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2016.06.24

『日本全国津々うりゃうりゃ』文庫発売記念!試し読み「妙義山」パート2

体力自慢の中年男子も、思わず弱気になる妙義山。ただし、景色はとっても綺麗!
《カラーで読める!特別記念版》

宮田 珠己

体力自慢の中年男子も、思わず弱気になる妙義山。ただし、景色はとっても綺麗!<br />《カラーで読める!特別記念版》

いつもの“段取り女子”テレメンテイコ氏と、体力自画自賛の杉江氏とともに、「星穴アタック隊」を組んだ宮田さん。
この3人で、日本三大奇景の一つとされる名山・妙義山に挑むことに。
ほんとに、大丈夫なのか、この3人で……!?
冒頭からもう心配! 妙義山歩き。

     *   *   *
 さて、梅雨まっただなかの7月初頭、われわれ星穴アタック隊は、関越道から上信越道へと車を走らせ、松井田妙義ICで降りると、中之嶽神社の大駐車場に車を乗り入れた。梅雨だというのに空は見事に晴れ渡り、絶好のアタック日和である。
 駐車場から見上げただけでも、妙義山はすごい山であった。

 急峻な岩峰がいくつもそそりたち、まさに山水画の世界。日本で一番かっこいい山なんじゃなかろうか。
「やっぱり、近くで見るとすごいですね」
 杉江氏もしきりに感心している。
 われわれが目指すのは、いくつもの鎖場をクリアしながら、石門と呼ばれる石に穴の開いた場所を通過し、大砲岩という不思議な形の岩を攻略し、さらには長い山道を通って「本読みの僧」を見物し、最後は妙義神社に降りるという片道約3時間半のコースで、そのどこからも星穴は見えないんだけど、かなりの難コースであることが予想されている。なんたって「関東ふれあいの道」だからな。岩と触れ合うギリギリの……(以下略)。
 車道をしばらく歩き、石門入口から登山道に入る。
 朝まで雨が降っていたため、山に入ると湿気が高く、地面はぬかるんでいた。気になるのは岩肌が濡れていることだ。岩場は滑りやすくなってるだろう。
 実際、登山道に入ってすぐ、〈かにのこてしらべ〉なる岩があって鎖がかかっており、いかにも足元が滑りそうである。そもそも鎖も濡れているのであって、手だって滑りそうだ。
「うわ、いきなりこんなですか」
 杉江氏は早くも不安げである。
 だが、そうはいっても、高さにすれば3メートル程度で、ビビるほどの岩ではない。児童公園の遊具でもこのぐらいは登るだろう。
〈かにのこてしらべ〉を登ると、そこはもう第一石門であった。
 石門というのは、さっきも書いたが、岩に人の通れる穴が開いているところで、そのような場所は普通は、ふたつの岩がもたれあって人が通れる幅の隙間があるとか、岩の割れ目が入口状であるとか、岩壁にうがたれた洞窟であるとか、そういう感じだが、妙義山の石門はアーチである。最初っから門。門として造りました、とでもいうような本格派だ。富岡鉄斎の描いた把手みたいな岩は、ねつ造でも誇張でも何でもなかった。どうしてこんな岩ができるのかとても不思議である。

 すぐに第二石門も見えてきた。
 その手前で〈かにの横ばい〉と呼ばれるルートに突き当たる。鎖を頼りに、斜めになった岩肌を横移動するポイントだ。
 といっても、いまだ新しいピッカピカの太い鎖が打たれ、足元の岩は歩きやすいようにステップが刻まれてある。しかも滑ったところでたかだか5メートル程度ずり落ちるだけであるから、たいしたことはなさそうだ。
 ところが、である。
「えーっ。ちょっと待ってくださいよ。大丈夫かなあ」
 数年前からジョギングをはじめ、今では軽くハーフマラソンもこなし、走らないとその日は体調が悪いとまで豪語する、フットサル得点王の杉江氏が、のっけからチキンな発言。この日わたしとテレメンテイコ女史は、体力的に差がありすぎるのではないか、置いていかれるのではないかと懸念していたぐらいなのだが、どういうわけか氏の口から聞かれるのは、さっきから小鳥級のセリフばかりだ。
 それでも何とか〈かにの横ばい〉をクリアし、今度は〈たてばり〉と表札みたいなものがかかるルートにかかる。第二石門まで10メートルちょっとぐらいの岩登りである。

「ええー、こんなとこ登るんすか」
「大丈夫ですよ。足場もあるし。見た目ほどじゃありません。ネット見たら、小学生も登ってましたよ」
 一見、すごそうに見えるが、そもそもこんな表札かかってる時点でたいした場所ではないのである。週末ともなれば、年配の団体客で渋滞するという、そういうルートなのだ。
「うわあ。でも、ここから戻れって言われても困るしなあ。参ったなあ」
 杉江鳥、ちょっとうるさい。
〈たてばり〉を登りきると、反対側も急斜面で〈つるべさがり〉という表札がかかっていた。
 鎖と足場を頼りに、慎重に降りていく。見た目は高度感があるけれども、降りてみれば別に難しいことはない。

「この程度なら滑ってもすぐ止まりますから、大丈夫ですよ」
 そう言うと、
「全然信用できません。宮田さん、さっきからなんかウソ臭い営業マンみたいになってますよ」
「本当に大丈夫ですってば」
「なんか『この本は絶対売れます。これ、社運かかってますから』みたいな、出版社の営業トークみたいに聞こえます」
「それ、自分のトークじゃないですか」
「社運かかってるって本が売れたためしないんですから」
 杉江鳥、何言ってるかよくわからない。
 さらに少し行くと〈片手さがり〉という鎖場があって、その先に第三石門への分岐があり、第三石門は危険なので通過できないそうなので、手前まで見に行こうとしたら、ふたりはついてこなかった。
「どうぞ行ってきてください。僕はここで待ってますから。どうぞどうぞ……ああ、いるんだよな、こういうの。ひとりだけ喜んで、先さき行っちゃう小学生みたいな……」
 小鳥のセリフに、徐々にトゲも混じりはじめている杉江氏。テレメンテイコ女史も、汗だくで言葉少なだ。たしかに暑い。ムシムシする。
 第三石門を見物して戻ると、第四石門は目と鼻の先であった。

 おおおお。
 目に入った瞬間、さすがにちょっとした感動を覚えた。この妙義山中間道のクライマックスとも言える、堂々たる石門だ。
 素晴らしい。まさに富岡鉄斎の絵そのまんまだ。鉄斎もこれを見てあの妙義山図を描いたのだろう。
 そもそもこんな形の岩ができるメカニズムがよくわからないが、杉江氏を見ると、そんなことより、この先2時間以上かけて、妙義神社まで歩く意味のほうがわからないという顔をしていた。

     *   *   *
おお!! 美しい!!
苦労してここまで来た甲斐がありました。
文句ばかり行ってる杉江鳥、この先大丈夫なんでしょうか……?

さて、「妙義山」の回は、次回で終了です。

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