って言っていたんですよ。もちろん、払わなくてもよかったのかもしれない。でも口ではそう言っているけど、生活きつくなるのは目に見えているし、会えない、連絡取れない、その中で唯一私ができることはお金送ることしかなかった。責任感といよりも罪悪感ですね」

 デビュー作はヒットし、順調にリリースが続いた。元モデルという肩書きと、ギャルAVの流行も追い風となり亜梨沙は一躍、売れっ子女優となっていった。徐々に彼女のケータイには、見知らぬ電話からの冷やかしの電話も増えていった。地元の知り合いの知り合い、そのまた知り合いだろう、と亜梨沙は語る。

「『若菜亜梨沙ちゃんですか~』とか『ヤラせろよ!』とか色々かかってきましたね。モデルの仲間でも色々言う人もいたし、風当たりは結構強かったかもしれない」
 

母親と和解するも、しかし仕事の話は一切しない

 やがて3作目の作品が発売されたころ、突然、亜梨沙の元に母親から電話がかかってきた。約半年ぶりに母娘は会話をした。

「電話はびっくりしました。なにがきっかけかわからないけど、とにかく母は泣いていましたね。『あなたのやっていることは、私には理解できないし、理解したいとも思わないし、軽蔑しています』って。地元でもいろいろ言われたりしていたし、母にも辛い思いをさせてしまったからその点は改めて私も誠心誠意、謝りました」

 しかし、母の口からは意外な言葉が続いていった。

「『ただ、私がお腹を痛めて産んだ娘には変わりないから。これからは娘として接していくね。仕事だけは許してないし、理解していないし、それだけはわかって』そう言ってくれました」

「娘として接していく」ありがたい言葉だった。
「ただ…」亜梨沙はゆっくりと、しかしはっきりした口調で続けていく。

「ただ私は『ここで引けない、辞められない』そう伝えました。ここで辞めたら、ほら見たことかって後ろ指をされる。『あいつ脱いだよな』『堕ちたよな』って言われて終わるだけ。何かしら結果を残さないと私、辞めれない。そう言ったのをよく覚えています」

 もう後戻りできない。亜梨沙の言葉を聞いた母親は「わかった」そう一言つぶやいた。

「私の熱意や負けず嫌いなところや、言っても引かないところ、いろんなところを考えた上での「わかった」だと思うんですよね。母も我が強い人なので一度猛烈に反対したものを『ああそうですか』とは、すぐには認められないと思うし」

 そして母娘は徐々にその距離を再び縮めていく。今では頻繁に電話で話し、可能な限り亜梨沙も母の元に足を運んでいるという。

「実際に顔を合わせるときは仕事の話は一切なし。ただの母娘って感じで過ごしています。でも私がテレビに出たりして、母親がたまたま見たりすることもあるみたいでそんなときは「お仕事、頑張っているんだね」ってメールが来たり。そりゃ母親からしたらAVは認めたくないのは当たり前。無理やり話して、認めてほしいって思うのはおかしな話だろうし、今はただ頑張っている姿を見続けてもらっているって感じかな。もう認める、認めないっていう次元じゃないかもしれない」
 

父親は大人になった娘にもはや何も言えない

 実は母親と和解をする数ヶ月前のタイミングで亜梨沙は自ら父親にAV出演の話を打ち明けている。

「ずっと連絡取ってなかったのにいきなり『今、恵比寿にいるんだけど近くにいるんだったらご飯食べない?』って父からメールがあったんです。正直、そのときは腹が立った。母と離婚してから慰謝料も養育費も1円も入れなかったし、私が苦労してきた何年かを一切無視していた父親は、私にとっては単なる『憎い人』でしたから。『ふざけんなよ』って気持ちでいっぱいだった。でもなんか…ふと『行ってもいいかな』って気になって会いに行ったんです」

 渋谷で待ち合わせ、寿司屋に入った。父娘はカウンターに並んで座り、ちょうど二貫目の握りに手をつけるタイミングで亜梨沙はこう切り出した。

「私、AV出るんだよね」

「サラっと言ったんです。お父さんが固まっているのがわかりました。当然殴られるのも覚悟していましたよ」

 娘の当然の告白に意表を突かれた様子だった父親だが、すぐにこう言った。

「『そっか。お前の人生だからこれからは親のためじゃなくて自分の人生を生きなさい』って。男だから飯島愛さんや及川奈央さんみたいな人もいるって知っているから『そこから頑張って目指すものもあるかもしれないしね』なんて話もしていました」

 父親は声を荒げることもなく、終始黙々と寿司を口に運んでいった。

「この話をするとみんなからは『寛大なお父さんだね』って言われるんですけど、全然そんなんじゃないですよ。私にあれこれ言える立場じゃなかったってだけ。今更、父親ヅラして説教なんてできないですよ。私も20歳越えた大人だし、『なにも言えない』というのが本当のところですよ」

 切り捨てるように亜梨沙は話し続ける。その後、父娘は渋谷駅で別れた。

「駅前で別れて、しばらくして振り返ったんです、そしたらなんかお父さん、すっごい小さくて。父親ってこわいとか大きい、そんな認識だったけど『こんなに小さかったかな』って思って。そう考えていたら涙が出てきた。複雑な気持ちでしたね。そしてそのとき『いずれこの人のことをいつか許さなきゃいけない』って思ったのも覚えています」

 その数年後、かつて飼っていた犬が死んだという知らせを受けた亜梨沙は父親の暮らす家に久々に足を運んだ。

「お父さんの家のリビングにビデオがたくさん並んでいる棚があって、ふと見たら私が主演のVシネとか棚に飾ってあったんです。私から具体的な仕事の話なんて一切していなかったけど、そのときになって『応援してくれていたんだな~』って思いました」

 父親のことを許す日も遠くない、少し口元を歪ませて亜梨沙は笑った。
 

「胸張ってAV女優やってます」

「この仕事をやっている5年の間にAV女優に対する見方がすごく変わったのを感じるなあ」

 少し遠い目をして亜梨沙は語る。

「私がデビューしたときって今みたいにAVは身近ではなかったな。でも3年位前からかな。街を歩いていて女の子に『ファンです』で声かけられることが増えたんですよね。たった数年でもそういう時代の変化ってあると思いますね」

 5年前には彼女のAVデビューについて地元でもいろいろ噂が流れたものだったが、つい最近、なんと彼らから仕事のオファーが来た。

「『イベントで集客したいから、手伝って』って。一度、脱いだらなにか結果を出すまで引くに引けないって思ってたけど、この時点で少しは認められたかなって手応えを感じましたね。そういう意味でも引退するタイミングを自分で決められるのはありがたいことです、売れなくなって消えていくのはイヤだから」

 この5年間で彼女なりの人生の「区切り」がついた。引退後はタレントとして活動をするものの、いずれは結婚や出産も考えている、と亜梨沙は言う。

「AV業界の人が子ども生むと、女の子が生まれることって多いですよねえ。何かの定めなのかな。そう言ってる私だって子ども生んだら女の子が生まれそう、アハハ。子どもがAVをやりたいと言ったら…う~ん、もちろん最初は反対しますね。だってラクな世界じゃないし、ぶっちゃけ私ももっとラクなものだと思っていたしね(笑)。やってみたら辞めたいと思ったことっていっぱいあったし。『AVをやらなきゃよかった』、『なんで脱いじゃったんだろう』って。だけど一方で自分の選択した道を間違いにしたくなかった。間違ってなかったんだって自分自身に言い聞かせていた部分もあるし、自分を正当化しなきゃならないこともあるしね。そのときはこういうことを話して、もしその子がそれでもやりたいのであればやらせますね」

「胸張ってAV女優をやっています」

 他者に向ける言葉は実は自分自身に向けて発したかったものなのかもしれない。

「私、もし子どもができたらしっかり話すと思う。親にもこの仕事のことを話してきたし。つい最近、現場でもそんなことを話していたんですよ。そのときにご一緒した男優さんは子どもがまだ小さくて仕事のことは知らないけど、幼稚園の父兄は自分の仕事を知っている、とか言っていたな。でもやましいと思うと、途端にやましいことになっちゃう。いつかはどこかで向き合わないといけないことだから」

 

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