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2016.07.01

『日本全国津々うりゃうりゃ』文庫発売記念!試し読み「神津島」パート1

東京都に砂漠があるらしい!? しかも海の向こうに! こいつは面白そうだぞ。
《著者渾身のイラストいっぱい!特別記念版》

宮田 珠己

東京都に砂漠があるらしい!? しかも海の向こうに! こいつは面白そうだぞ。<br />《著者渾身のイラストいっぱい!特別記念版》

外国まで出かけなくても、日本にはまだまだ知らないところ、面白いところがたくさんあるんだなーと、宮田さんのエッセイを読むとよくわかります。
しかも、宮田さんが出かけると、なぜか行く先々で面白い出来事が起きちゃうわけです…。
ということで、ただいま人気急上昇中の、爆笑試し読み。次なる旅先は神津島です。
知ってますか? 神津島。伊豆七島です。島というからには、船に乗ります。いざ!

*   *   *

 東京に砂漠があるという。
 昔そんなタイトルの歌謡曲があって、そこでいう砂漠は、潤いのない土地という意味のメタファーに過ぎず、本来の地質学的な砂漠の意味ではないと思っていたのだが、どうやらそれは本当にあるのらしい。ちっとも知らなかった。
 いったい東京のどこに砂漠があるかといえば、伊豆七島にあるという。日本に砂漠があるというだけで驚きなのに、東京都にあるとは。
 面白そうなので、行ってみることにする。
 そうしてテレメンテイコ女史とともに、浜松町の竹芝桟橋から23時発の大型客船さるびあ丸に乗りこんだのだった。
 この船は、翌朝早く伊豆大島に寄港して、その後利島【としま】、新島、式根島を経て、最後は神津島【こうづしま】で折り返してまた竹芝に戻ってくる。眠ったまま島へ向かえるので、週末を利用して島を堪能しようという社会人には、実に便利な船だ。
 この日も、平日にもかかわらず船はほぼ満員。あまり話題にのぼらないが、知らないだけで実は多くの観光客が行ったり来たりしているらしい。
 デッキに出ると、若者の団体客や釣り客とおぼしきおっさんやカップルなどで賑わっていた。われわれも一見まるで不倫カップルのような体裁になっているが、実態は編集者と物書きというかなりぎこちない間柄であるから、写真撮ってあげたからといって、そちらも撮りましょうか、とか気を使ってもらう必要はまったくないぞ若者。

さるびあ丸

 さるびあ丸は、いつの間にか出航すると、徐々に速度をあげながら東京湾内を南下していく。あれほど間近にそびえ立って見えていた高層ビルの夜景も、みるみるうちに地べたにはり付くかのように小さく縮んで、われわれの頭の上にはでっかい夜空が広がっていった。
 地上にいる限り、東京都心ではなかなかこれだけでっかい空を拝むことはできない。それがひとたび海に出れば、いきなり空がでかいのだった。やっぱり空ってもんはでかくないといけない。
 以前、同じ竹芝桟橋から、かめりあ丸という同様の大型客船で八丈島に行ったことがあるが、そのときは東京湾を出ないうちから、船のたてる波が青く光りだし、何かと思えば夜光虫だったことがあった。船の灯が当たれば見えなくなる程度の淡い光だったが、それはそれは幻想的で、東京湾にもこんな自然があったのかと驚いた。今回も見てみたかったのだけれど、さすがにいつも同じ場所にいるわけはなく、今夜の東京湾はただただ暗い海面が続いている。
 テレメンテイコ女史は夜行船は初めてだそうで、なんとなく浮かれていた。海の上で聴きたかったというお気に入りの音楽にひとり浸っている。
 わたしはだんだん風が冷たくなってきたので、最下層のざこ寝船室に下りて、先に眠ることにした。
 船室のぺったんこのカーペットに横になって毛布をかぶると、昭和に戻ったような気分だった。
 飛行機や列車の旅がどんどん進化し、スピードや乗り心地がみるみる様変わっていくのに対し、大型船のざこ寝船室の風情は昔から全然変わらない。船室に窓はなく、華やかなものや最新鋭の機器なども何もなく、無地のカーペットが殺風景に広がっているだけ。進化のしようもないのだろう。
 だいたい伊豆七島に遊びに行くこと自体、昭和っぽいことのような気がすると言ったら、島の人たちに失礼か。なにしろ今ではみんな島に行くといえば沖縄やハワイやその他海外の島をイメージするのであって、東京都にある小さな島々は、それに比べてたいして行く価値がないと思われていそうである。
 しかし伊豆七島は、行ったことがない人が想像しているより、はるかに大自然に満ちている。東京都だからといって侮【あなど】れないのだ。
 わたしはこれまでに、式根島、新島、三宅島と、八丈島を何度か訪れているが、火山あり複雑な岩礁ありのダイナミックな地形、そして海の透明度といったら、それはもう相手が沖縄であろうとどこであろうと引けをとらない。八丈島で潜ったときは、自分の下に海に差し込む太陽光のカーテンがゆらめいて、それが海の奥深くへどこまでも続いており、眺めているうちに、つられてどんどん潜っていってしまいそうな、そうしたらハイパードライブ空間に突入してアルデバラン星系にでも行ってしまいそうな、そんな感覚を味わった。
 それだけではない。わたしが念願のイザリウオあらためカエルアンコウを初めて見たのも八丈島だったし、憧れのウミウシ、コンシボリガイを見たのも、美しいフリソデエビを見たのも八丈島だった。

フリソデエビ

 ダイビングならともかく、これらの生き物をシュノーケリングで見るのは、なかなか難しいのだ。なかでもコンシボリガイの、まるで自ら発光しているかのような透明な美しさといったら、宮古島で見たミガキブドウガイを凌ぐほどで、コンシボリガイはこれまでにわたしが見たウミウシベストワンに認定されている。

コンシボリガイ

*   *   *

美しい海の生きものたちに思いを馳せる宮田さん。
…あれ? 目的は、海の生きものじゃなくて、「砂漠」じゃなかったっけ??
とにかく、次回はついに神津島に上陸です。
――もしかして、次回の更新、待ちきれないですか!? ですよね! わかります。
書店に行くと、『日本全国津々うりゃうりゃ』が、文庫サイズでかわいく鎮座してますので、一冊いかがですか(^^)
 

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