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2016.07.25

ノワールな奴らが繰り広げる超辛口な潜入捜査劇(『ハイエナ 警視庁捜査二課本城仁一』吉川英梨)

香山 二三郎

ノワールな奴らが繰り広げる超辛口な潜入捜査劇(『ハイエナ 警視庁捜査二課本城仁一』吉川英梨)

『ハイエナ 警視庁捜査二課本城仁一』吉川英梨
幻冬舎文庫/800円(税別)

 

 警察小説に女性作家が進出し始めたのは1990年代。髙村薫の直木賞受賞作『マークスの山』(1993年刊)を皮切りに、柴田よしきの横溝正史賞(現横溝正史ミステリ大賞)受賞作『RIKO女神の永遠』(95)、乃南アサの直木賞受賞作『凍える牙』(96)とのっけから高質な作品が相次いだ。特に柴田作品と乃南作品は女性警官を主人公にしており、のちの女性警官ものにも少なからず影響を与えている。

 警察が男社会であることは周知の事実。近年は女性の採用、登用が進んではいるものの、人数的にも体質的にもまだまだ男中心の組織であることは論をまたない。女性警官もまずはその中でどうすればうまく立ち回れるかが問われよう。当然ながら、ミステリーにおける女性警官ものもそうした視点に立ったものとなる。男社会にうまく同調するか、それとも突っ張って浮いた存在になるか、いずれにしろ男性警察官にはない苦労を強いられることになるわけだ。女性作家が描く女性警官もののほうが厳しい視点に立った、より客観的でリアルな作風になりがちなのもむべなるかな。

 2008年に『私の結婚に関する予言38』で第三回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞してデビューした吉川英梨は、その後2011年刊の『アゲハ 女性秘匿捜査官・原麻希』から警察小説に進出、同作は人気を得てシリーズ化されたが、売りはやはりヒロインの造形だった。いささか暴走気味ではあるが、リアルでパワフルなキャラクターに特徴ありということで、原麻希はその後警視庁捜査一課から鑑識課、再び捜査一課と異動し、一三係の係長になるなど活躍を続ける。シリーズも「警視庁『女性犯罪』捜査班 警部補・原麻希」シリーズと改称して継続中だ。

 その吉川が初めて男性警察官を主役に描いたのが本書『ハイエナ警視庁捜査二課・本城仁一』である。

 捜査一課ではなく、捜査二課。詐欺や贈収賄、選挙違反、通貨偽造など知能犯を捜査するセクションで、本城は政治家や役人の汚職を追う第四知能犯捜査一係――通称四知――係の係長だが、原麻希と同様、やはり暴走癖あり⁉ 冒頭彼は、復興庁官僚に横領疑惑がかけられている案件で、その証拠を握る男を追って部下とタイに赴くが、男は国境を越えて逃げ回ったあげく自殺してしまう。その責任を問われた本城は、左遷を前提に休暇扱いとなる。

 その頃東京では悪質なオレオレ詐欺が横行していた。詐欺店舗の管理、運営を務める「番頭」の味田は、被害者の家庭状況をつぶさに調べたうえで騙しにかかる狡猾な手口で犠牲者を増やしていたが、その詐欺グループが本城にも関わってくる。本城の息子・智也は警視庁に出向中のキャリア官僚だったが、本城が左遷をいい渡された夜、その智也から、昏睡強盗にあって警察手帳を奪われたと相談を受けるのだ。本城にその捜査をしてほしいと。手帳の紛失が露見すれば、出世の道は閉ざされる。その後智也から、詐欺グループの番頭と名乗る男から連絡があり、手帳をネタに捜査の手を緩めるよう脅迫を受けたという一報が入るが……。

 かくして本城は智也のために、味田の詐欺グループへの潜入を図ることに。本書の作風をひと言でいえば、潜入捜査ものであるが、正規の捜査ではなく、本庁にも内緒の秘匿捜査。本城は30代から知能犯係ひと筋に生きてきた無骨な男で、家庭では役立たずも同然だった。折しも本城家では老母の介護と智也の嫁の出産が同時進行中で大わらわの状態、その意味では渡りに船ではあったが、彼の心中は複雑だった。しかし捜査となれば半端なことは出来ない。彼は味田にいちど顔を見られており、彼の組織に潜入するには面相を変える必要があった。彼は髪を染め、引き抜き、頬をこけさせ、東北の出身者を装うべく方言まで習う。

 本書の読みどころは、まずはそうした本城の刑事魂にあろう。鬼刑事ではあっても、家庭では役立たずというところが何ともリアルであるが、そう感じるのは別に筆者が男だからというわけではないだろう。リアルといえば、味田率いるオレオレ詐欺グループの手口や内情も生々しい。髙村薫『マークスの山』では、それまで詳しく描かれなかった重大事件の初動捜査のあらましが活写され、話題を呼んだ。本作はその伝統をみごとに受け継いでいる。警察、犯罪者双方の内情を細部まで押さえたその筆力はあっぱれなもの。

 本城の捜査は二転三転し、最後まで予断を許さない。その顛末は必ずしも爽快なものではないかもしれないが、警察や官僚の闇を浮き彫りにするという点ではいかにも現代の社会派ミステリーらしい読み応えがあるに違いない。

 本城にリベンジのチャンスは訪れるのだろうか。

『ポンツーン』2016年7月号より

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