好評発売中の橋本治著『福沢諭吉の『学問のすゝめ』』から、一部を抜粋してお届けする、試し読み第二弾。
旧幕府に嫌気がさしていた福沢諭吉。けれども、その代わり政権交代した明治維新政府に、多大な期待をしていた……わけでもないようです。

 福沢諭吉は《幕府の門閥圧政》《極々嫌い》の人だから、旧幕時代の悪口を言ってもかまわないと思っていて、いくらでも平気で言いますが、「天皇」という、当時の人間達にはあまり馴染みのない存在——江戸時代まで天皇は京都でひっそり暮していたので一般の認知度は低かったのです――によって認知されただけの、「徳川幕府を倒した仲間」だけで作られている独裁政権でもある明治政府が、福沢諭吉の徳川幕府への悪口によって「文句のない、いい政府」だと誤解させてしまう可能性は多分にあります。

 自由民権運動に対する独特な、不思議とも言えるような関わり方からして、福沢諭吉は「政権交代」というようなことに関心はなかったのだろうと思います。

 徳川幕府から明治維新政府への大転換は、政権交代でもありますし、徳川軍事独裁政権は明治になって民政に移行したわけですが、福沢諭吉の基本スタンスは、「政府は政府で国民とは別」なんですね。福沢諭吉はそれを前提としていて、自分から政治を動かそうとは考えない。だから彼は「政治に関わろうとはしない人」なのですが、だからと言って彼は「政府に関心がない人」ではありません。

 ではどういうスタンスで政治と向き合えと『学問のすゝめ』で言ったのか? 政治編(3)へ続きます。明日7月9日(土)公開。

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